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ただ、迷走しただけで





何が駄目だったのか、今でもちっとも分からない。
とにかく分かるのは、私も、武も。お互いいい彼女、彼氏であるのに疲れた。中学生で言える事ではないんだろうけど、好きだった筈なのに、周りの目を気にし過ぎて、気を使い過ぎて、好きだから悪く見られないよう良く振る舞って、お互いに空回ってしまっただけなんだ。
最早、そんなのは恋人とは呼べないのだろうけれど。
好きだった事は、変わらない。きっと昔も付き合っていた頃も、今の私も、まだ武に恋してる。好き、大好き。この気持ちは本当なんだよ?決して嫌いとかじゃないんだよ?別に武の顔が良くて野球部のエースだから友達に自慢出来るとか、ただ告白されたのに断るのもちょっと相手に同情して気が引けたとか、そんな理由で武と付き合った訳じゃない。
武のちょっと馬鹿なとことか、間抜けなとことか、天然で腹黒だったり、確信犯だったり、意地悪だったり。武の表と裏も、外と中も、全部全部大好きだった。
だから、当然周りが囃立てて武が野球に集中出来ないのも、私の為に野球も勉強も時間を削ってた事も、気付いてて。並中のエースなんだもん野球頑張って欲しいし、志望校もう少し頑張らないとギリギリなんだから勉強もちゃんと集中して欲しいし。私が気付いてる事に武が気付いてるのも、私ちゃんと知ってるよ?それで武が私に心配掛けないように、って気を使ってくれていたのも、全部、分かってたんだから。
ねえ、私達いつからこんなになっちゃったのかな?好きなのに、好きだから、空回ってしまって。結局我が身を滅ぼしてるんだから、おかしいよね。
一年の、付き合ってない時。まだ友達同士で馬鹿やってた時。あの時が一番幸せだったんじゃない?楽しかったんじゃない?気を使う事も、気まずくなる事もなかったあの時が。私達は、あの時のまま進んじゃいけなかったんだよ。付き合っちゃ駄目だったんだよ。

『もう、いいよ武。…別れよう。』

貴方の辛そうな驚いた顔を見たら、自分の口から出た言葉にすら悲しくなって来たけれど。これで、良かったんだ。そう、こうするしかなかったんだ。だよね、武?
私、本当に武なんかに釣り合わない女の子になっちゃった。武の輝いた笑顔は素敵で眩しくて。なのに私は、武にあんな暗い顔をさせてしまったんだ。貴方の隣は、私が居るのには少し辛過ぎたんだ。眩しくて、目を開けられなかった、それぐらいの少し。
横になったベッドの上で、ブーブーと震えた携帯に飛び起きた。そこには、友達―京子の名前。受信したメールに、なんだか開く気にもなれず、またベッドに身体を沈めた。ごめんね、京子、武。

『武、勉強終わった?』

『まあ、ぼちぼちだけどな。そっちは?』

『んー、微妙。でも、武の野球に合わせて同じ学校行くもん。頑張る!』

『ははっ、姫にそう言われちまったら、こりゃ野球も勉強も頑張んないといけねーな、俺。』

『野球はもう天下一確定だから、宇宙一?』

『姫の為だったら、宇宙だって何だってやってやるよ!』

なら、電話だけど指切りね。
そう言って電話越しに歌ったあの時が懐かしかった。今いるこの自分の部屋も、あの時は賑やかだったのに、今は物悲しい。寂しい。携帯のスピーカーから武の声が聞こえる事も、なくなってしまって。もう鳴る筈もない、武からの電話を待ち望む私が馬鹿らしかった。

「自分で、フった…くせに……。」

本当、醜い女だよ、私。毎日毎日、一人になったら武の事ばっかり考えて、自責して。

「……っ…、大好き…なのに…!」

今、武の事を想ってしまえばしまう程、涙は止まらずに堰を切ったように溢れ出した。泣いてもいいかな、今日ぐらいは。いいや、今日は思い切り泣いて、それでもう忘れよう。武との思い出も、武の事も、もう全部。
忘れれば苦しくないでしょ。もう辛くないでしょ。逃げられるでしょ。大好きな武に別れを告げて、あんな顔をさせてしまった、最低女ってこと。
ああ、何が駄目って、私が駄目だったんだ。

「…、……?」

一人失恋の感傷に浸っていると、また携帯が一人でに震え出した。メールを無視してたから、京子が怒ったのかも知れない。いや、京子の性格だから心配させてしまったのかも。
思い切り溜め息染みた深呼吸をして、未だ鳴り続ける携帯に手を伸ばした。途中、涙声を恐れて何度も咳払い。

「…もしもし、京子?」

『あー…、わり、笹川じゃねえんだ。俺、山本だけど。』

勿論、この着信は京子だとばかり思っていたから。少し間抜けに間延びした、懐かしい声変わりが済んだ男の子の声。この声には至極聞き覚えがあって。名乗った通り、やっぱり武だった。
思わず、武からの電話に驚愕してしまった。身体は素直に硬直してしまい、同様に固まった手からは、当然のように携帯が滑り落ちて、床に落ちたガチャンという音だけが部屋に不気味に響いた。
唖然というか、茫然というか、もう、何がなんだか。確かに、私は武をフって。私は好きでも、武に迷惑を掛けてる以上それしかなくて。仕方なかったんだって、もう忘れようって、もう苦しみから逃げてしまおうって。
思っていた筈なのに。

『姫?姫!?大丈夫か…?』

「……あっ…、ううん。何でも、ないよ。」

携帯のスピーカー越しに聞こえた私の名を呼ぶ声に誘われたように携帯を床から拾い上げる。電源を切れば、もう全部終わってスッキリするのに。それを望まなかった私は、やっぱり最低な女だ。
自分の都合で、疲れたからって、武に迷惑掛けたからって、好きなくせにフったんだよ。なのに今更、こうして電話が掛かってきたら、普通に出てしまうんだから。

『良かった…。……姫、俺はまだ本気だから。お前のこと、諦めてないのな。』

嗚呼、頭が酔ったみたいに揺れる。ぐらり、ぐらり。目の前が渦を巻いているみたい。なんで、武はそんな事言うの?
私は思わず瞳孔が開いてしまって、全く何も見えなくなった。武の言葉だけが頭の中に轟いて。声を発する事も、何もかも出来ないぐらい動揺する心に、今は嘲笑を零す事も出来なかった。

『約束、絶対守るぜ。俺が宇宙一になるまで、俺の隣は姫が居やすいようにして空けとく。だから、姫の隣は、俺に空けといて欲しいんだ。』

頼む、と最後に小さく呟いた武に、私はいつの間にか涙が止まらなくなって。電話だと言うのに、ただひたすら首を縦に振る事しか出来なかった。


ただ、迷走しただけで
(愛は衰弱せず)(約束は永遠に)


* * *

か、書き終わった…!
長くなってしまいましたね。結局。
そうして、栄光のアンケート第一位に輝いたのは、山本でした。
私的には意外というか、結構びっくりです。何しろ山本の喋り言葉が未だよく分からないもので←
でも、無事完成出来て良かったです。
密かに思い入れが出来てしまいました…。これはハッピーエンドですが。
山本は多分積極的。だと思います。

何より、50000hitありがとうございました。
ちなみにこれもフリーですので、ご自由にお持ち帰り下さい。








あきゅろす。
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