我が並盛中学校には、絶対犯してはならぬ戒律がある。マフィアのような物騒な人達が暗黙の了解―オメルタというのを守るように、マフィアなんて危険な荒くれ集団ではないけれど並中にも暗黙の了解として、その戒律は重く居座っている。
私からすれば、そんなのもちょっとどうかと思うけれど、自分の身が危険に晒される事を危惧するとそんな反抗心も萎んでしまう。我が身程可愛いって、こういう事なんだなー、とつくづく思う。こんな事でそう気付く私の臆病さと馬鹿さには呆れるけれど。
だって、やっぱり平凡が一番じゃない？大衆と同じように時代の風に乗り、普通と言われる人生を送る。一方の人から見ると、そんなのつまらない退屈だと思われるかもしれないけれど、普通程幸せな事はないと思う。誰からも僻まれる事なく、誰からも蔑まれる事なく。良くも悪くもないそこには、利点はないけど悪点もない。普通程楽な事はないのだと私は信じてる。勉強も根を詰めはしないけれど、人並みにやって、進学するのも丁度並なぐらいの学校。何かに特別打ち込む事もなく、周りのやる事に合わせて普通に、平凡に生きて行くの。現に、私は今まで平々凡々。校歌じゃないけど、大なく小なく並がいいって、本当的を射てる。私の人生は丁度並で、ここまで好調に進んでいる。
だから、皆と同じように並中の戒律を守ってる。それに越した事はない。今まで通り、"あの人"には近付かず、その上従事したように過ごす。
三年間そうだって、思い続けていた。

「……なのに、なのに…一体私が何をしたんですかっ？私の人生計画台無しにしないで下さい！」

中学校に居る間、全教科７０点台を取り続け、可もなく不可もない真面目な高校に進学。そこでも同じように普通の点数をずっと取って、部活は入らないでバイトをして、文化委員会に所属する。普通な毎日を過ごして卒業。学力の平凡な短大に進学して、それからそれなりに大きな会社のＯＬになる。その時同じ会社の人と付き合って、そのまま結婚して寿退社。式を挙げて、新婚旅行にハワイ。二年後に赤ちゃんが出来て、二歳差の姉妹を生んで、専業主婦として夫を支え続けるの。決して裕福でも、豪奢でもないけれど、慎ましく幸せな家庭を築く予定なの！
なのに、今こんなところで平凡幸せ人生計画を打ち崩されては堪らない。相手が例えあの人こと風紀委員長だとしても、私の訴えは切実だ。

「何それ？知らないよ、僕に関係ない。僕は君を風紀委員会の書記にするって決めたんだ。」
「はあ？それこそ何ですか。私の人生計画にそんなの不必要です。」
「…君、僕を誰だか知ってる？僕は並盛の秩序だよ？」
「並盛の秩序？知りませんよそんなの興味ありません。だいたい、貴方こそ、私が誰だか知ってますか？」
「……月代姫、」
「ほーら、知らないでしょう！これが私が今まで頑張った証ですよ。内輪しか知らない、それも平凡に求められる事です。あの人顔は知ってるけど名前なんだっけ…？というぐらいが丁度いいんです。」

よく知らないけど風紀委員長さんに熱弁を振るってわざわざ説明すると、僕君の事知ってるんだけど、と呟かれた。勿論そんな都合の悪いのは聞こえないふり。
こんな普通とは掛け離れたのは、御免だ。とにかくこの風紀委員長さんに私の風紀委員会入りを諦めて貰って、今はさっさと帰りたい。だって、こんなの普通じゃない！ああ、普段は今頃家に帰って本でも読んでいるというのに。神様はなんて悪戯なんだろう。いや、こういう試練を乗り越えてこそ真の平凡にあやかれるのかもしれない。そう、これは神様の思し召しなのだ。打ち崩し乗り越える壁なのだ。

「さっきから平凡、普通って煩いけど、そんなに幸せなのかい？それ。」
「そりゃあ勿論、私はそれ以上に幸せなものはないと思ってます。」
「ふーん……。」

風紀委員長さんは何やらつまらなさそうにそう呟いて首を捻ったかと思うと、その時はチェシャ猫のようなニンマリ笑顔で私を見つめていた。背中にすーっと悪寒がして、ああこの人は絶対に非凡だとようやく気付く事が出来た。
恐怖を感じたのも束の間。

「なら、僕が君にもっと幸せとかいうのを教えてあげるよ。」


幸せの享受と、生贄の平凡
（奪われた平凡に与えられた非凡）（この時から私は彼の計画の渦中だったのかもしれない）


＊　＊　＊

50000hit感謝シリーズです。遅くなって申し訳ありません。
今回はアンケート第三位の雲雀でした。何気に雲雀の普通夢が難しくて…。
加えて、ちょっと面白い変わった夢主で書こうと思ったんです。新しい試みですね。
なんか、ちょっとギャグちっくだと自負してます。決して笑えないし、面白みないのですが、当サイト内でだと。多分その類ですね。

何はともあれ50000hitありがとうございました。

前作に続きこちらもフリーですので、ご自由にお持ち帰り下さい。


荊