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10万小説
actors are crusher(TOVパーティーメンバー)
【actors are crusher】


 夢と言ってもひとくくりでまとめられたそれには様々な意味合いがある。まず一つは睡眠時においてのそれ。その日一日の出来事を脳が振り返り、整理し、夢となって現れる。そしてもう一つは希望や願望としてのそれ。これをしてみたい。あれをしてみたい。いつかこうありたい。時には生きる糧となり、人の心に活力を与える。
 総じて言えることは、夢というものは素晴らしい。エステルはそう思うのだ。そして今自分達がしようとしているのも、その夢の手伝いなのだから――。
「……ったく、ほんっとくだらない。こんなことしてる暇なんてないはずなのに」
「あら。私はこういうの、結構好きよ。この際だもの。楽しみましょ?」
「ジュディ姐のいう通りなのじゃ。こうなったのも何かの縁。後は寄せる波に身をたゆたわせるだけなのじゃ」
「うう……っていうか、何でこんなことになったんだっけ……」
 エステルは記憶の引き出しを探り始める。

「どうか!どうか!お願いします!」
 以前もこんな調子で同じことを言われた気がする。いや、気のせいだろうか。軽いデジャブを感じながら、エステルはそのやり取りを見守っていた。
「あなた方、凛々の明星にしかお願い出来ないんです!」
 いくつかの仕事もこなし、“凛々の明星”という名前も随分とギルド界に浸透してきているようだ。そんな仲間を見ていると、ギルド員ではないエステルは誇らしくもあり、また羨ましくもある。
 しかし、当の凛々の明星の首領であるカロルは何故か眉間に皺を寄せて困ったような表情を浮かべている。
「演劇ギルド凛々の明星にしか、頼めないんですよ!」
「だからボクたち、演劇ギルドじゃないよ!」
「あ……失礼しました、倉庫整理ギルド……でしたか?」
 これにはカロルも引きつり笑い。
「何でもいいからお願いします!!」
「どうする、カロル」
 ユーリの促しにカロルは口ごもってしまった。
 実は以前にもここ、ナム孤島に訪れた際にこうして頼まれ、半ば無理矢理に劇をさせられる羽目になったことがあるのだが、その時の劇がエステルには面白くて、楽しくて、貴重な経験だったのも記憶に残っている。だから、それもあってか、エステルはつい口にしてしまっていた。
「……あの、やってあげませんか……?その、困っているようですし……」
「お、出たよ。嬢ちゃんの放っとけない病が」
 そう思われても仕方がない。むしろ、そう思われた方が好都合。“やりたい”という願望を懸命に押し隠してエステルは顔を俯かせた。
「というか、これにはあなた方にも責任はあるんですよ……?」
「何それ!何の言いがかりよ!?」
「実は、以前にあなた方に舞台に立ってもらった時の演出が派手だとお客さんに好評で……その、入らないんですよ。今のメンバーだと……」
「ほらぁ、リタがあの時魔術なんて使ったりするから……」
「なっ、あたし?!ユーリとかエステルだって……、っていうか、そんなに派手なのがいいなら派手にすればいいじゃないっ!」
「じゃなくて!」
 舞台前に響いた声に切実さが混じっていることに、エステルは気付く。
「前のも随分と好評で良かったんですが、演劇の範囲を超えてるというか……、あなた方でちゃんとしたものを演じてもらえませんか?お願いします!」
「つまり、あの時のメンバーでもう一度演じて、必ずしも派手なものばかりが面白いのではないことを示す、そういうことかしら?」
「……そういうことになります」
 なるほど。確かに彼の言う通り、事の一端は自分達にある。もとよりもう一度演劇をしたかったエステルの気持ちはすでに決まっていたが、もう何も言わなくても皆の動向も決定した様子だった。
「面白そうじゃの!うちもやってみたいのじゃ!」
 ころころとはしゃぐパティはともかく、以前参加していなかったジュディスも今回は乗り気で、配役があるということでリタは無理矢理で嫌々の参加。
「そちらの騎士の方にも出ていただきたいんですが……」
「もちろんだよ。ユーリ達と共に行動している限りは僕も凛々の明星の一員だ。全力で演じさせてもらう」
「フレン……おまえ、いたのかよ……」
 にこやかに返すフレンに、ユーリが口にした言葉にエステルは危うく同意しそうになってしまった。

「それにしてもさ、今回の役、エステルにぴったりじゃない?」
「ああ、確かにそうねぇ。毒のリンゴを何の疑いもなくかじるとことか?なんとなく嬢ちゃんっぽい感じ」
「おら、無駄話してんな。出番だぞ」

「ほぅら、マグロの赤身よりも真っ赤なこのリンゴ、食べてみるといいのじゃ!」
「あ、はい。いただきます……うっ!?」
「――魔女パティの食べた毒リンゴを食べたエステル姫は、その場に倒れ死んでしまいました。それを見た四人の小人達は悲しみに暮れるのでした――」
「エステリーゼ様!大丈夫ですかっ!ああ、何ということだ」
「だから物食う前には手ぇ洗えってあれほど……」
「そゆ問題じゃないんでない?毒入ってたんっしょ?」
「あら、腐ってたんだとばかり思ったのだけど」
「――その時、小屋の前を通りかかったのは、隣りの国の王子、リタでした――」
「おお、なんと美しい娘だろう。こんな方が死ななければならないなんて……ったく、何であたしがこんな役……」
「――絶望したリタ王子は、眠るエステル姫にそっと口付けをしました――」
(ど、ドキドキします……!)
(な!そんな顔しないでよっ!こっちが恥ずかしいじゃない!)
(お!かわいこちゃん同士が……!)
(馬鹿言ってんなおっさん……ってフレン!)
「エステリーゼ様!いけなーいっ!!」
「きゃあ!?」
「あ、あんた!台本と違うでしょうが!」
「魔女パティ!出てこい!決闘を申し込む!おまえを倒して僕は、エステリーゼ様を助ける!!」
(な……何やってやがんだ、フレンのやつ)
(青年。この展開)
(ええ、結末は見えてるわね。私は嫌いではないけれど)
「ふははは!小人風情が!返り討ちにしてくれる!世界で一番美しいのは、このパティ様なのじゃあ!」
「ったく!何やってんだよ、おまえら……うお!この……蒼破刃っ!!」
「って、ぅおいっ!?青年まで……ぎゃあ?!」
「ふふ、演劇って楽しいわね」
「……あんたら……いい加減にしなさいっ!!グランドダッシャー!!!」

 棺の中からエステルは見上げる。演じる仲間たちを。棺の中からエステルは聴く。観客の、楽しそうな笑い声を。凛々の明星に舞台に立ってくれとすがりついてきた彼。演劇ギルドショータイムの彼は、今どんな思いなのだろう。彼の夢は途切れることなく紡がれているだろうか。
 エステルの位置からは、涙目になっている彼の表情を窺い知ることは出来ない。だから、エステルの心はそんな彼とは裏腹に晴れやかだ。
 夢というものはやはり素晴らしい。その手伝いが出来るなんてなんて素敵なことなのだろう。そうやって夢は生まれ、育まれ、叶えられていくのだ。自分の夢もきっと――。
 全てが終わってハルルで小説を書くことになった暁にはきっと、いや、必ず“演劇ギルド凛々の明星”に演じてもらおう。そうこっそりと決意し、一人微笑むのだった。

「カロルは何の役だったんです?」
「鏡だと」
「人ですらないなんて……もう嫌だ……」
「ワンっ、ワウっ!」
「次はオレも混ぜろだとさ」
「ええ、またやりましょうね」
「嫌だあっ!」「嫌よっ!」




ここまで読んでくださってありがとうございます。

ナム孤島の演劇で意外とノリノリな彼らを見て、あ、意外と真面目にやってるんだ、なんて思ってしまいました。最後はあれなんですけど、そんな学生みたいな彼らも可愛いというか。全力でずれていくのも、それに付き合ってあげるのも、内心でこっそりと楽しむのも、彼らの魅力なのだと思います^^

リクエストをくださった灰音さま。なるべく全員を参加させたくて、こんなことに…ラピードだけは唯一最後まで男前に真面目に演じてくれそうだと思いました^^駄文ですが、捧げさせていただきます。楽しんで書かせていただきました!リクエストありがとうございました!



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あきゅろす。
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