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#4 迫害


地盤がゆるゆるの土地を歩いている。

今の私はそんな感じ。


前へとのばす一歩はうまく踏みしめられないでいる。心も体もぐらぐらで、倒れてしまいそう。
じめりとした雑木林の中を木の根につまずきながら進んでゆく。


―――逃げなきゃ

私の声が聞こえた。


 逃げなきゃ

 逃げなきゃ

 逃げなきゃ


ずぶ濡れの体には赤黒い色も混じっていて、泥だらけで、
目からは涙が滴り落ちる。

何から逃げてるのだろう。
痛い。疲れた。もう、歩けない。

それでも私は足を休めることはない。涙が止まらない。誰の為の涙なのかもわからない。

ただただ、見知らぬ情景に心が締め付けられる。


―――もう一度   逢いたい


   忘れたくないよ、



        あいたい













「……い、たい…」

暗闇が次第に明けてゆく。目に水分が溜まっているせいで視界がぼやけている。
それが水滴となってどんどん溢れて零れていった。

自分を覗き込む人影。少女の瞳はまだぼやけている。一度瞼を閉じて再び目をあけるとそれがリンクであるとわかった。

「リンクさん」

「だ、大丈夫!?どこが痛む!?」

「…へ?」

「今"痛い"って」

痛い?いたい…あ、いたい。逢いたい。
うんなる程と少女は心の中で頷いた。恥ずかしくて寝言だとは言い出せなかった。
それにしても不思議な夢だった。

「…いえそれはなんといいますか…それよりここは」

「カカリコ村の宿屋だよ。城下町の人たちを受け入れてるから今は合同部屋だけど…とりあえず食事持ってくるから」

そう言うとリンクは小走りで部屋から出て行った。体を起こすと腕に巻かれた汚れのない包帯が目に入った。

(馬車から降りて…そうか、私は倒れて、おそらくリンクさんが運んでくれて、手当ても…)

(……でも、)


『あの子よね、お尋ね者って』

(……)

耳に触れるのは後ろ暗いゴシップと非難。


『なんでそんな人をかくまわなきゃいけないんだ!』

『いくら時の勇者の頼みとはいえ、こんな危ないやつ…』




(お尋ね者…山賊…)

お尋ね者になるということはそれほどの罪を起こしたということになる。
ひょっとしてさっきの夢は自分の記憶の一部なのではないか。罪を追われて逃げていたところだったのではないか。

――もしかしたら私は、人を手にかけてしまったことがあるのではないか

ぞくりと背中に波打つ感覚がした。真実を知ることが怖くなった。
ゆっくりと視線を落としたまま誰の目にも触れないように再び瞳に涙を溜める。

(私は誰なの…)



『勇者さまも、人間か魔物かという区別しかしておられない』

『まさかとは思うが山賊の片棒担ぎしてるんじゃ』

「…!!」

次に耳に入ってきたのは勇者への疑心だった。



「そんなわけないでしょう!!?」



「あの人は…私がどういう人間か知らなかっただけ。変な臆測はやめて頂けますか」

「……ベッドと傷の手当て、ありがとうございました」

一気にまくし立てると自分の落ち着きのなさに戸惑いを感じた。少女はベッドから足を下ろし回りの視線が集まる中、ふらふらと扉へ向かう。
仕切りのないこの部屋で向けられる視線はすべて自分を指していた。
侮蔑、畏怖、憤怒…
さまざまな負の感情を受け止められる程今の私は強くない。

少女は逃げるように宿を後にした。

 

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