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竜胆を見るたび惑う(春企画/山ツナ/完)
ATTENTION

この話はDIGITAL WORLDのサイドストーリーになっております。お手数ですが先にお読み下さい。
























ツナが目覚めるとそこは天国ではなかった。ふかふかのベッドに身を沈めて天蓋付きベッドの天井を見上げていた。
体のあちらこちらがムズ痒くて、ひりひりと痛い。現世というよりは地獄に戻ってきたような気分だ。(それは単に体の痛みだけの話ではない)
四日。それはツナが現世とあの世の境をさ迷っていた期間であり、目覚めても尚ベッドの上を離れられなかった期間でもあり、ベッドから離れてもずっと悩み続けた期間でもあった。
「十代目は何も悪くありませんよ」
部下であり、ツナの右腕でもある獄寺が固く拳を握りしめて言う。
成長してますますイタリア男みたいな笑顔を振り撒くようになったあのスモーキンボム。ツナ以外の人間に笑顔を見せるのはめったになかったけれど確実に増えた。その笑顔をぎこちないものにしながら獄寺は笑った。
(そうです。あなたは何も悪くない。何時だって俺、いや、俺達のいいようにさせてくれた。あなたのその笑顔で癒してくれた。そのあなたが四日もうなされ、縛られ、そして苦悩している。そんな事する必要性なんてたったの1rもないのに。必要性なんて語ったってたいして役にもたたないのだから今はしないけれども。ああだからつまり俺が言いたいのはあなたは悪くないって事です。悪いのは山本なんです)
獄寺にはそれをツナに言う勇気はない。ツナがそれについて悩んで心を痛ませていたのを知っているからである。それだけに獄寺は山本が憎かった。


ベッドに沈む山本の寝顔をツナは静かに見つめた。
どんな事があっても眉間に皺を寄せないで眠るのは山本だけなのを思い出す。小さく笑った。
山本はツナの光だった。その山本の片腕を奪ってしまったのだ。あんなに簡単な罠に引っ掛かって。今は布団に隠されてわからないけれども、この布団一枚下には腕がないのだから。
「…ツナ?」
「起きてたの、」
「ツナが、泣いているような気がして、さ」
「泣いてないよ」
「だよな。ツナが泣く必要なんてこれっぽっちもないもんな。別に片腕でも剣は…」
そこまで言って山本は思い出して、スクアーロと同じなのなと笑い出した。
「左バッターになればバットも振れるじゃん?キャッチボールはムズいかもしんねぇからその時はツナが手伝ってくれよ。だから…なあ、ツナ」
山本の手がツナを引き寄せる。素直にかがんで山本の好きなようにさせた。かがんだ拍子に山本の頬に雫が落ちた。
「ツナが泣く必要なんてないんだぜ」


仕事に復帰した山本は今までよりもっとずっと鮮やかに敵を殺した。殺しの後はツナの部屋に入り浸るようになった。
(獄寺をはじめとする何人かの守護者が文句を言ったがリボーンは何も言わなかったので山本はツナの部屋を訪れるのを止めなかった)
ある日ツナの部屋にいた山本をツナは咎めた。
「山本!どうしてあの組織まで潰しちゃったんだよ。俺はそこの同盟ファミリーだけって言ったんだよ」
「ごめんなツナ」
その一言でツナは山本の全てを許した。時々、山本がわざとやっているのではないかとは思ったけれどもそんな感じをまるで悟らせないように剣を磨きながら笑うので黙るしかなかった。
「頭がイカレちまったんじゃないですか…って噂ですよ」
獄寺が憎々しけに言ってのける。ツナの部屋に勝手に入る山本が許せなかったし(羨望でもある)何より、獄寺には山本の奇行の理由がわかっていたからだ。
(十代目。山本の「仕事」を直で見た事がありますか。あいつ、片腕なのに前よりも綺麗に、鮮やかに剣を振るうんです。十代目。あいつは今度こそあなたを守るなんてほざいてあなたの指示を無視してあちこちの危険因子をぶっ潰して歩いているんです。本当にあいつは頭がイカレちまったんだ。全部、一人で)
「ツナが泣く必要なんてどこにもないんだ」山本のその台詞を獄寺は思い出した。そして華麗に剣を振るったその姿を。
獄寺のそんな甘酸っぱいような切ないような悲しいような暗いようなよくわからない心境にお構いなくツナが呟く。
「昔の俺は…ダメツナはTVゲームが好きだったんだ。だってゲームってリセットできるでしょ?デジタルは1か0だから簡単になかった事にできる。でもね、リアルはリセットなんかできない。…やっぱり、デジタルがいいな」
ダメツナでいいから。最後のそんな囁きが嫌に耳に残る。
「思い出してみて」
あの時の方が今よりも色んな物を守れていたような気がしない?ツナはそう言って泣きそうな顔で獄寺に笑いかけた。


















END















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