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流れないなみだは



「どこへ行くんですか?」
ベッドから出ようとした時、骸は引き止めるようにそう言った。翠は少し驚いたがすぐに笑って骸の頭を撫でた

「汗かいたからシャワー浴びてくる、汗臭いって思われるの嫌だから黙って行こうと思ったのに」
苦笑いを浮かべる翠に骸は返答に戸惑い「早く戻って来て下さい」とだけ言った。それに翠は嬉しそうに笑った


シャ───────────
水が流れた瞬間、噎せる咳を抑えたのを解放した。荒くなる呼吸と下向きの目線に移ったのは流れる赤だった

「もう、無理か」
淀んだ瞳は必死に生にすがりついているように見える。翠は早く脈打つ心臓を確かめギュッと痛みに耐えた




「遅かったですね」
「起きてたの?シャンプーして来たからね、ほら」
骸を抱き寄せ首もとに顔を埋めさせた。

「…心臓が早い」
「骸がいるからね、ドキドキしてる」
「…………バカですか」
「俺は骸バカだよ」
喉を鳴らし笑う翠に骸は目を閉じた

(、少し鳴り方が違う…?)



***

「やぁ」
「げっ」
シャマルは翠を見て明らか分かるように顔を強ばらした

「お前が来たらロクな事起きねーんだよ」
「起きないついでに頼まれて欲しい」
シャマルはそれに来たかと声を漏らした。基本なんでも出来る翠は頼み事をする事は珍しい、いや無いと言っても過言ではない

「記憶少し弄りたいんだ」
「…………なんのために?」
「俺は死期が近づいてる、でも置いていけない人がいるんだ…その子共々死ぬ気はない。でもきっと後を追って死んじゃうような真っ直ぐな子なんだ…だから…」

「自分を消せってか?」
「そう、君の能力なら体に害はないだろ?」

「自分で調合したらいいだろ」
「失敗するかもしれない」
「なに言ってんだ、有名な薬剤師が」
「あの子相手に出来そうにないから頼んでるんだ」
「……………随分な入れ込みようだな」
「結婚しようと思ったんだけど人生そんなに甘くないね、自分で調合した薬では外見保つのが精一杯」
「治せねぇのか?」
「持病だからね、無理かな…それに勘のいい子だから知られる前に事を進めたいんだ」
「言わなくていいのか、好きなんだろ?」

「愛してるから言わないんだ」

リンとした目で言われシャマルは言葉を失った、それは感情の入れ込みようにか自分を頼るまで悪化している体調にかは解らない


「死期はどれくらいなんだ?」
「治らないだろうから…長くて7ヶ月、短くて3ヶ月」

「…………そうか、でもそいつからお前の記憶を無くしていいのか?」
その質問は相手を心配するものでは無かった。翠は少し自虐的な笑みを見せ口を開いた


「俺は骸に心配される方がツラい」





***
(シャマル、骸は勘がいいから部屋で俺と居るときにしてね)
「(それだけ分かってんなら自分治そうとしろよ)」
シャマルはモニターに映る2人を見てそう思った。くれぐれも気配は出すなと言われ慎重に行動を重ねる。モニターに気づかないのはそれほどリラックスしているからか、それともそれを感じさせないように翠が接しているからか、答えは解らない


「(寝た…な?)」
自分で確認するしかなくシャマルはトライデントモスキートを発動させた
首筋を蚊が吸うのを見て翠は髪を撫でた。その顔は悲しみで歪みきっている


「ゴメンね…骸、やっぱり俺…君を幸せに出来そうにない、だから…だから」
骸の頬には涙が数的落ちた

「だから」



「俺を…忘れて」
最後にゆっくり唇をくっつけ翠は嗚咽をこらえた。シャマルはそれを見て目を伏せた




朝目を覚ませば広いベッドが一段と広く感じた、それと同時に異様な違和感を覚えた。何かが足りない気がしてならない

「?」
頬に乾いた何かを感じ触るが解らない
「…………この部屋こんなに広かったでしょうか」
骸は物足りなさを感じ頭を傾げるがいつもと同じ風景だ。マンションに1人で暮らしている、支援してくれるのは施設の時に引き取ってくれた母。


「………………母?」
首をポリポリ掻いてまた頭に浮かぶのは疑問だった

「こんな時期に蚊?」
疑問は次々浮かぶが骸は学校の用意をしようと部屋を出ようとした時自分の名前を呼ぶ何かに勢いよく後ろを向いた


「……空耳、でも誰の声…?」
(骸)と呼んだ声はとても柔らかく考えても出てこない、誰か解らない。だが胸が異常に騒いでいるのだけは確かに分かった


「……………………?」




流れないなみだは
(心に溜まりやがて声にならない悲鳴をあげる事でしょう)






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