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ストリップ少女のワンピース(スクツナ/10年後/完)



スクアーロは本来、とても堅実で真面目で情にもあつい男だ。(だからこそ今までザンザスの側にいれたのだ。)しかしスクアーロは馬鹿であった。どうしようもない馬鹿であった。(この場合の馬鹿であるというのは知識頭脳が足りない事をさす。)1+1=?そんな問いにすら行き詰まる。
人の噂というのは悪ければ悪い程やたらと迅速に伝わるもので、しかしたいていは嘘だという事に気が付かない。(気が付いていたとしても人は噂が大好きだから止めるつもりもないのだ。人は「密談」が好きで仕方ない生き物だ。)スクアーロが馬鹿だという噂はまことしやかにかつ迅速に伝わった。(実際真実だけれどこの場合は虚偽を根本として。)



今日のスクアーロは鬱々としていた。前髪が長く重く額に張り付いた。静電気でも汗でもない。血だ。任務は失敗なんかしない。だからこの血はザンザスの暴行だった。スクアーロはザンザスにパシられ、そしていわれのない中傷をその身に受けて椅子を投げ付けられた。綺麗に頭に当たってスクアーロは倒れた。
はた、と気が付くとヴァリアーとボンゴレの共同医療機関のベッドの上。頭が割れそうに痛くてスクアーロは呻く。
医療部隊は居なかった。今日は大規模な抗争があるのだと頭の片隅の記憶から引っ張り出された。だから医療部隊も全員引っ張り出されたのだろう。
ただ放置されただけのスクアーロ。シーツには恐ろしいくらいの血が染み付いていた。
呻きながら上体だけを起こした。頭がガンガンする。とりあえず止血まがいの事をしたいとベッド際のカーテンをめくった。



「あ。スクアーロ」
カーテンの向こうにはボンゴレのボスである綱吉が居た。
スクアーロは更に深く呻いた。
何故ここにいるのかと問うと綱吉は愉快そうに笑い、「抗争が危ないからここに居て下さいって言われちゃってさ」と答えた。
「スクアーロ、ここに名前書いて。あと症状も」
症状なんて見たらすぐにわかる事を綱吉はさらりと言ってスクアーロに紙を突き出した。まだ学生気分が抜け切らないような綱吉はふふっと笑った。
「オレ保健委員やってたんだよねー」
疲れきったスクアーロは崩れるようにして椅子に腰掛ける。どうでもいいから包帯が欲しかった。ふと周りを見回すと辺りはしんとしていて人の気配が全く感じられない。抗争にしては人の気配がなさすぎる気がした。しかし今のスクアーロにはそれを追求する程の余力も気遣いも残ってはないのだった。
言われたように紙に名前を書き込んだ。症状、体温…と書き込みを入れる。
「ね・スクアーロ」
「あぁ?」
「1+1は?」
「…は?」
(何言ってんだコイツ…んなもん2に決まってんだろ)
驚きに固まるスクアーロの横で綱吉は手を合わせて喜ぶようにしてはしゃいだ。
「やっぱり噂は本当だったんだ!スクアーロは馬鹿だって!」
「…2だろぉ」
「え、何だ。わかるの」
あからさまにがっくりと肩を落とした綱吉を見てスクアーロは殴り倒したい衝動に駆られたが我慢した。(情にあつく堅実で尚且つ真面目だからだ。)
「じゃあ2×7は」
「14」
「10の二乗」
「100」
「…シュレーディンガーの猫におけるパラドックスを示せ」
「1、量子は離散的である。2、量子は粒子である。3、離散的な粒子には中間的な個数はありえない。4、量子力学で…ああ、波動関数によってだ。与えられる値は存在確率で、0と1の間の中間値である。Ψ=0.5。5、個数は中間的な値ではありえないのに存在確率が中間的な値である。かつ…」
「もーおいい!何だ。スクアーロ凄く頭イイじゃん」
綱吉は苦笑混じりに零した。スクアーロ自身も驚きだったのだから同じように隣で口を開いていた。何とかの猫なんて聞いた事もない。けど綱吉には何も言わなかった。馬鹿にされそうだから。
(コイツにまで馬鹿にされるなんて冗談じゃねえぞ)
つまらない意地がスクアーロにはあった。


(ああ…頭が痛む…)
手で額を拭うと血がやけにリアルに掌にくっついた。気味が悪い。ぬるぬるとした赤が指の合間から落ちてコートについた。(不幸中の幸い黒だった)ふと名前を呼ばれて顔をあげると綱吉が目の前にいて驚いたけれども今のスクアーロには頭痛が激しくてそれどころではない。綱吉は未だ血が渇かない額に口付けた。そのまま一舐め。ビリリと傷口に染みて低く呻いたスクアーロにそっと囁く。
「頭を打ったから賢くなったの?」
スクアーロはそうかもしれないと妙に納得した。でなければ何とかの猫なんて露程も知らないのだから。
綱吉の唇が赤い。スクアーロの血液だ。以前見たストリッパーの少女のような毒々しい赤だ。唇もワンピースも下着も靴も。血も。あの娘は全て赤だったなといまさら思い出された。
そしてスクアーロは意識を失った。





「はっ」
次に目覚めたのはベッドの上だった。ガンガン痛む頭に触れると包帯が巻かれていた。
「あっ起きた起きた」
「本当?あっちょっとスクアーロあんた大丈夫なの」
横にはベルとルッスーリアがいた。二人ともスクアーロを馬鹿にするように笑っている。(贔屓目かもしれない)ベルに至っては隠す気もないようでスクアーロの頭をばしばしと遠慮なく叩く。その度にスクアーロの頭では銃に撃ち抜かれたような音と衝撃が走った。
「倒れたまま起きないから今回はもうダメかと思った」と語ったルッスーリアの横でベルが笑っている。
「ねえ。1+1=?」
「…あ?」
そんなの知っている。答えは、の後が続かなかった。知っているはずなのに答えだけが浮かばなかった。
「ししし…コイツ馬鹿だよやっぱり」
「そんなの知ってるわよ」
「オレは馬鹿じゃねぇぞ!何とかの猫だって知ってる!」
「は?何言ってんの。猫?」
「やっぱり打ち所が悪かったのかしら…前より馬鹿になったみたい」
好き勝手言い放題の二人の周囲は医療器具の機械音や人の話し声が聞こえる。
(そういえば、)
「おい。抗争はどうなった!」
「はあ?」






んなもんねーよ
(ストリップ少女の赤・コートの染み)











END











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