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山本武の場合



正直野球なんて道具だと思う。ただのおまけだ。「山本武」という人間をより善く見せる為のオプションに過ぎない。しかし時にはオプションが凄く印象や評価を変えてしまう時があるのだ。善し悪しにかかわらず。それはみんなして「山本武」を知らないからだ。野球というオプションにごまかされてそして騙されている。馬鹿な奴らだ。



マウンドに立つのは酷く精神を消耗する。まず蒸し暑いしなんかくさい。人間くさいというより相手投手の臭いが立ち込めているような気がする。敵意、熱気、怨念じみた嫉妬。それにこの部分だけ高さがあるのも何だか気に喰わない。野球はピッチャーだけが見せ場じゃねーのにな。
相手投手も使ったロージンを手で弄ぶと白い煙が空気に流れて消えた。風向きが向かい風なら自分にかかって嫌いだ。でも今日は横からの風向きでよかった。俺が振りかぶり、投げる。もちろん相手の打者のバットは簡単に空を切った。パシン、ピュンと小気味よい音が捕手のミットから漏れた。瞬間熱気と歓声に包まれたスタジアムにほくそ笑む。いま叫んだ奴らみんな馬鹿。投手の「山本武」だけが見たい奴ら。俺はおまえらになんか用はねー。



ベンチに帰る途中、スタンドを見上げる。少しの間キョロキョロと視線をさ迷わせると案外すぐに見つけた。ツナ。ツナもこっちを見ていた。可愛いのな。周りの馬鹿騒ぎする奴らと違って小さく手を振って笑っていた。可愛いのな。ふ・とツナが横を向いた。つられるままに俺も横を見る。ツナの隣には獄寺がいた。



それから俺はベンチに戻って仲間が打席に立つのを見送ってヘルメットを被る。ネクストに立った。俺は次の打者だから今からバッティンググローブを嵌めてツナを想う。
(ツナの為ならなんだってしてやれるのに。ツナがスタンドに居てくれるだけでホームランだって完全試合だって出来るのに。だからツナは俺だけを見て。)
金属音がして、顔を上げると白球が弧を描いて内野の頭を抜けていく。綺麗なヒットだ。俺はもっと綺麗な大きい弧を描くから、ツナ、俺だけを見て。








そして俺は打席に立つ。

































20080120



あきゅろす。
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