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きっと夢中にさせるから



六道さんは思いの外、いややはり、騒がれていた。顔はやっぱり格好いいのだ、しかも口調は敬語で紳士的なのだ。それに加えて頭も良かった、なっなんてこった!


「………翠、僕」
「六道さん、大丈夫?」
「はい、」
そう言って六道さんは俺の腕を掴んだまま外へ出て行こうとした。いやいや、女子の目が痛い!な…泣いても良いでしょうか


「学校と言うのは恐ろしいですね」
「いや、普段はあんなんじゃないんだけどさ!まあ謎の転校生に興味深々なんだよ」

「そうなんですか…でも翠と同じクラスで安心しました」
嬉しそうに笑う六道さんにタマだった事を忘れそうになった。だって笑ったら可愛いと言うより格好良くてドキドキすんだもん!俺の馬鹿やろう!

「六道さんはまぁ他にたくさん友達つくれるといいね!」
「嫌です」
「はい?」
「僕はあなたと24時間一緒に居たいから学校に行くと言ったんです」
六道さんの言葉にぐるりぐるりと脳内でリピート、ループする。なんだ?どういう意味だ、わからない

「え?「翠っ!」」
いきなり声をかけられて後ろを見れば女の人が歩み寄って来たのは俺の彼女だった、瞬間一瞬にて険しい顔をした。どんだけ嫌いなんだよ!

「もう!今日一緒に行こって言ったじゃない」
「えっあーゴメン」
言うなり後ろの美青年に目を輝かせた、それに気付いて紹介するも六道さんはニコニコ笑うだけで差しのばされた手を取ろうとせず後ろで俺の手を握っていた。詳しく言えば恋人繋ぎだ、何故に恋人繋ぎ!?てか彼女を目の前に浮気してる気分なんですけどっ!しかも男ってゆーか俺のペット!いや今のは語弊がある俺のペットだったタマ!もう何がなんだか分からねー!手汗がや、ヤバい!

「六道骸くん、転校生で俺と同じクラスなんだ」
「ふーん、そうなんだぁ、私翠の彼女ですよろしくね、骸くん」
にっこり笑うアイツに六道さんは思いっきりピッシーと固まってしまった。しかも笑顔のままで、なにをそこまで嫌う!


「まぁ、また連絡する」
何とも適当な逃げ方なのだろうか、俺は手に冷や汗どころではなかった、滝のように汗が出ていた。それに気づいてかギュッギュッと握る六道さんをこれほどまでに殴りたいと思った事があるだろうか!いや!ない!もしタマの姿だったのなら餌を目の前に10分放置の刑に称していただろうに!あー忌々しい、忌々しいっ

こんな俺の言い訳は疑われる事なく、いやチャイムによって安堵の道を通っていった。よかった。これほどまでに口に出して安心した言葉があっただろうか、握られた手に少し、いやかなりの殺意を覚えた


「六道さん、手離してくれませんか?」
「えぇ、失礼致しました」
「なんでそんな事…」
「すみません、僕はその…きっと独占欲が強いと言うか…彼女はオススメ出来ません」
ごにょごにょと語尾を濁す六道さんを疑問に思いつつ翠は少しキツめの口調で言った、いや命令をした

「俺の彼女を悪く言うな」

言葉にすれば実に10文字、勿論漢字表記ではあるが、六道さんにダメージを与えるには十分だったらしい。キャインと鳴き声すら出さずにペタリと耳が伏せられ尻尾すらも丸まってしまったように思えた。だが弁解をするつもりなど甚だ無い

ムカついたのでそのまま六道さんを置いて行った。だってあれだろ?仮にも彼女を悪く言われたら誰だって怒る、俺はスタスタ歩いた所で後ろを向いた、いや…その今更ながらも置いて来てしまった六道さんが気になったからだ


────────いない
「あれっちょ!いないしっ!」
グルリと当たりを見回しても六道さんはいなかった。これはこれでヤバいだろう!いつ犬に戻るかすらわかんないんだし!しかもですね、あれだよ六道さんは目立つから!何かと不安になるんだよ、そりゃ俺だって飼い主だからね!


探し回っていると見慣れた背中があった
「あのさ、六道さん見なかっ……………何してんの?」

頭が真っ白になった、目の前には自分の彼女が見知らぬ男とキスをしていた、詳しく言えば座り込んでいた男に自分からキスしていたのだ、そこから何があったか覚えていない。気づいた時は六道さんに慰められていた



「六道さん…タマ、どこ行ってたんだよ」
「いえ、少しグレていたのですがあなたが余りにも構ってくれないので…どうしたのかと思いまして」

「…………浮気されてた、しかも何か分かんないけど振られた」
「あぁ、それはそれは」
「…………なに笑ってんだよ」
「すみません、実に不謹慎なんですが嬉しくてたまりません」

「……………本当に不謹慎だな」
「これで邪魔者はいなくなりましたし、誰に気を使わなくても良くなりました。僕にとってこれほど喜ばしい事はありませんよ」

「育て方を間違えたか…」
「それにしても翠を振るなんてブスの癖になんて愚かな、あれを厚顔無恥と言うんです。僕がなにか仕返しをして来ましょうか?あなたは泣くべきではありません、むしろ喜ぶべきです」

にっこり笑う六道さんに俺は何故だか抱きついて顔を隠していた、それに六道さんは頭をゆっくりと撫でていた。これじゃぁどっちが飼い主かわからないじゃないか


「大丈夫です、僕はあなたが好きです」

そして挙げ句の果てには犬にまで気を使われていた。この際変な笑い方には何も突っ込まないでおこう、てか俺しっしっかりーっ!



きっと夢中にさせるから






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