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short45









#ルキジャンルキ











人殺しをするとき他のやつらは何を考えているのだろう。

先程自身に重い衝撃を与えた手の中にあるものを一瞥してルキーノはふと、そんなことを考えた。目の前には既に肉塊と成り果てた、先ほどまでは人であったものが、血の海に沈んでいる。ルキーノ自身もう慣れてしまった光景で特に思うことはない。事後処理はどうするかなんていう事務的なことしか頭に浮かんでいなかった。

おそらく他のやつらも似たようなものだろうなと浮かんだ問いに自己完結してしまう。

たとえば付き合いが長い首席幹部殿の場合、彼は悲惨な現場に似合わない穏やかな笑みを浮かべながら、体温が冷えるようなえげつないことも平気でやるだろう。

たとえばボンドーネのぼっちゃんの場合、彼は無表情で人間を切り刻みそうだ。時にはそれを楽しんでいるようにも見える。あの感覚は俺には一生わからないだろうが、CR5の組織として彼の武力は失えない力だ。

たとえば口が悪い年下幹部の場合、ひどい言い草だとは思うが、あいつは俺からしてみれば、ただの馬鹿だとしか言えない。あいつは感情のままに殺す。必要だから殺す。けれど認めている部分も勿論ある。あいつは何をするにもけっして躊躇わない。殺しても後悔など一切しない。そういう意味であいつの感覚は俺と一番似通っている。だからこそ気に食わない部分もあるのだが、組織に与する者としてその非情さは必要なものだ。

ルキーノはふと先程から自分の後ろにいる男を振り返った。そしてその男、ジャンカルロの瞳を見て思った。

ああ、お前は違うのか。

我らがボスジャンカルロ。もしかしたら、コーサノストラとしてやっていくために、お前の感情が一番厄介なのかもしれない。





「毎度何なんだいったい。」
「んールキーノちょっと動かないでくれよ上手くできないだろ?」
「…。」

あれから本部へと帰ってきて、部屋に二人して戻ると、ここに座れと、ベッドを指指すジャンにルキーノは大きく息をはいた。そしてジャンの言う通りに腰を下ろす。こういう時は何を言ってもこいつが自分の意見を曲げないことをルキーノは知っていた。腕組みをするルキーノに彼の髪を撫で付けながらジャンは少し困った笑いを零した。


「いやん、そんな後ろを向いたまま怖いオーラ発しないでルキーノさん。」
「怒ってるわけじゃない。ただ、よく飽きないな。」
「んー飽きないな。あんたの髪触ってると気持ち良いんだよ。いいだろ結ばせろよ。」
「・・・まぁ、別に構わんが。」
「グラーツェ。」

ジャンは再び俺の髪と睨めっこをし始め、ルキーノの髪をいじる。何が楽しいのか、黙々と髪をもてあそびつづけている。

(そんなに結いたきゃ、女の髪でも結えば良いだろう。)

ルキーノはでかかった言葉を寸でで飲み込んだ。何度か空振りに終わった言葉だ。ルキーノじゃなきゃ意味がないと返答されるとわかりきっている台詞を今日も吐こうとは思わず、代わりにため息をひとつつく。結っては解き、また結ぶを繰り返して、先日は一時間くらい俺を解放してくれなかった。ジャンはなぜ髪をいじるのか、最初はルキーノ自身わからなかった。暇つぶしをしているだけではと思ったこともあった。けれど今はその理由に予想がついている。俺の予想が間違っていなければ。いやおそらく当たっているだろう。

「ジャン・・・」
「わかってる。待ってくれよあと、すこ・・・し・・・・よし!できたっ!」
「なんだ・・・できたのか?」
「へへっ、うん。男前だぜルキーノ」

ベッドから降りてルキーノの顔を見たジャンはそう言って満足げに笑みを零した。いじらせてくれて有難うの意味でなのか、俺の両肩に手を置くと、顔を近づけて、額に軽めのキスをする。そしてルキーノはそんなジャンの笑顔に、思っていることを言わないまま、少し呆れ気味に笑みを零した。いつものように。

(なんて、やっかいな男なんだろう)

言わないさ。人を殺すことに慣れてないお前が、髪に触れて、頬に触れて、他人に触れることで必死になってつなぎとめようとしているんだろうだなんて。取り乱さないようにしているだなんて。そんなジャンにルキーノは彼がとても愛おしいのだという気持ちが抑えられなかった。

「ジャン。」
「ん?」

そして気持ちに従うようにルキーノは、目の前にぶら下がっていたジャンのネクタイを引っ張り、ジャンに口付ける。愛を伝えるためだけの軽いキスをした。

「愛してるぜ。」
「な、んだよ。急に。」
「言いたくなっただけだ。」
「そっか。俺も。」

そのままジャンの手がルキーノの顎をとらえて、唇を重ねてくる。少し油断していたルキーノは反撃もできないまま大人しくその唇を受け入れた。ジャンは真剣な瞳をルキーノに向け低く耳元で囁いた。

「俺も好きだぜルキーノ。」
「っ・・恥ずかしいやつだな。」
「お互いに、だろ?」
「そう、だな。」

(ああ、なんて・・・)

幸せなんだろう。俺にだけ見せてくれるジャンの一面にルキーノは満足げに微笑んだ。









髪を結ぶ
(そんなことでお前が落ち着いていられるのなら、何度だって俺は)







END










あきゅろす。
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