山茶花の小説
ながいよるに
カノ×サガ?
闇を切り裂くような自分の悲鳴で目を覚ました。
目覚めてしまえば一体何に恐怖したのか、それすらも定かではない。しかし、よっぽど怖い思いをしたのか私の心臓はまだ早鐘のように轟きわたっている。
「サガ、どうかしたのか」
軽いノックの音と共に扉が開いた。逆光の中に浮かび上がる人影の長い髪が漆黒に見えて、私の背中を戦慄が走る。
…しかし、小さな常夜灯を頼りに近づいてくる人影は穏やかな表情を浮かべている。
私のたった一人の弟、カノン。
「いや、なんでもないのだ。起こしてしまってすまなかったな。」
慌てて取り繕う私の額に張り付いた髪の毛を、指で払ってくれた。
「ひどい寝汗だな、今タオルを持ってこよう。それとホットミルクでも入れてきてやるよ」
少し待ってろよと、立ち上がり背を向けて歩き出そうとしたカノンの夜着の裾を、私は思わず掴んでしまっていた。なんだか、急に心細くてたまらなくなってしまったのだ。
「なんだよ、ソコ掴まれてると動けないんだが」
困ったような顔をして、カノンが戻ってくる。ついでに腰をかがめて、私の額に自分の額を触れさせてくる。
「熱はないようだな」
小さな子供に対するように自分の額で熱を測ってくれたらしい。
ひどく真面目な表情に、ついくすぐったくなってしまって小さく笑った。
「笑えるくらいなら、もう大丈夫だな。まぁいい、サガが眠りにつくまで此処に居てやるよ。」
どちらが兄かわからぬような口を利くなと突っ込んでやろうとしたが、カノンが見た事もないくらい穏やかに笑っているのでやめにした。折角心配してくれていると言うのに、わざわざ喧嘩を吹っかける事もないだろう。
「ほら、附いていてやるから安心して眠るといい。俺が居るからもう怖い夢なんか見ないよ。」
カノンは私のベッドに腰掛けると、上掛けをなおしてくれて、まるで小さな子供にするように胸の上をかるくぽんぽんしだした。
子ども扱いするなと言いたかったが、それはひどく心地よくて睡魔の誘いに乗ってしまいたくなる。
薄れていく意識のかたすみで、カノンが唇だけで笑ったのが見えたような気がした。
…good night honey
end
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