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(山ツナ/企画/完)


昔から野球は上手かった。天才少年だと騒がれた事もある。ついでにいえば「人が良い」らしいので周りとの関係もうまくいっていた。
野球が上手いという武器は、俺にとってはかなり有利な事で、野球が上手いというだけである程度は許容されて認められて、そして人の良さ(俺にはよくわからなかったけど)も相まって「山本武」という人間は常にピラミッドの一番上にいたと思う。眺めはいい。ずいぶん楽でもある。
だって歩く道がもう決まっていたから。俺がなにもしなくても周りが「山本武はこういう人間だ」や「山本武はこうあるべきだ」なんて決めてくれているものだからどんどん人格は固まっていった。そして決めてくれている道筋をその通りに熟していく事にかけては本当に天才的だったと言えると思う。
将来は野球選手なんだね。
そうかもな。
山本はいつも元気だよなあ。
そうなのな。

「山本武」はな。

その頃の俺といったらもう汚くて(汚いって見た目とかじゃなくて性根が・っていう意味で)、常にそのピラミッドのてっぺんから飛び降りる事しか考えていなかった。何かと飛び降りるべき理由を探していた。この上にいる事が楽で愉快でしかたないのに人格を否定されている事に堪えられないなんて。本当は最初からわかっていたのにさ。

その非日常は当たり前のようにやってきて、くすむ俺の胸を晴れ晴れとさせるにはまだ足りなかったけど、もしかしてピラミッドの上から飛び降りるチャンスかもしれないと俺は笑う。
同じクラスにいた、ダメな奴。
落ちこぼれのツナ。ダメツナ。
なんだかよくわからないけど、急に目立ったり、でもダメだったり、わけのわからない奴。
しかし落ちこぼれ組の扱いなんてものはすごく簡単で、ちょっと声をかけてやればころりとこっちを信用して心を開く。ツナもそうだと思っていたのだ。適当に仲良くなって、そうしたらまた適当にバイバイして、俺はいい人だと言われておしまい。悪くはないよピラミッド。
でも虚しくて、あまりの汚さに、泣きたくなった。涙はでなくて、だけどむしょうに泣きたかった。(なあツナ、おまえはどうしようもなくて泣いた事はあるか?)
こんな時は野球。野球は嘘をつかない。俺の味方だけど俺に優しくない。だから野球に打ち込んだ。
汗流して、必死に球を追いかけて、地面に手をついて、つきそこねて、俺の腕は、折れ、た。
痛みはあった。
折れた腕ではなくて心臓に。
別にそれでもよかった。
ツナと話をした日、俺はピラミッドから飛び降りるチャンスを得たのだから。

最終的に事故とはいえ、屋上からのダイブの前、ツナは言った。「おまえの気持ちはわからない、ごめん」そう言って踵を返した。それって普通、これから飛び降りようとしてる奴に言うか?って思って、すごく衝撃を受けた。なんでそんな否定しといて逃げるんだよ。馬鹿な俺をなだめもせずに怒りもせずに、否定して、自分すらも否定して、おまえってなんて気持ちいい。虚偽の固まりの俺とは違って、卑屈で、愚直で、綺麗。
それからだ。俺がツナに惹かれていったのは。
もうダイブしようとは思わない。おまえの死ぬ気は死ぬための言葉じゃない。生きて命を大切にするためのものだよな。
なんだかんだで強いおまえは美しい。だって不変だから。(俺はどんなに醜くなってもおまえだけは何一つ変わらずに美しくあれ)
スキだよツナ。
だからお願いがある。
ツナはいつも俺の側にいていつも俺を慕ってくれて好きでいてくれるけど。もしも、俺といるのが嫌になって疲れてもうだめになってしまったら。
いつでもいいから教えてな。
できるだけ辛くて辛くて辛くて、どうしようもなくなった時だけど。そうなってしまったら教えて。俺は死ぬ気でツナの前からいなくなるから。俺に患うツナは、ダメだと思う。そしたらまたダメツナになっちまうよ。綺麗じゃない。何たって俺は美しいおまえに惹かれたんだから。








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