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ぽたぽたと身体から滴る水で床を濡らしながら部屋に戻ったテイトは、そのまま力尽きたように床に崩れ落ちた。

外では未だにザァザァと雨が降り続ける中を歩いたせいで濡れた全身は冷え、指先はすっかりと体温を失っていた。
今日の任務で負った怪我から流れる血は水と交ざって、じんわりと床に広がっていく。


『元奴隷が怪我…?』

『肩を多少切られたぐらいで…』

『それぐらい、放っておけ』


痛む右肩とその際された周りの会話を忘れるように、テイトはゆっくりと目を閉じた。


ミカゲが実家に帰ってから、3日が過ぎていた。


『飯、ちゃんと食えよ!ちゃんと寝ろよ!』

『いいから早く行ってこいよ』

『……破ったら、怒るからな』


そう言い捨てて帰ったミカゲを思い出して、そういえばあの日からその言葉を守っていないことに気が付いた。
ちょうどあの日の夜から呼び出され、帰ってきたのはつい先程だ。

目が覚めたら床を綺麗にして、まともな生活をしていたと嘘を吐こう。

怪我もミカゲが帰ってくるまでに治して、何事も無かったようにお帰りって……

ピクリとも動かない指先に身体が限界だと訴えるまま、テイトがそのまま意識を飛ばす直前に、


「テイト!!」


最後に聞こえたのはここにいるはずがない、ミカゲの声だった。



─────……


目が覚めたら見慣れた二段ベッドの天井が視界に映った。


「なっ……!」


ガバッと勢い良く身を起こした瞬間に痛む肩に手を当てればしっかりと包帯が巻かれていて、着ているのも制服から部屋着に変わっていることが、テイトの中で更に疑問を増やしていく。


「お、起きたか」


コンコンコンと、律儀に3回ノックされた扉から入ってきた人物に、テイトは今度こそ信じられないとばかりに口を開いたまま固まった。


「出血による貧血と不規則な生活で栄養不足に過労プラス雨に濡れたせいで微熱。他に疑問はあるか?」


土鍋を持ちながら器用に入ってきた人物は、近くにあったテーブルにそれを置きながら、いつもとは違って淡々とした口調でそう言い放った。


「何で…ミカゲが……」


思ったことを素直に口にすれば無言のまま睨まれて、その雰囲気にテイトは顔を反らす。


「テイトが心配で帰ってきたんだけど、」


いいながら目の前に立つミカゲは複雑そうな顔で、続きを口にした。


「帰ってきたら倒れてるし、怪我してるし、何か冷たくなってくし……っ!」

「おわっ!」


ぐしゃぐしゃと頭を掻き混ぜられて、テイトは抵抗もせずにミカゲの言葉を待った。


「心配した」

「……うん」

「あと約束破ったからすっげー怒ってる」

「………うん、ごめん」


ぐしゃぐしゃにした髪を梳きながら言うミカゲに謝れば、許さねぇと額を軽く叩かれた。


「母さんが作ったまっずい栄養満点の野菜ジュースと、食堂のおばちゃんが作ったお粥食って風邪治すまで絶対に許さないからな」

「……、ミカゲ」

「なんだよ……まだ怒ってるから……な…?」

「お帰り、ミカゲ」

「……おぅ」


漸く言えた言葉にただいまと返されたことが嬉しくて、テイトは頬を緩めたのだった。




End









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