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(山ツナ/完)



野球部の奴らの中にはマイバットを持っている奴はけっこーいたりする。もちろん、俺も持っている。マイボールとなると持っていない奴なんかいないのではないか。グローブに挟んでしまって学校に持ってくる俺はかなりの頻度でボールをなくす。置いていたはずなのにいつの間にかなくなっているのだ。人数も多いし曖昧で案外適当な野球部の奴らだから間違って持って帰ってそのままとかあるのかもしれないけれどボールだってただじゃない。被害総額が5桁まで半分近くになった時、流石にヤバイと思った俺はボールに名前を書く事にした。


下手くそな字がボールの面積を埋める。これなら誰がどうみても俺のボールだってわかる。


「なんだかサインボールみたいだね」ツナがボールを手にして囁いた。呟くにしては余りにも優しかったので俺はツナが囁いたのかと思った。実際振り返った俺のすぐ後ろにツナはいる。その小さな手で小さなボールを握りしめて笑った。小さな笑みだ。
「そう?」
きちんとカチリとなるまでサインペンのキャップをしめた俺はちょっとだけ考えた後にツナに欲しいかと尋ね、そしてツナは困ったように笑っていいよと呟いた(今度は)
「もう随分になるんでしょう」
「なに」
お金…と言って苦笑するツナ。俺はわざとらしくああ!と言ってそして頭をかいた。でもツナの為なら別に5桁いっちゃってもイイのに。


「これは山本の、」
ボールを俺の掌に乗せてツナはくるりと身を翻す。なんだか妖精みたいだ。小さくてフラフラして可愛い。その背中の羽で飛んでいきそう。(ねえティンカーベル。俺にもそのキラキラ眩しい粉をふりかけて!)ツナの粉を狙ってたくさんの奴らがツナを見てるかもしれない。


「ツナ、」
きゅぽん。キャップが外れた音が聞こえる。(実は好きな音だ)
振り返るツナの柔らかなニキビもそばかすもない白い綺麗な頬にサインペンでサインを。山本武。これでツナは俺のもの。これなら誰がどうみてもツナは俺の妖精ってわかる。誰も持って帰らない。


あれほど大事にしようと誓ったサインボールは地面を静かに転がっていった。



























天然山本。ファンシー?アホ?


あきゅろす。
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