温度計を踏み砕いて(ザンツナ/完)
パリン
力任せに思い切り投げつけた。案の定それは小さな悲鳴を上げて粉々に砕け散る。床に・広がった赤に何の気持ちの変化も得ず目を逸らした。苛々する。砕けた硝子にも広がった赤にも。自分にも。何故こんなものを手に取ったのだろう。何故。あの時図に乗るなと突き飛ばしておけば良かったのに。
小さな温度計。
あのガキがオレに渡した温度計。リングを巡る争奪戦後、イタリアに渡る飛行機に乗り込もうとしたオレに渡してきた。そしてそれを持ってるという事実。否・持っていた。
一瞬、あのガキの、見た事もない泣き顔が浮かんだ。
恐ろしい事にさっき迄の苛立ちは消え失せ、何故手に取ったのかという疑問は何故割ったのかという疑問に・後悔に変わった。本当に恐ろしい。
温度計はあのガキに似てやがる。プラスからマイナスへ温度を変える所も。死ねば赤を広げる所も。
「ボス、どこに?!」
「ボス?!」
「ジャッポーネだ」
制止をかける部下を払いのけながらオレはあのガキへの謝罪を考えていた。
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