山茶花の小説
とあるなつのひのあけがたのつづき その4
そこは浴室と言うより浴場というべきもので、馬鹿でかい浴槽が幾つもあった。そのうちのひとつの洗い場ににカノンの体を運び横たえる。
「お前と洗いっこするのも久しぶりだ」
両手にボディソープを泡立てて、楽しそうに笑っている兄を見て、カノンも嬉しくなる。
このところ眉根を寄せてばかりの暁色の髪のサガや、そのもうひとりを馬鹿にして皮肉ばかり言っている夜色の髪のサガばかり見ているから、今の紫紺の髪のサガが自然体で接してくれるのが堪らなくいとおしい。
(このままずっと、合体したままでいてくれればいいのに。)
そう言うわけには行かないのをわかった上で、望んでしまうのは業というべき物かもしれない。それをもっとも望んでいるのは兄達であるはずなのに、同時にそれが出来ないからこそ苦しんでいるのも兄たちだ。それなのに、自分を取り戻す為に一時とは言え合体までしてくれた兄達に自分は愛されているのだとカノンは嬉しくなる。
大量の泡を拵えて、洗い場中を泡だらけにしてしまったサガに呆れながら、二人で互いを洗いあう。悪戯な指先が時々イイトコロをかすめながらも着々と洗い上げてゆく。
「…さて、あとは一番大事な処だけだな。どうやって洗って欲しい?」
サガがにやりと意地悪そうに笑って聞いてくる。真っ赤になって俯いてしまったカノンが自分で強請ってくるまで待つつもりだ。
「………コレで洗って欲しい……奥まで…」
カノンはこくんと唾を呑み込むと、サガの怒張しきって天を仰いでいるカリ太な逸物を掌で包み込み愛撫しながら、切なげな吐息と共に囁いた。
それだけ言うのに、真っ赤にな頬でこちらを見ないように視線をそらしてたいそう可愛らしい。
「ふふ、仕方のない奴だな。…いいよ、来なさい」
サガは胡坐をかいた膝の上にカノンを誘った。隆々たる怒張を目の当たりにして少し尻込みするカノンに囁く。
「ほら、自分で入れてごらん。欲しいのだろう?」
意地悪く笑って促す。
「サガの意地悪…」
「私の何処が意地悪だ?欲しがっているのはお前だろう。ほら、コレも早くお前の中へ入りたがって涙を流しておる。」
それはただの先走りだろう!と突っ込みたかったけど、自分も散々焦らされてもう限界だったので素直に従う事にする。
ボディソープをたっぷりと手に取り、天を突くほど怒張した肉棒に愛撫がてら塗りこんでいく。途中、指先が敏感なカリ首をかすめて、サガの体がピクリと反応しきゅっと下唇を咬むのが見えた。
(黒い方のサガだったら、今頃無理やりにでも覆いかぶさってきて捩じ込まれてるよな。…やせ我慢して…早く入れたいだろうに莫迦だなぁ……可愛い奴)
サガの太腿の上に膝立ちで跨り、熱くたぎる怒張に手を添えゆっくりと腰を落としてゆく。
「カノン…私のものになってくれるのか?」
ゆるく抱きしめられ、真顔で尋ねてくるサガに逆に問い返す。
「俺は生まれる前からお前の物ではなかったのか?何の為に冥界まで連れ戻しに来たんだ?」
「そうではなくて、今ここにいるこの私だ。」
じれったそうにカノンの体を抱きしめる、すがるような瞳で見てくる兄に、いとおしげに口付けしてやる。
「いいよ、お前の物になってやる。だから、そんな泣きそうな顔はするな。」
「お前の前だけだよ。私が安心して素顔をさらせるのは。…どうしても、人前では自分を偽るのをやめられない。お前の前でだけ、泣いたり笑ったり怒ったり、自分の中のどろどろした感情をさらけ出すと事ができたと言うのに、あのころの私はお前を閉じ込めれば私の中のどろどろした感情も閉じ込められると思っていた。お前を他の誰にも盗られたくなくて、スニオン岬の水牢に閉じ込めた。あそこは人の力では開かずとも、心からアテナに許しを請えばアテナのお慈悲で扉は開くのだ。それなのにお前は一向にアテナに許しを請わんから私は気が気ではなかった。暇を作っては毎日スニオン岬まで行ったのだ。ところが5日めに教皇から10日間の外出を命じられた。必死で仕事をこなして7日後に行ったときには、お前の姿はなくて強烈に臭う真っ黒い何かがあったきりだった。」
「…俺がポセイドン神殿に行った後にあざらしか何かの死体が流れ着いたのだろうな」
「私はお前を永遠に失ってしまったと思った。もう、総てがどうでもよくなって…当たり前だろ、教皇になりたかったのも私が教皇になれば双子座を引退して、合法的にお前に双子座を譲れると思ったからだ。お前が死んでしまったのなら教皇になっても何の意味もない。…だが、お前を犠牲にしてまでした努力を否定されたのは許せなかった。…だから私は教皇を殺したのだ」
サガの告白にカノンは口付けで答えた。
「安心しな。アテナは総てお許しくださったのだ。俺もお前も、生き返った者たちはみんなアテナのお慈悲の元に平等だ。犯した罪はこれから償っていきゃいいだろ。俺も及ばずながら手を貸してやるよ」
サガの頭を胸に抱きしめてやる。暁の色の髪のサガには言えないし、闇の色の髪のサガは言わない言葉を紫紺の髪のサガは言えるのだ。
自分は捨てられたわけではなかったと、改めてサガの口から聞くことが出来たカノンは嬉しかった。
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