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大きな布で覆われた体。手にはカンテラをゆらゆら怪しく揺らしている。そして地面についているはずの足はなく、影だけが地面に映し出されていた。

「ゆ、幽霊…?!」

少女はとっさに剣を抜いたが、背景を見透かせる体を目の前にたじろいだ。一方幽霊という言葉を聞いた荷馬車の男は一層ヒステリックになり勇者に飛びつく。

「ヒイイイこここいつだ、剣士さん、倒してくれ!殺される!ギャアア!ヒイイイ!」

「落ち着い、ぐ、ええ」

「ちょっとアンタ何すんのヨ!リンク死んじゃう!」

幽霊に殺される前にこの男に殺されてしまうのではないかと思うくらい、彼の恐怖心からの抱擁は堅かった。リンクはなんとか彼の腕を潜り抜けて自分の首をさすりながら呼吸を整える。そしてすかさず男のみぞおちに、一発。男はがくりと膝をつきそのまま前方へと倒れこんだ。

「悪いけど…、ちょっと今は静かにしてもらうよ」

パニックに陥った彼を手早く黙らせる案だった。
そして小さな息を吐きながら顔を上げたが、そこには先ほどの幽霊の姿はなく少女がただ背を向けて立っている。カンテラがただ一つ、彼女の足元に転がっていた。

「あれ?さっきの幽霊は…」

「リンク、あれは幽霊じゃなくテ」

「――ポウ、」

少女が短く言った。同時に地面へゆっくり手を伸ばし、カンテラの持ち手を細い指に引っ掛けた。火は未だか細く灯っている。

「未練ガ魔物ヘト姿ヲ変エサセタノサ」

言葉を発しているのは確かに少女のはずなのに、彼女を彼女と感じさせない何かがそこにはあった。

「…? き、みは…」

「僕ハジョン。少シコノ娘ノ体ヲ借リタ。勇者デアル君ト話ガシタクテネ」

少女は――ジョンは振り返りニヤリと笑う。すると、

「聞イテクレナイト、コウ!」

突然背中に背負った剣を抜き、その刃を自らの首にピタリとつけた。

「!!」

「きゃっ、危ないじゃなイ!その子を殺す気!?」

「殺サレタクナカッタラ僕ノ頼ミヲ聞イテ欲シイ。…僕ハ本気ダ」

ジョンは陰りのかかった瞳で勇者を睨んだ。剣を握る腕にはより力が入り、刃がうっすら首筋に食い込んでいた。あと少しの力が加われば鈍色の鋭いライン上に真っ赤な水滴が滴ることになるだろう。
宿り主が死んでしまったら、きっと乗り移った側も無事では済まない。それが、彼の"本気"。リンクは声を張った。

「聞く。聞くよ」

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