第二回作品
リー
【Strong Stronger Strongest!!】
マルクト帝国首都、グランコクマにある軍本部。その中にある死霊使い、ジェイド・カーティスの執務室には、部屋の主であるジェイド。そしてこの部屋には似つかわしくない皇帝がいる。二人はテーブルを挟んで向かい合う形で座っている。
「…んで、ジェイド。久々に帰って来ていきなりの相談ってのは何だ」
悩みは一人で抱え込んで、一人で解決してしまう事の多い親友が、アクゼリュスの崩落から無事に帰って来て一言、相談があるとの事。こんなに珍しい、且つ面白い事はない。
ジェイドが旅に出ている為に、執務室に遊びに行く事も出来ず、今まで以上に退屈な日々を過ごしていたピオニーが食い付かない筈がない。好奇心旺盛な子供のような瞳で見つめるピオニーに対して溜息を吐いてから、ジェイドは口を開く。
「…そうですね。まず最初に…陛下。私が以前ダアトに行った際に子供を助けたという話をした事、覚えていますか?」
「ああ、覚えてるぞ。何年か前の話だよな。確か…捕まって売られそうになった女の子を助けたって話だろ?」
「えぇ」
ジェイドは頷くと、口を閉じてしまう。それに対して焦れたピオニーは急かすように会話を続けた。
「その話が、今回の相談と何の関係があるんだよ?」
「…いたんですよ」
「は?」
「見て、この子は将来可愛らしく成長するだろうと予想していたのにも関わらず名前も聞けずに後悔したあの時の子が、導師イオンの守護役としていたんですよ!これは何の運命かと思いましたよ。彼女と私は結ばれる運命だったのかと!!えぇもう運命に決まっていますよね。間違いないです」
少々興奮気味に捲し立てるジェイドに圧倒されながらも、ふと我に返ると、満面の笑みを浮かべてピオニーは口を開いた。
「落ち着け。ついでに言えばお前は病気だ。帰って医者行け」
「へーいかー?あまり余計な事を言う口は今すぐ閉じさせましょうか?」
「わ、悪かった。言い過ぎた。…にしても、お前ってそんな趣味だったか…?」
親友が幼い女の子が好みであったなど、初耳だ。好みどころか、女に興味すらなさそうな男である。恋愛すらした事があるかどうか怪しいものだ。
「私の趣味はどうでもいいでしょう。それで、相談というのは…」
「何となく言いたい事はわかった。好きになったがどうすればいいかわからんといったところか」
「えぇ、そうです」
ジェイドは眼鏡を指で上げた。それが照れ隠しの為だという事は、何となくではあるがわかる。死霊使いとして恐れられているジェイド・カーティス大佐が、実はこんな人間だと知ったら、他の人間はどう思うだろうか。
自分だけしか知らないジェイドの姿に、微かに優越感を覚えた。
「お前、言い寄ってくる女は沢山いるんだから、こういう時こそ頭の中の引き出しを開いて考えるべきじゃないのか?」
「そういう女性は確かに沢山いますが、自分から言い寄った女性はいないので、引き出しが足らないんですよ。そうでなければ誰が陛下になんて相談しますか」
「何気にこの世の男を敵に回す発言をするな。ってか俺の扱い酷くねぇ!?」
納得がいかずに文句を言うのだが、ジェイドはあっさりと聞き流した。
「…でも、俺、思ったんだけどさ」
「何ですか?」
「純粋な小さい女の子を邪な気持ちで狙う、父親程歳の離れた軍人…どう考えてもシャレにならんぞ」
「う」
ジェイドの動きが止まったのは言うまでもない。
* * *
これはまだ、ダアトで借金の取り立てと闘いながら、子供でも出来る簡単なアルバイトを見つけて仕事をしていた時の事だ。
借りた金を返そうにも返さない状況。「もう少し待って下さい」とひたすら言い続けるしか出来ない両親。大人と子供でいえば当然、弱いのは子供だと思われている。話にならない親よりも、子供で、小さくて弱い自分を相手にした方がいいと考える人間も中にはいる。
その度、盗み見て覚えた譜術や、今までの仕事の中で築いて来た人間関係を使って、うまく乗り越えて来た。
だが、今日は違った。一人、二人ならばどうにかなる大人は数え切れない程に増えていたし、助けてくれる人間もいなかった。この状況で当然勝てる訳もなく、あっさりと捕らえられてしまう。
「この…っ、放して!」
「うるせぇ、暴れんな!!」
抵抗しようとして勢い良く平手で頬を叩かれる。両頬と口端に痛みを感じるが、そんな事を気にしていては連れていかれてしまう。
「大人しくしろ!」
「あ…っ!!」
数人の男によって両手、両足を封じられてしまう。これではもう抵抗する事も出来ない。諦めて誰かに買われるのを待つしかないのかと目を閉じたその時である。
「何を、しているんですか?」
声が、聞こえた。閉じていた目を再び開いて見ると、そこには、青い軍服を着た男が一人立っている。
「どうも誰かの子供の面倒を見ている…ようには見えませんね。その子を連れて行くのは勝手ですが、人身売買はどこの国でも罪になる事を、忘れぬようお願いしますよ」
その言葉に、先程まで抑え付けられていた腕は放され、男達は逃げ出して行く。呆然とそれを見つめていると、その場に残った男の手が差し伸べられた。
「大丈夫ですか?」
「あ…有難うございます」
「いえ、軍人としての仕事ですからね。おや…」
男は何かに気付いたようで、軍服のポケットからハンカチを取り出すと、口元を拭う。
「血がついている。可愛い顔が台無しになってしまいますよ」
「だ…大丈夫です!自分で出来ますから」
彼の顔があまりにも綺麗で直視出来ず、彼の手からハンカチを奪い取ると自分で口元を拭った。そんな姿を見た彼は、微笑んだ。
「それだけ元気なら大丈夫そうですね……何故こんな所で襲われていたんですか?」
「うち、パパとママが大きい借金を作っちゃって。たまに来るの。いつもはどうにかして逃げるんだけど、今日は数が多かったし、場所も人が来ないような所だったから、逃げ切れなくて」
「そうですか。…今日は、偶然私がいたので助かりましたが、次に私のようなお人好しが来るなんてないかもしれません。出来る限りここにいたければ、自分の身は自分で守れるよう強くなる事ですね。それでは、私はこれで」
そう告げると、彼は立ち上がり歩き出す。その姿を見えなくなるまで見送っていた。
* * *
今、思えば憧れから来た初恋だった。あの人が言ったように強くなりたくて、成り行きで行く事になった士官学校の訓練も真剣に受けたし、それ以外の努力もしてきた。そのおかげでこうして仕事が出来るのだから、感謝しなければならないのかもしれない。
そこで漸く買い出しの途中である事を思い出し、慌てて歩き出す。その時、前方から歩いて来た男とぶつかってしまった。
「痛…っ」
「どこ見て歩いてるんだ!!」
謝ろうと思った矢先に襟を掴まれる。そんな男の行動に、謝ろうとしていた事すら忘れて、男を睨んだ。
「それはこっちの台詞なんですけど!道にいた綺麗な女に見惚れて余所見してたんじゃないの!?」
「何だと!?」
男が拳を振り上げる。
背中のトクナガを操り、返り討ちにしよう等と考えていると、男の拳が振り上げられたまま、誰かに掴まれた。
「その位で許してあげたらどうですか?子供相手に大人気ないですよ」
その声は、聞き覚えのあるハスキーボイス。男が振り返ったと同時に、青褪めた表情に変化する。
「あ、あんた…ジェイド・カーティス…」
「はい。これ以上言う事があるならば、私がお相手しますよ」
ジェイドが微笑むと、男は何も言わずに、早足で立ち去ってしまった。
暫くはそれを見ていたジェイドだったが、地面に落ちた買い物袋を拾うと、こちらへ手渡した。
「どうぞ」
「有難う…ございます」
ジェイドから紙袋を受け取ってから、歩き出そうとした時、後ろから名前を呼ばれた。
「自分の身を守れないようでは、まだまだですね。もっと、強くなりなさい」
その言葉に、あの時自分を助けてくれた軍人とジェイドが重なって見えた。
もしかして、いや、きっと、あの時助けてくれたのは――。
「たーいさ」
「はい?」
「でも、前よりは強くなりましたよね?私、頑張ったんですから」
その言葉にジェイドの目が見開かれる。だが、すぐに笑みへと変化した。
「前に比べれば、ですよ」
そんなジェイドに近付いて、何も言わずに手を握ると、優しく握り返された。
二人の恋が今、静かに動き出す。
後書き
付き合う前のジェイアニですね。時間軸的には、陛下初登場の辺り。
アニスとジェイドがこういう出会いだったとしても、面白いかなぁという勝手な妄想です。正直、出だしは完全に変態な感じの大佐全開でしたね(笑)
ともかく、お粗末様でした。そして、参加者の皆様、お疲れ様です。二回目の企画が立ち上がれたのは正直皆様のおかげです!!有難うございましたー!!
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