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焦点を合わせたのは、井戸。そこから少女はなんとなく程度ではあるが、嫌な気配を感じていた。

「…行ってみよう」

傍らに寝かせていた剣を取るとすくりと立ち上がった。





「何かあったんですか?」

少女が井戸の傍らに佇む女に歩み寄り声をかけた。

「大変なのよ、さっきこっちから変な音が聞こえたものだから来てみたら……って、な、あ、あんたはっ!」

女は動揺しつつも状況を伝える―――が、振り返って少女の姿を一目見るとその表情は一変。態度を変えて距離をとった。

なぜ女が少女に対して高圧的なのかは少女自身わかっている。だからこれ以上追求するわけにもいかず、小さく息を吐いた。
すると、背後から聞こえた幼い声が原因を語ってくれた。

「水がなくなっちゃったんだ」

振り返るとそこには年齢にして10程度の小さな少年が立っている。少女を見てもこの女のように臆することなく、表情は変わらない。少女はそのことに少し驚いたが、なにせこの年齢の子どもだ。詳しい事情は知らないのだろうと思った。
そしてかぶりを振って井戸に歩み寄る。

「こらっ話しかけるんじゃないよ!」

慌てて女は少年の手を取り自分の方へ引き寄せる。
さらに少女に向け悪者、おたずね者と非難するがそんな女の罵詈雑言には耳もくれず、少女は井戸の前に立ち、中を覗き込む。真っ暗闇だった。試しに足元に転がっていた石ころを拾い上げて落としてみたが、返ってきたのは渇いた音。

なるほど。おそらく"変な音"とは井戸から水が抜ける音。
しかし先ほど感じたあの空気はこんなことによるものでは―――

ぞくり、寒気が近づいてきた。

「!! 下がって!」

声をあげると同時に井戸の中から黒ずみ痩せこけた手が伸びてきた。

「きゃあ!」

一歩下がって少女は鞘から剣を抜くとその場にいる女と子どもの前に立ち、黒い手に向かい構える。

するとその手は少女たちに向かって一直線に襲い掛かった。

しかし少女は剣を握る手に力を込めてそれに立ち向かう。流れるように刃を走らせ、女と少年が瞬きを終えた時にはそれの肘より先は灰のようになってボロボロと崩れ落ちていた。

「大丈夫ですか?」

尻餅をついていた少年に手を差し伸べつつ少女は2人に声をかけた。

「な、何よ今の…井戸はどうなっちゃったの…?」

「それは…私にもよく…」

この世界の"今"のことはリンクやナビィから聞いてはいたが、ここまで人と密着した場まで魔物が迫っているとは聞いていない。もしかしたらこれは異例の出来事なのかもしれない。


「―――あ、」

突如少年が小さく口を開く。
何かに気がついたのか、それを不思議に思った少女は彼に訪ねようとする。が、

刹那。フッと、自分の影が消える。違う。暗いんだ。
振り返ると少女は息を呑んだ。

無数の手が少女らを隙間なく取り囲んでいた。
逃げ場なんて、ない。

どの手も、どの指も、気持ち悪いくらいに滑らかに動く。そして全部が全部、まるでこまねくようにうねらせていた。

「ひっ…」

少女は自分からみるみるうちに血の気が引いていくのが感じられた。背中が涼しい、否、寒い。心臓がうるさい。あと汗が。
頭では動かなくてはと思ってもこのわけの分からない感情が遮ってしまってどうにも動けないのだ。

――もしかして、

私、お化け、嫌い、だったの、か、な?



そして、
断末魔の叫びのごとき奇声が村中に響き渡った。





「何かあったんですか!?」

リンクは井戸の脇に腰を抜かす女に駆け寄る。顔を覗くと色は蒼白。震える手で井戸を指差した。

「い、今、井戸からバケモノが…」

「バケモノ?それで?」

「また…井戸に消えたのよ」

そして女はこの場にいた人物について付け足した。

「村の子と、あのおたずね者の子も…一緒に」

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