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【素直に喜べません】

四限目の終わった昼休み、窓際という一番日当たりのいい席にいる帝人は、うとうととしながらお弁当を誘いにくる正臣を待っていた。


「はっぴーばーすでー帝人!おめでとう!」

「………ほえ…?」


ガラッと壊しかねない勢いで扉を開けて、高らかに叫びながら何やら大きい包みを差し出してきた正臣に、帝人は間抜けな声とともに意識を取り戻した。
クラスメイトもつられたようにパチパチと拍手をし始める中で、帝人は相変わらずぽかんとした間抜け面を晒している。


「なーんだー微妙な顔だな。折角人が杏里と仲良く放課後にデートしてまでプレゼント買ってきてやったのに」

「………付き合ってない男女の買い物はデートって言わないんだよ正臣」

「仲睦ましそうに雑貨を見る男女。楽しそうに笑いながらも親友の事を考えながら実用的でパーフェクトなプレゼントを選ぶ俺様に、杏里が惚れないはずがないぜ……デートになるのも時間の問題だな」

「お弁当食べないの?昼休み終わっちゃうよ?」

「……流すなよ」


さっさと机にお弁当を開いて食べ始めた帝人にがっくりと肩を落としながら目の前の席に座った正臣は、じっと帝人の顔を見つめる。


「…食べにくいんだけど」

「プレゼント、嬉しくなかったか?」

「まさか」


凄く嬉しいよと笑う帝人の言葉にも、正臣は疑うように帝人から真顔で視線を逸らさなかった。


「……覚えてるとは思わなかったんだよ。誕生日、一昨日だったし。喜ぶタイミングがズレた」

「俺が大事な親友の誕生日を忘れるはずないだろー?祝日で休みにうかれた学生の中、家でそわそわしながらピュア全開にしてメールを待つ帝人を想像したら凄い楽しかった」

「…箸って……目潰しに使えるのかな」

「当日メールしなくて本当にすみませんでした」


手に握っている物体を見ながら呟く帝人に、正臣はすぐさま謝った。
目が完璧に座った帝人をからかうだけの勇気など、正臣には存在しない。


「開けねぇの?」

「……家帰ってからにするよ…」


もぐもぐとおかずを咀嚼しながら、最後にご飯をかきこんだ。
昼休み終了まであと10分。急がないとマズい。


「なあなあ、開けねぇの?」

「しつこいよ正臣」

「あーけーよーぅぜーぇ」

「………」


このままじゃ永遠と同じ会話を繰り返すだけだと悟った帝人は、食べたときと同じようにきっちりとお弁当を包み直してから、プレゼントに向き直った。
正直、正臣のセンスは昔から予想を遥かに越えていて、毎年帝人は喜ぶに喜べないでいるのだ。

杏里が一緒に選んだというのが唯一の救いのような気もするが、正臣が人の意見を聞き入れる可能性はよくて2割。
しかも余り意見を言わない杏里が絶対に止めるとは限らないので、どう考えても結果は絶望的だった。


「実用的で、パーフェクトねぇ……」


袋の中に入っていた箱の包装紙を破りながら、帝人は最初に正臣が言っていた言葉を思い出す。
駄目だ、嫌な予感しかしない。


「……正臣、なに、これ」


Rー18と箱の下に書かれていた物体は、開けてはいけないと帝人の中でけたたましく警鐘を鳴らしていた。
ちらりと正臣を見れば、にかっと爽やかな笑顔で親指をたてられる。意味がわからない。


「折角都会に来たんだ。彼女でも作ってアダルティーでめくるめくるピンクな世界を……な?」

「馬鹿じゃないの!?」


顔を赤らめて反論する姿が楽しいのか、ケタケタと笑う正臣に反論しようと立ち上がった瞬間に、予鈴のチャイムが鳴った。


「あ、じゃあ俺次移動だから帰るなー」

「ちょっ……正臣!」


無駄にウインクとかしながら教室を出ていく正臣に文句も言えないまま、行き場のない手を下ろした帝人は、ずるずると椅子に座ってプレゼントを恨みがましそうに見た。


「どこが実用的だよ…馬鹿」


こんな物をいつまでも出しておく訳にもいかないので、袋に戻そうとした時に、袋の奥に何か入っているのを見つける。
小さな黒い箱に入ったそれを開けてみれば、一枚の紙がはらはらと床に落ちた。


「なにこれ……」

『こっちが本命!実用的だろ?杏里のセンスに感謝しろよ!

追伸 もういっこのは俺の趣味だ』


拾った紙に走り書きされた文章に慌てて立ち上がれば、一番前の席に座っていた杏里が振り返って手を振っていた。


「は……はは…」


力なくパタパタと手を振り返して、手元にある紙を握り締める。
箱に入っていた財布を数回見てから、ゆっくりと箱を閉じた。


「お礼、言い損ねたじゃないか……」

(とりあえず放課後に正臣殴ってから、お礼言おう、よし)


放課後の予定を考えながら帝人が教科書を出したと同時に、チャイムが鳴ったのだった。




End

帝人くん誕生日おめでとう!








あきゅろす。
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