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沢田綱吉は嗤う





山本に、試合を見にこないかと誘われて見に行った。そこはまるで別世界のようで、オレの居場所なんかないようなところだった。熱気に包まれたスタンド。熱狂的な歓声。そしてダイヤモンドの中央に毅然した態度で構える山本。あっつい周りとは反してオレの中はすごく冷たかった気がする。よく覚えていない。



最近の獄寺君は被害妄想じみていて怖いけど彼の気持ちがわからないわけでもないのでせめてオレだけは彼を受け入れてあげようと、狭くてちっこい両腕を広げて寛大なふりをする。自分の居場所がなくなるのは怖いよね。その点においてはオレと獄寺君はある種の想いを共有すらしていた。
獄寺君・と呼べば君はどこだって(それこそ日本の裏側だろうが地球の裏側だろうが)着いてきてくれただろう。だって学校でトイレに行くのにも一人では行かせてくれない君だ。そんな君とオレのくだらない被害妄想を利用してオレは君を誘った。山本から誘われた野球観戦へ誘った。ねえ着いてきてくれるでしょ?オレ達はいつだって居場所がないんだから。(違う。同じ場所に立っているんだ)




やっぱり、というか予想通りというか俺には全く縁のない場所で、特に感動する事も嬉しくなる事もなかったけども山本だけがホントに、違う世界にいる事はわかった。そんな山本を見つけてしまう度に俺の両腕と同じくらいかそれ以上にちっぽけな心臓はキンキン痛んで、ああ居場所がないな、なんて思っちゃうんだ。でも、山本が試合中なのに、ダイヤモンドの中心にいるのに、いちいちこっちに気がついて笑いかけてくれたり手を降ってくれるだけで山本の側には居場所はあるのかな、と俺は感じる。



不意に隣の獄寺君が俺の方に倒れ込んできたもんだからびっくりした俺は慌てて山本について語ってしまった。ああどうしよう。獄寺君が泣いている。いったい何に感動したんだろう。それとも悔しいの?俺にも感動出来る事かな。このままでは居場所が無くなってしまう気がしてそわそわした俺に獄寺君はただ一言「熱い」なんて呟く。
うん確かに熱くてたまらない。視線を戻すと山本がフルスイング。消える打球。見えた時、それは俺達のいるスタンドから真っ直ぐにあるグリーンの外野スタンドに叩きつけられた時だった。さらに熱くなる観客に逆にじわじわと冷静になる俺。自分でも変になる程の冷静さでスタンドに座る自分を見た。
「獄寺君、」
「はい」
「熱いね、」
「はい」
「俺と君はやっぱり同じ場所に立っているんだね」
別世界にさようなら。
ダイヤモンドを一周した山本の目は俺を捕らえて、微笑むので俺は黙って手を振った。

























20080411



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