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空葬(山ツナ/完)







オレは実は涙脆い方だ。だけど高校生にまでなって人前でなくなんて格好悪過ぎるからいつも我慢して、なんだか情けない顔になってしまう。でもそんな顔をすれば周りの人はたいてい笑って雰囲気を変えようとしたり(中にはそんな顔が面白いので本気で笑っている人もいる)、見ないふりをしてくれる人もいるけど。



中学、高校と同じ時代に生きた仲間達とも今日でお別れだ。てんやわんやなその時を台風のように駆け抜けて生きた。先生、進路希望に「普通の生活がしたい」なんて書いてごめんなさい。オレは明日からマフィアのボスになる為にイタリアへ向かいます。飛行機に揺らされ慣れない異国の地で必死に叩き込まれたイタリア語を使っています。



でもその前にやらなければならない事があったんだ。



学びの家、学校は何となくノスタルジックで物悲しい。ノスタルジック・とは故郷へ戻りたいと願うが二度と目にする事がかなわないかもしれないという恐れを伴う心の痛みの事だ。これを心の病と呼ぶ人もいる。ならばオレは病人なのか。まだ離れてもいないのに、ノスタルジックに襲われた馬鹿な奴。ああ、なんだか胸が痛い。
学校の校舎の裏を通る。流石に今日は誰もいない。みんな玄関で自分の先輩を見送っているはずだから。そんな中オレは一人で歩いた。やがて灰色の校舎を抜けて広がりに出た。グラウンドだ。その中にぽつりと人影がある。まだ肌寒いのに、ブレザーを脱いでカーディガンのまま空を見上げている。右手にはバット。素振りでもしてたのかもしれないと思ったオレは殊更ゆっくりと歩を進める。彼は気配には凄く敏感だったから。



「山本、」
呼びかけると振り返った山本の額にはわずかに汗が滲んでいたのを見た。いつもみたいに人の良い笑顔を見せて見つかったかなんて笑う山本の側に駆け寄った。
「素振り?」
「最後だからな、」
「寒くないの」
「あっついあっつい」
「ふぅん、」
「ははっ」
山本はイタリアには来ない。オレが誘わなかった。高校生最後の一週間にリボーンから言われた言葉、の為だ。おまえの部下はおまえが選べ。おまえがイタリアに来いと誘うんだ。と。もちろん誘わなくったって獄寺君はついてくるし雲雀さんなんかはあらかじめリボーンから聞いていたみたいで珍しく笑顔で応じた。骸なんかはどこにいるのかわからないから放置はしているがきっと彼はイタリアに来るような気がした。骸が憎むマフィアを潰すにはイタリアに来る必要が少なくともあるのだから。その他にもオレはみんなをイタリアに誘った。でも、山本だけはダメだ。山本は進路希望に「メジャーリーガー」や「寿司屋」とか書いた人間だ。まして「マフィア」なんて、書いていた、としてもだ。連れていくわけにはいかなかった。山本は巻き込んではいけない。自分の夢に向かっていつもみたいに笑っていて欲しい、とはオレの我が儘だけどでもダメだ。一年生の時に甲子園で鮮烈なデビューを果たした山本。それから三連覇という快挙を成し遂げた山本は大学野球をする為に進学する。最後まで野球か寿司屋か悩んでいたその姿に「マフィア」なんて言えるはずもなかった。でも、そんなのはただの言い訳だ。本当は、オレが山本の事を、
「ツナ、」
ぼけっとしていたらしいオレに山本は話し掛ける。どのくらいそうしていたのだろう。微かに聞こえていた向こうのざわめきも今は何も聞こえない。
「山本、オレは」
不意に告げなくてはならない気持ちにさせられた。本来なら友達に抱く筈のない気持ち。軽蔑されるだとか気持ち悪いだとかなんてすっかり忘れてオレは山本を見てその身長差も気にならないで、そのカーディガンの端を掴み、情けない顔をして告げた。
「山本がすき」
そしてはっとしてまた更に情けない顔をしてしまい、カーディガンから手を離した。山本は一瞬ぽかんとした顔をしてそして目元を染めて眉を寄せて笑った。どうしたらいいのかわからないオレはただ、泣きそうになるのを我慢した。ここで泣いたら相手が傷つく。その一心で堪える。だけど、その笑顔の意味がわからない。(泣きそうな困ったようなでも嬉し気にも見える笑顔)
「なんで、言っちまったんだツナ」
山本はオレの気持ちを知っていた。それをオレは知っていた。要領がよくて優しくて強くて格好良い山本だからオレのこんなみっともない想いはすぐに気付いていただろう。そして互いに触れる事なく過ごしてきた日々。(ああオレはこの学校にノスタルジーを感じていたんじゃないんだ。この一緒に過ごした日々に、どうしようもなく、)もう互いに会う事はないと思った。だから告げた。その行為には、後悔はなかった。
「オレは、オレだけ誘われなかったのは、ちょっとだけ悔しかったし嫌だったけど、でも嬉しかった。なんかオレだけツナに大事に思われてるみたいでさ。でも、ダメなのな。やっぱり、悲しい」
「ごめんなさい。…ごめんなさい。ごめんなさい、山本」
山本はいくらオレが泣きそうな情けない顔をしても笑ったりしなかった。ただ、優しく頭を撫でて、そのまま泣いていいよと囁いた。オレも泣きそうだからツナも泣いて。
それを皮切りに春のグラウンドに二人分の静かな青いざわめきが沈んだ。









にこの想いをってしまってもいいですか?

















END















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