山茶花の小説
シードラゴンとワイバーン   その4 

 結局、二人はこじゃれたレストランより近場の居酒屋で食事を済ます事にした。煙草の煙がもうもうと立ち込める中、二人で沢山食べて沢山話をして、そして沢山飲んだ…いや、飲みすぎた。

「おい、しっかりしろカノン!これからどうしたいのだ。海底神殿に帰るのか、それとも冥界に行くか…まさか、聖域とはいわんよな?」
 ラダマンティスは、飲みすぎて朦朧となっているカノンの体を揺さぶって何とか意識を取り戻させようとした。
 弾みでカノンの頭が上向きになり、まるでキスを強請っているような角度になる。目元がほんのりとピンクに染まり形のいい唇がわずかに開いていて柔らかそうな舌がちらりと見えた。
 ラダマンティスの喉がゴクリと鳴り、口付けを盗もうとした時にカノンの瞼が開いた。

「この…さき・をいった所に…ソロ家の…系列・のホテルが…ある。そこな・ら…予約なしで・も・泊まれる…はずら…」
 
とろんとした瞳で見詰めて来るので、ラダマンティスの理性が悲鳴をあげる。
 
 いますぐここで押し倒してしまいたい…。とは言え、天下の往来で破廉恥な行為にふけっては冥闘士としての沽券にかかわる。なけなしのプライドを振り絞って、言われたホテルまで崩れ落ちそうになるカノンの身体を抱えて歩く。
 
 道々何度も挫折しそうになりながら、なんとかホテルまで辿り着いてチェックインする。その間も気を抜けばすぐ眠ってしまいそうになるのを騙し騙し部屋に押し込む事に成功した。結構格式の高いホテルで、フロントのコンシャルジュの視線が破壊力抜群で突き刺さるようだったが、躾けの行き届いたホテルマンの張り付いたような笑みは崩れる事がなかった。

 やっとの思いで部屋にたどり着いたラダマンティスの口からため息が漏れる。
「カノン。そのまま寝ちまうなら襲うぞ」
 そっとベッドに横たえた意識の無いカノンに口付ける。何度も何度も角度を変えて、甘い口腔内を味わいつくす。
「ラダマンティス…」
 うっとりと瞼を開いて、ラダマンティスの口元に指先を当てた。
「どうした、カノン。(ここまできて、お預けはないよな)」
「…風呂にはいりたい」
 カノンはラダマンティスの体を押しのけるとゆらりと身を起こして浴室へと向かう。

 あまりな成り行きににあっけにとられたラダマンティスは服を脱ぎ散らしながら浴室へ向かうカノンに声をかける。
「カノン、お前大丈夫なのか?足元がおぼつかないが…」
「大丈夫…ひゃないから、お前も来たらいいさ。」
 カノンはラダマンティスを振り返りいたずらっぽく笑うと、ひらひらと手を振って浴室の向こうに消えた。

 思わず固まってしまっていたラダマンティスは、すぐさま我に返るなり手早く自分も服を脱ぎ、ガウンを羽織ると二組のクリーニング依頼書を書いてドアの前に出しておいた。
「服が無ければ、カノンも逃げはすまい。朝にはちょうどクリーニングが終わって届いているはずだしな」

 学習しているラダマンティスだった


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あきゅろす。
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