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閻魔さまと子鬼くん(はじめてのおつかい)



「鬼男く―ん?…」



「…あれ?いないのかな…」



少し前まで傍に居たであろう子鬼を探す。


「お―い…」

机の下。


「どこ―?」

階段の影。


「いないの―?」

カーテン。



周りを全て探しても見つからない鬼男くん。黙ってどこかに行くだなんて今まで一度もなかったのに。

まさか…




()





「誘拐ィィィイ!?!?」




頭に浮かんだ一つの節に思わず叫んだ、俺。
どどどどどうしよう!


などと、軽くテンパっている所に

「鬼男くんの事ですか?」


といつもの笑顔を崩さず篁が裁きの間に入ってきた。


「あ!篁、どうしよう。鬼男くん誘拐されちゃってたら…ってか鬼男くん見なかった?」


篁に近付いてまくし立てる俺に構わず、依然として笑顔を崩さず作業を進めていた篁は此方に向き直り


「おつかいです」



「え…?」


「だから、使いに出したんですよ。」



誘拐ではありません。
そうキッパリ言ってのけた篁は何枚冊かの書物を手渡した。


「午後からの資料です。宜しくお願いしますね。」


あぁ、今日はいつもより多いな…なんて一瞬思ったが、直ぐに首を振り我にかえった。


「ちょっ篁!!!使いに出したって何処に?危ない所じゃないよね?」

必死な形相な俺とは反対に落ち着いた表情の篁。
なんだってそんな冷静なんだ!

「閻魔さんが落ち着きなさすぎですよ。」


…あり?心読まれた!?


「鬼男くんには、提出しそびれた午前の地獄行き死者の資料を届けに行って頂きました。」


「地獄ウゥゥ!?」



「はい。私は地獄には足を踏み入れる事は出来ませんから。適役かと。」



確かに篁の言うとおりなんだけど。


「危ない!あんな幼子を地獄にって!凶暴な死者だっていない訳じゃないし…もし…もし襲われでもしたら…」


ああ゛―。
なんて頭を抱える俺を些か困ったように篁が声を掛けてきた。

「貴方という人は…本当に親バカですね。」


「どうせ、俺は親ばかだよ!!!」


可愛くてしょうがないんだよ。我が子同然に育ててきたんだもん。俺の宝物なんだよ。


机を指でコツコツと叩きながら落ち着きのない俺に篁は溜め息をついた。



「鬼男くんが可愛いのでしたら、成長もちゃんと喜んであげてください。」


「…。」


「お使いを頼んだ際、閻魔さんのお役に立てると喜んでいましたよ。」


篁の言葉に、微笑む鬼男くんの顔が想像できた。

そうか、俺は少し過保護すぎたのか。将来は立派な鬼になるべく、鬼男くんも成長しているんだ。


無事にお使いを果たし、戻ってきたならば


存分に誉めてあげよう。















―地獄。―




「わぁー。人がたくさん。鬼さんもたくさん。」


鬼男は地獄に着いていた。



「ありゃ?お前はたしか閻魔さんとこの子鬼じゃないか?」


「はい。鬼男ともうします。こんにちわ。」


ひとりの獄卒が声を掛け、鬼男は振り返り挨拶をした。礼儀の良さは篁の躾の賜物だったりする。


「今日は閻魔さまと一緒じゃないんだな?どした迷子にでもなったか?」


心配そうに声を掛けた獄卒だったが、その言葉に鬼男はブンブンと首を振り笑顔で腕に抱えていた巻物を出した。


「おつかいです。死者のしりょう出しわすれちゃったから。」

「あぁ。そう言う事か!ならあの建物に持って行きな。」


そう言って獄卒が指差したのは少し離れた場所に見えた宮殿だった。


「死者の資料を取り扱ってんのはあそこだ。ちとばかりお前には遠いかもしれんが…」


「だいじょうぶです。ありがとうございました!門番さん。」

「ここいらは危ない所が多いから気をつけろよ―」


そんな獄卒の声を聞きながら鬼男は先にある宮殿を目指した。









「…大王様、何されてるんですか…」


地獄の門の岩陰に隠れていた閻魔はすぐさま門番に見つかった。


「ちょっと我が子の成長を見届けに…」



「仕事はよろしいんですか?」


「全然よくない。ってか寧ろ戻ったら大変な事になってる…。」


「戻ってください!今すぐに!!」



門番にそう言われるが一向に出て行こうとしない閻魔。どうしたものかと門番が頭を抱えていると…


ベチッ



「「あ…転けた!」」



二人が目で追っていた鬼男はどうやら躓いたようで少し倒れたまま泣きそうな顔で震えていた。




「…。」

「大丈夫すかね?」


閻魔は何も言わずただ鬼男を見つめるだけ。
ゆっくりと立ち上がる鬼男は服に付いた砂埃を払うとまたすぐに歩き始めた。


進むたびに声を掛けられるが、挨拶を返し目的地まで一直線に進む鬼男を見て閻魔は静かに門に向かった。



「お帰りになるんで?」


そう門番に声を掛けられるが振り返る事もなく閻魔は手を振った。


「もう大丈夫だよ…それに戻らないと篁に怒られるんでね。」














「もう、戻られたんですね?」

裁きの間に戻ると執務机に大量の資料を置く篁の姿があった。予想どおりっちゃ予想どおりだ。

「まぁね。…」


そのまま執務机に着いて、資料に目を通す俺に篁は少し驚いたように

「どうしたんですか、随分と落ち着いてらっしゃるじゃないですか。」


と言って笑った。



「随分…成長したなぁって思ってさ。」


「寂しいですか?」


「少しね。」



そう言って暫く大人しく裁きを行っていると、ゆっくりと地獄への扉が開いた。



「ただいまもどりました!」


そこにいたのは転けたせいかやや顔に砂や傷を付けた鬼男くんだった。


「ご苦労様です、鬼男くん。」

篁がそう言って労いの言葉をいうと鬼男くんの背を押して俺の方を向かせた。



「鬼男くん。」


「はい!」


呼ぶといい返事を返してくれる鬼男くんの前にしゃがんで目線を合わせる。


「おつかいありがとう。助かったよ。」



すると照れ臭いのか頬を染めてへへっと小さく笑った。


まだ少し砂の残る顔に手を伸ばしてそれを拭う。
あ、ほっぺた柔らかい。とか思いながら笑みが零れる。


「鬼男くんは俺の自慢だよ。」

「ありがとうございます!」


満面の笑みを浮かべる鬼男くんに対して腕を広げた。


「ほら、おいで。」


「はい!」



そう言って素直に腕に収まる鬼男くんを思いっきり抱き締めた。













--------------------END


一万&一周年企画
リクエスト
子鬼くん
初めてのおつかいでした!
黒崎様
企画参加、
ありがとう
ございます
駄文ですが
貰ってやって
ください!!
\(^^)/

2011.02.16

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