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ふとその少女をみると、積み荷の木箱に背中を預けて小さく座っている。リンクやナビィが少女を責め立てる気などさらさらないことは分かっていても――分かっていてこそ、申し訳なくなってしまうのだ。

「ねえ」

リンクはゆるく口角をつりあげて言った。

「そろそろ名前で呼びたいな」

うつむき加減の少女が顔を上げると、目があって、リンクはにこりと笑った。
一方少女は悲しそうな顔をすると自分の抱え込んだ両膝に視線を落とした。

そういえば私、まだ自分の名前すら思い出せてない。

「ご、ごめんなさい…わたし、」

「そうじゃなくて。何でもいいんだよ、いつまでも"キミ"とか"アナタ"じゃ仲良くなれないだろ?」

「……」

このふとした優しさに胸が締め付けられる。でも同時に惨めになる。与えられるだけじゃ、この人を幸せにしてあげられないのに。背中を預けてもらえるくらい対等な存在になりたいのに。
しかし少女も確かにこのままでは色々と不便だろうと思ったので、少し顔を上げて応えた。

「今考えるんですか?」

リンクとナビィが同時に頷いた。
さて困った。自分自身に名前をつけるとなるとなんだかやりにくい。

髪の色、瞳の色、イメージ。
頭の中で連想ゲームが広がっていくが、これといった名前は思い浮かばない。

「うーんん…」

「じゃ、今日の課題はソレ」

そういうとリンクは勢いよく幌の切れ間をめくった。明るい日差しが荷車の中に広がると、そろそろだと言った。
彼の言った通り、馬車のスピードは次第に落ちてゆきやがて止まった。

《この先カカリコ村》

場所を降りるとすぐ近くに確かな事を示す看板が立っている。看板の足元からのびる階段を上がってゆけばカカリコ村はすぐそこだとナビィは言う。

「ほら、カカリコ村だよ!」

「ありがとうございます」

「いやあ悪かったね剣士さんたち―――って、あれ?」

「お嬢ちゃんどこかで見た顔だなあ。おじさんと会ったことあったっけ?」

「!!」

「本当!?」

「んーいや、やっぱり会うのは初めてかも…どっかで見たんだよなあ…はて、どこだったか……」

男は人差し指と親指で自分の顎髭をいじる。
そして少女に合わせられたピントはふと少女の背後にそびえる岩壁に移った。そこには同じ貼り紙が並べてある。

そしてだんだん、だんだん、
男の顔は血の気を引いた蒼白に変わっていく。

「あああ…!おまえは!!」

「えっ、お、おま…え?」

「ち、ちくしょうなんだってこんな所まで…っ」

男は少女を突き飛ばし、「お前なんかに」だの「覚えてろ」だの、いくらかの捨てぜりふと共にその場から慌て逃げるように馬を鞭打った。そして馬車を急発進。

「っ!」

「ちょっと!何!?待ちなさいヨ!」

ナビィの警鐘のごとく響いた怒鳴り声も虚しく、馬車は彼方へと走り去っていった。リンクは突き飛ばされた少女へと駆け寄った。

「大丈夫!?」

リンクが問いかけると地面にへたり込んだ少女は俯いたまま口を開いた。

「…ウェン…」



「たぶん、私の名前です」

「…! 思い出したの!?」

少女は力なく首を横に振って、ゆっくりと村入り口の階段の岩壁を指差した。

「あれです」

そこには並べて貼り紙が貼ってある。

 ―お尋ね者
 西の森の山賊の頭、ウェン―

それに描かれていた肖像は長い髪を持っていたが、紛れもなくへたり込んでいるこの少女だった。

「お尋ね者…っ?」



結局あっさりと、しかしなんとも嫌な形で"今日の課題"は解決したのだった。
そしてそこで一度少女の意識は途切れる。

 

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あきゅろす。
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