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月が嗤つてゐる





僕は知っていた。君がもう既に神様に永遠の愛を誓った事。その相手が僕ではない事。君のお腹には、小さくか弱い心臓が一つ存在する事。たったの三つだけど、僕が君を諦めるのには十分過ぎた。でも、僕が君を愛さなくなるのには足りなかった。
もしかしたら、僕だけが本気で君は遊びのつもりだったのかな、とか。相手の子供を孕んだから仕方なく結婚したのかな、とか。柄にもなく弱気な事を沢山考えたけれど、やっぱりそれは僕の性には合わないみたいだね。僕は本気で君の事を愛していたんだ。だからキスもしたし、身体も重ねた。だって、愛があったから。君だって、僕に愛してるって何度も何度も言ってくれた。好きで好きで、哀しくなるぐらい、愛してる、って。ああ、もしかしたら君はその時からこうなるのを知っていたのかな。知っていて、そうなる事を受諾したのかな。僕と君は愛し合う運命でも、結婚出来ない運命だったのかな。
でも、それって哀しすぎるよ。例え君が運命に受容的でも、僕は絶対に拒絶する。僕の腕の中から消えた君を探し出してみせる。お腹の赤ちゃんが他の男の子供でも良い、出来れば僕の子供だと良いけど、その子も君も絶対に幸せにするよ。仕事だって頑張るし、家事も手伝う。僕に出来る事の全てをしてみせる。
だから、僕のところに帰って来て。まだ間に合うよ。僕は、知っていたんだ。相手の男の事。その男に沢山浮気相手がいる事。その男が君に黙って籍を入れていない事。君の薬指に光る指輪も、他の女のお下がりだって事。それでも君は、愛してもいないその男について行くのかな。

「さようなら、姫。」

僕の愛した姫。僕から消えた姫。
君はやっぱり僕のところに帰ってくる事はなかった。一ヵ月、半年、一年、三年、ずっと待ってもまだ君は帰ってこない。君に別れを告げても、僕はまだ君の温もりの残るこの家で君が帰って来るのを待っている。

何度も過ごす夜は寂し過ぎた。君のいない夜は、月も僕を嗤つてゐるよ。僕は今日も月光の中で一人待ちぼうけ。






あきゅろす。
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