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*15*
evangelical beam(シン×ルナマリア)
【evangelical beam】


「うわあ〜……、化けたねえ〜……。……ちょっとかっこいいかも」
 目の前の、サファイアブルーの瞳を丸くしながらしみじみとそう言った少女を、シンは憮然とした表情で見下ろした。快晴、教会、穏やかそして厳か。およそこの環境には合わない態度、その表情。
「……“ちょっと”で悪かったな」
「なによぅ、褒めてあげたのに」
 その言い方は彼女の姉にそっくりだ。いつもはツインテールにしている赤い髪を、今日はふわふわくるくるとした感じで横から垂らしている。パーティー用のドレスも短い裾の膨らんだ淡いピンク色。彼女の雰囲気に良く似合った格好だとシンは思った。
「でも、あのシンとルナが結婚、ねえ。ルナのやつ、シンのどこが良かったんだろ?」
 茶色の前髪だけをメッシュに染めたスーツの少年が腕組みをして難しい顔でそう言うと、赤髪の少女が大袈裟に、
「でしょでしょ!?わたしもお姉ちゃんに何回もそうやって訊いたんだけどね!もうほんと謎!」
 なんて言うものだから、シンも不機嫌さを隠すこともせず、“放っとけよ!”と吐き捨てた。
「だいたい……!何でお前らが来てるんだよっ。呼んでないだろうが!」
 シンの剣幕も素知らぬ顔、と言った様子で“お前ら”と呼ばれた二人がきょとんとなる。
 メイリン・ホーク。ルナマリアの妹。
 ヴィーノ・デュプレ。シンとルナマリアの士官学校からの同期の少年。
「何でって、お前、結婚式だからだろ?」
 “お前”と呼ばれた新郎――シンはぐっと言葉に詰まった。
 先の大戦から幾月。
 混乱を極める世界の集束は素早かった。プラント評議会新議長と地球連邦軍の代表との手腕なのか、はたまた世界が戦争と混乱に疲れ安息を求めていたのか。
 軍内の大幅な再編の後、シンは大戦時から変わらずザフト軍に所属。同僚のルナマリアも同じく。茶髪にメッシュのヴィーノもやはり以前と同じくして整備士業務を続投し、しかし一方でルナマリアの妹のメイリンは軍の管制官を退役した。
 世界が徐々に落ち着きを取り戻しながりも今の情勢に順応しようとして変わっていく中、シンを取り巻く環境も一個の生き物のようにうねり、変わってゆく。
 今日のこの日だって、世界のうねりからしてみれば、ほんのちっぽけな事でしかない。だけど、シンにとっては人生のターニングポイント。そしてシンを良く知る人物からしてみれば、一大事件。
 シン・アスカとルナマリア・ホークの結婚。
 そう。シンは今日、ルナマリアと結婚するのだ。
「あんたね……」
 メイリンがずいと顔を寄せてくる。ルナマリアに似つつもどこか幼さを残した面立ちに、剣呑としたものが浮かんでいた。
「お姉ちゃんの花嫁さん姿、独り占めするなんてずるい!たまたま情報掴んだから良かったけど、もし見れてなかったら一生恨んでたから!」
 あまりの迫力に思わず怯んでしまう。自分達の結婚式の日程をどこから知り得たのかは分からないが、さすが情報の扱いに詳しい元管制官とでも言うべきか。
「まあまあ、な!オレ達にも祝わせてくれよ。お前らとは付き合い長いし、友達なんだからさ」
「そうよ!それに、こういうのって、ちゃんと上司の人とかも呼ばないといけないんだからね!」
「それは無理よ。シンったらそういうところ全然気が回んないもの。だから二人だけでしようって、手筈だったのに」
 聴こえた声に、はっとなる。声のした方向を振り向いた。
「お姉ちゃん!」
「ルナマリア!」
 純白の豪華なドレスに身を包んだルナマリアの姿があった。
「まったく、メイリンったらいつもどこで情報仕入れてくるわけ?」
「だって、だって、お姉ちゃんのウェディングドレス姿、見たかったし、お姉ちゃんのブーケ、……欲しいもん!」
「あんたってば、それが目当てね……」
「なんかお前、別人って感じ。ほんとシンにはもったいねえよ!」
 三人のやり取りを、シンは半ば他人事のように眺めていた。何だか見ているものと、これからの自分の行く先と、突き付けられた状況が合致しない。頭では分かっていても実感が湧かない。
「お姉ちゃん、きれい……!」
「ちょ、やだ!メイリンってば何泣いてるのよ!」
「だってえ……、お姉ちゃんがお嫁に行っちゃうんだって思ったら……」
 泣きじゃくる妹を呆れつつも宥めるルナマリア。姉と妹。かつていた自分の妹を思い出す。天真爛漫で甘えん坊だった妹。お兄ちゃん、と自分を呼びながら後ろをくっついてくることの多かった妹。彼女がもし今の自分の姿を見ることが出来ていたとしたら、一体どんな顔をしただろう。“カッコいい”なんて言って喜んでくれただろうか。それとも“似合わない”と言って笑っただろうか。いずれにしても、どんな反応にしても、もう見ることは叶わない。妹の顔も、声も、温もりも、この世界のどこをどれほど探しても、どこにもない。
「お姉ちゃん、幸せになってね、絶対絶対幸せになってね……!!」
「よしよし」
 こうやって触れあう二人がとても微笑ましいし、それでいてとても、羨ましく思う。
「シン」
「あ、うん」
 促しに我に返る。誰も自分達以外に誰も居ない教会の中を見る。がらんとして静寂。“結婚式ごっこがしたい”というルナマリアの希望。しかしその実は形式ぶったことが苦手なシンへの配慮。そんな彼女の思いやりを嬉しく感じながら、着たかったというドレスを纏い弾ける笑顔を見せるルナマリアを愛しく思った。
「行こう」
 シンの白いスーツの腕にルナマリアが腕を絡めてきた。なんとなく気恥ずかしくてむず痒いような、それでいてピリッとした、出撃の時とは違った緊張感がシンを包む。踏みしめた赤の絨毯に慄く。この先に進んでいいものか、無意識に迷う。思わずルナマリアを見る。ヴェールの下のサファイアブルーの瞳が力強くシンを後押しした。目が覚めた。何を迷う必要があるのだろう。
 この先へ向かって。
 未来へと続く第一歩を、ルナマリアと共に踏み出した。
 歩く。一歩、一歩。確実に。
 結婚式のことを詳しく知るわけではないが、シンとて全く知らないわけではない。映像で見た一般の結婚式。今の自分達のそれとはあまりにかけ離れた風景。
 歩く。ゆっくりと。確実に。
 辿り着く。祭壇の前。
 二人だけのギャラリーが見守る。
 神父は居ない。誓いの言葉もない。宣誓書もない。だけど、ルナマリアは笑顔。満足そうな、穏やかな笑顔。シンの手がそっとヴェールを捲る。
「シン、結婚してくれてありがとう。あんたとこんな風に出来るなんて思わなかった。こんなに、嬉しいことってない」
「守るから。おれがずっとルナを守るから……!だから、ずっとずっと……おれのそばにいて」
「当たり前でしょ?これからもよろしく」
「………!!」
 少しだけ屈んで、口付けた。今まで何度かそうしたのとは違った、神聖なものを感じた。唇を離す。ルナマリアがシンをじっと見つめていた。
「……で、あんたからの感想。聞いてないんだけど」
 格好の事を言っているのはすぐに分かった。だから、“ああ”と思い出したように、
「うん。なんかルナじゃないみたい」
 呆れたように半眼になるサファイアブルー。
「それって誉めてるの?」
 首をひねって少しだけ悩む。
「なんて言っていいのか分かんないけど、おれ、ほんとにこの人と結婚出来るのか一瞬思わなかった」
 満足そうに笑う。
「ありがとっ!それ、あんたにしたら最高の誉め言葉だわ!」
 飛び込んできた体を慌てて受け止める。景色。流れてくる。ルナマリア、守るべきものの笑顔。メイリン、泣き笑い。ヴィーノ、茶化すように笑顔。
 突如、教会の後ろのドアが勢い良く開け放たれた。雪崩れ込んできた、声、反応。たくさんの、人、人、人。
「な……!?」
「ええっ!?」
 プラント評議会議長。
 オーブ連合首長国代表首長。
 オーブ軍准将。
 ザフト軍准将――元上官。
 元副長――上官。
 同僚、関係者、他にもシンの知らない誰か。
「どうなってんだ……?」
「メイリン?!あの子、まさか……!」 確信めいた笑みが見えた。悪戯っぽく笑っていた。してやられた顔のルナマリア。しかし直ぐに笑む。
 笑顔が溢れていた。それを眺めながら、結婚がそういうものなのだと理解した。自分はどうなのだろう。先のことはよく分からないが、ルナマリアが嬉しそうなのでそれにつられてシンもやはり微笑んだ。
 赤の絨毯を踏みしめる。二人で歩く。たくさんの、笑顔に見送られて。
 メイリンの前を通った時、
「やっぱり皆に祝福してもらわないと駄目だよ!」
 そう片目を瞑って彼女は言った。
 メイリンに感謝する。すべての自分達を祝ってくれる笑顔に感謝した。不意に確信が湧いてきて、隣りに寄り添うルナマリアに改めて告げた。
「おれ、ルナのこと絶対幸せに出来そうな気がする」
「“気”、って、あんたね……。――でも……、もう幸せかも!」
 自分達に向けられた祝福。たくさんの笑顔。
 訪れた幸せ。一番大事な人の笑顔。
 ――父さん。母さん。
 ――マユ。
 ――ステラ。
 自分の守りたかった人達も、今の自分達をどこからか祝福してくれているのだろうか。
 全ての大切な人々に感謝を。自分達に祝福を。
 ――ありがとう。
 ――ありがとう、おれも――、
「しあわせ、だよ」
 愛しい温もりを力一杯抱きしめる。  上がった歓声すら、心地好い福音のように思えた。




ここまで読んでくださってありがとうございます。

結婚ネタ、ということで、結婚式を書かせて頂きました。とは言っても、テレビで見るようなきちんとなった結婚式をしてるシンが想像出来なくて、でもルナマリアの隣で笑うシンはきっと可愛いんだろうな、と考えるとこんな感じになりました…!ルナマリアのドレスは綺麗可愛くて大人な雰囲気なんだとは思いますが、シンの言葉での表現は難しい、と……^^いつも可愛い二人が大好きです。二人に幸あれ!

このような駄文に仕上がっておりますが、捧げさせてください……!リクエスト、ありがとうございました^^


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あきゅろす。
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