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short42








#カンパネッラ→ルキーノ
ルキジャンルキ前提











あの人は、俺の憧れの人だ。背が高く、出で立ちも堂々としている。俺の憧れのコーサノストラの男。煙草をなえる姿もかっこいいし、火の付け方だって流れるような仕草でとてもきれいだった。俺もあんな風に吸えたら良い。そう思って、一度隊長と同じものを吸ってみたけれど、あまりの重さにむせてしまった。

(どうしたら、あんな風になれる?)

かっこいい俺の隊長。毎日、毎日、あの人のことばかり見ていた。下っ端時代を経て、隊長の隊員として入った時から、彼の命令や指示に部下として駆けずり回って、そうした日々を繰り返していたら、隊長が俺の名前を覚えてくれて、用がある時は俺の名前を呼んでくれるようになった。「カンパネッラ」と呼ばれる度にドキリと過剰反応してしまう自分に「おさまれよ、心臓。」「平常心だ。」と、心の中で強く唱えて隊長の前では平気な素ぶりをしていた。隊長はそんな俺には気づいてはいなかっただろう。だからあまり大声で言えない話をする時も、平気で顔を近づけて息がかかる距離で話をするものだから、俺の心臓の動きが早いのが、ばれやしないかといつも落ち着かなかった。けれど今までばれたことはないから、俺は意外と気持ちを隠すのは上手い方らしい。そう、たぶん上手いのだろう俺は。隊長の前では笑顔でいるようにしているから。どんなに危険が伴う命令でも、隊長に心配をかけないように、不安にさせないように、笑顔で「わかりました。任せてください!」と言っているから。だから、俺は、本心とは全く別の態度も取れるのだと思う。






「カンパネッラ。ちょっと良いか?」
「はい、なんですか?隊長。」

護衛として俺は隊長の傍に必ずいる。だから隊長に呼ばれればすぐに返事もする。その隊長の隣にはいつの頃からか、金色の髪の男が立っていた。金色の髪の男、最近にCR:5の新しいボスとなったジャンカルロさん。ジャンカルロさんは俺に視線を合わせると、気軽そうにヒラヒラと手を振った。


「ベルナルドに今日のシマの様子の報告を頼む。直接俺が行った方が良いんだが、ちょっと、これからジャンと寄るところがあってな。本部に戻れそうもない。」
「わかりました。もしかして隊長・・・ジャンカルロさんと飲みにでも行かれるんですか?いいなぁ。俺もご相伴にあずかりたいですね。」
「ヴァ・カガーレ。仕事に決まってんだろ。飲みはついでだ。ついで。」
「なんだ、やっぱり飲みじゃないですか。」

少しだけ拗ねた顔をこちらがして見せると、ジャンカルロさんは「ルキーノさんは部下に愛されてるのね。」とその口元に笑顔を浮かべた。

「まぁ、カンパネッラ。また今度な。」

飲もうぜとそう言って二人は俺から遠ざかっていく。遠くから見ても、隊長は今まで見たこともないような優しい笑顔を向けていた。楽しそうに笑っていた。俺がいくら望んでも見せてくれなかった柔らかな表情だった。俺が引き出せなかった幸せそうな顔だった。


「・・・やっべ」

視界がぼうっと崩れていく。咄嗟に目を覆い、駆け足でその場を離れた。隊長の前で上手く隠し通せても、少し離れると、もう駄目だった。

「ははっ・・・情けねぇ」

スーツの袖で涙を拭う。こんな時に限ってハンカチを持っていないのだからますます情けない気持ちになった。俺は隊長みたいにかっこいいコーサノストラの男にはなれないらしい。こんなにも揺さぶられる。こんなことぐらいで落ち込んでしまう。いつの間にか俺の中での隊長の存在はこんなにも大きかったのだ。



スッと目の前にグレーのハンカチが差し出される。こんな時くらい一人にさせて欲しかったと差し出してくれたそいつに理不尽なことを思いつつ、黙ってそれを受け取った。

「どうせ、スーツの袖で拭うなみっともないとか思ってんだろお前。」
「・・・まあ、仮にもルキーノ隊長の隊員としてどうかとは思うが。うちの隊の品位を損なうしな。」
「うるさい。今それ言うな。落ち込むから。」

わかってんだよそんなこと。悪態をつきながら、グイッと受け取ったハンカチで目元をおさえた。そんな俺をそいつは、ピアッジは静かな目線で見つめてきた。

「カンパネッラ。」
「なんだよ?」
「困らせるなよ。俺たちの隊長を。

「・・・わかってる。」

この気持ちを言うつもりなんてこれっぽっちもない。それでもピアッジは俺を心配してくれているのだろう。黙ってそばにいてくれることに申し訳ないと思いつつ、そのピアッジの優しさに俺は少し甘えることにした。


「なぁ、ピアッジ。黙って聞いてくれると有難いんだけどさ。」
「・・・あぁ。」
「俺、隊長が好きなんだ。」
「・・・。」
「好きなんだよなぁ。情けないくらい。」

隊長の笑顔を思い出す。最初は憧れだった。だけど部下としてあの人のそばにいることが多くなって、その優しさに惹かれた。奥さんのことがあって、その哀しみを支えたいと思った。隊長の責務が増して、その負担を減らしたかった。

「好き、なんだ。」

気持ちを伝えるつもりもないけれど、俺は今、隊長の隣にいる特別な存在が羨ましいと心底思った。






痛い、なんて言えない
(あなたの幸せをねがっているから。)






END








あきゅろす。
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