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★Short. 34






#ジャンルキ













「・い・・・ぇ。」
「あ?」

行為が終わった後暫くしてから、唐突にジャンの口から漏らされたその一言に、ルキーノは訝しげに自分と同じベットで寝そべっている彼を見下ろした。なえていた煙草を口元から遠ざけ、隣で、自分と同じそれを吸ったまま眠っているように見えたジャンを腰を折って覗きこむ。

「どうした?」

ルキーノが問いかけると、気の抜けたような生返事を返しただけでジャンはそのまま口を閉ざしてしまう。ルキーノは暫く反応を窺っていたが、ジャンはそれ以上何も言ってこなかった。ジャンに解らないくらいのため息をつき、既に短くなっていた煙草を灰皿に押しつぶした。言いたくないなら心配させるような言葉呟くんじゃねーよと、喉まで出かかったものを飲み込んで、ルキーノはベット脇にあるスタンドへとおもむろに手を伸ばす。

「もう、寝るぞ?お前も早いだろ?」

お前が手加減してくれれば、もう少し早く寝れたんだがな。そう当てつけに言ってみるも、やはりジャンから返事は返ってこなかった。倦怠期って訳でもあるまいし、なんだってんだと、ジャンの反応に不満を持ってしまうあたり、こういう関係に慣れてきている自分に、ルキーノは複雑な気持ちになった。
 照明を落とすと、部屋は先程よりも薄暗くなる。ルキーノは腰までかけてあった布団を自身の肩のあたりまで引き上げ、ベッドの中に自身をもぐりこませた。

「お休み。」

反応しそうにもない彼に律儀にもそう声をかけてしまったのは普段の習慣から出たものだ。期待もせずにルキーノはそのまま眼を閉じた。先程のジャンが零した言葉が気にはなっていたが、流石に気をつかってやれるほど、ルキーノも疲れていない訳では無かったし、何よりも身体が休息を欲していた。実際に朝から休憩は殆ど取ることなく、外周りや会議など目まぐるしいスケジュールをこなして、気力体力共に削ぎ落され、なおかつ本部に帰ってきたら帰ってきたで、ジャンのやつに好き放題されたとあっては流石のルキーノでも、何も気にせずに眠りたい時はある。今がその時だった。

「なぁ。」

頭の中で、舟を漕ぎ始めていたルキーノは暫くしてかけられた声に重い瞼を少しだけ開く。いつの間にか自分の胸元にジャンのやつが擦りよってきていた。先程までジャンがすっていた煙草も口元には既にない。何時の間にと思いながら、ルキーノの腕は自然とジャンの後ろへとまわる。顎下に金色の彼のサラリとした髪が触れた。ルキーノのバスローブの合わせを軽く握るようにして肩口に顔を埋めている彼に、再度ルキーノはどうしたと問いかけた。

「胸・・いてぇ。」
「・・・。」

言葉のまま胸が痛いわけではないと、思う。ではジャンにそう言わせる何かがあるという事だ。そして何が原因なのかといえば、それは自分しかあり得ないのだろう。その理由もルキーノには想像出来てしまうのが、何とも言いようのない。

「俺のせい・・・・か?」
「あぁ、あんたのせいだよ。」

後ろめたさからジャンの背中に腕を回し、ポンポンと叩いてみる。すまんと呟いたら、それが余計彼を傷つけたらしい。肩を強く掴まれて、乱暴な所作で組み敷かれた。強いジャンの視線がルキーノに突き刺さるように向けられる。あぁ、やってしまったと、ルキーノは先程の自身の行動をくいた。

(こいつに絡むと、らしくねーことばかりしちまう。)

なんでこいつを傷つけることしか出来ないんだろうなと、そんな気持ちからジャンのされるがまま、大人しくしているしかなかった。

「あんたって、なんでそうなんだよ?」

低い声だった。瞠目したままジャンを見つめると、皮肉気に彼は笑ってギュッとルキーノの肩を掴んでいる手に力が込められる。

「解ってるぜ?解ってるよ?アンタの中から奥さんも、アリーチェちゃんも消えることは無いってさ。だからこれが俺の我儘でしかないってことも。」

解っているんだ。消えそうな声で呟いて、ジャンは俯いた。反射的に手を伸ばす。そっとジャンの頬を撫で、金色の髪に触れる。触れていた掌に予想外に優しく重ねられたジャンの手から、彼の体温が伝わってきた。

「けど、あんた狡いんだよ。」

嫌なら拒否ればいいのにさ、抵抗しねーし。俺、都合の良いことばっか考えちまうじゃねーかよ。今にも泣きだしそうな声でそんな事を言うから、俺もお前を突き放せないし、放っておけないのだと言ったら、こいつはどう思うのだろうか。やはり狡いと俺を責めるのだろうか。

「アンタが女だったら良かった。そしたら、強引にでも犯して、孕ませて、俺のもんに出来たのに。あんたの中を、俺の液で一杯にして、溢れるまで注いでさ、あんたが泣き叫んでも、止めないで抑えつけて、強引に。あぁ、女だたら、こんな風に体格の差も気にしなくてすんだかもしれないしな。気持ち悪い?だよな。俺だって気持ちわりーって思うもん。」
「ジャン。」
「だけどさ、だけど・・・ルキーノ、おれはそれだけあんた好きなんだよ、好きなんだ。好きなんだよ!!」

ジャンの言葉はまるで慟哭のようだ。ジャンの心の中の叫びがそのまま声となって俺に突き刺さった。目の前で金色の髪がゆれる。そういえばあいつもこんな風に泣くことがあったなと、頭の中で過ったのは、眼を真っ赤に染めて泣いていたシャーリーンの姿だった。昔から涙と金髪に弱いのだろうか、俺は。甘やかしたいと思うのと同時に、じわりとしたその感情も湧いてくる。

「泣くなよ、ジャン。俺はお前に泣かれると弱いんだよ。」
「・・あんたが、そうさせてんだろうが。」
「・・すまん。」
「すまんってなぁ、あんたそればっかじゃねーか。」
「好きだぜ、ジャン。」
「つ・・・・だから、タチわりーんだよ。」
「好きじゃなきゃ、抱かれるわけねぇーだろうが、この俺が。」
「・・・じゃあ、好きなんだ俺のこと?」
「あぁ。」
「嘘ばっか。」

あんたの好きは俺と一緒じゃないって事くらい解ってるんだからな。自虐的に言うジャンをそんなことはないと、否定は出来ないながらも、ルキーノはジャンの名を呼んだ。今お前の目の前にいるのは、誰だ。他でもない俺だろう、と。そのルキーノの思いが伝わったのか、ジャンは瞳を丸くさせた後、罰の悪そうな顔をした。

「ごめん。そうだよな。」

だけど好きなやつには、自分の事だけ考えて、自分の事だけ好きでいてほしいって気持ち、あんたにだってわかんだろ?ジャンはそう言って綺麗な表情で笑うと、ルキーノの胸元に首元に顔を埋め、口づける。ベロリと舌を這わせたところで、ルキーノは非難の声を上げた。

「・・つ、お・・い、ジャン。」
「ごめん。って俺もさっきからこればっか言ってるな。」
「カヴォロ。解ってるなら、この手をどけろ。」
「そうだけど、あんたが辛くなるのも、朝早いってのも、解ってるんだけど、さ。だけど・・・」

あんたを俺で一杯にしたい。俺以外何も考えなくさせたい。独占したい。何度だって。なぁ、いいだろ?切羽詰まったようにそう呟いて、ルキーノの口内に舌を滑り込ませてきたジャンに抵抗する理由を、ルキーノは持ち合わせてはいなかった。

 自分は一番じゃないとお前は言うけれど、よく考えろよ。俺はお前をちゃんと好きだ。ジャンは俺のそんな思いを解っていても、不安が消えることは無いのだろう。だから独占欲まがいな行動や言葉が浮きぼりになるのだ。ジャンは、俺に無意識に壁を作っているんじゃないかと思う。ジャンにそうさせている理由はきっと・・・。
ルキーノは、自分を省みた。ふとあの男の言葉が頭に浮かんだ。

ーまた、失うのが怖いんだろう?ー

 黒ぶち眼鏡の奥からそのエメラルドの瞳を細め、男はそう言った。その気持ちがあるから本当に大切だと思っているそいつに、何も伝わらないんだ。ルキーノ、お前はそいつだけに理由を押し付けてる。壁を作っているのはそいつじゃない、お前だよ。だから信じない。信じられないないんだそいつも、お前の気持ちをさ。きっと不安なんだよ。
 まったく困ったバンビたちだね。そう言って苦笑を浮かべた男に、あぁそういえば、こいつは俺よりも五年も先に生まれているんだったと、思い出す。俺は相手が誰とは打ち明けていないのに、この男は解っているのだ。

(壁を作っているのは、俺か。)

気づいているのであれば、そこから抜け出して手を伸ばせばいいだけの事なのに、それがあと一歩で出来ないのは、やはり俺も怖いと思っているからだろう。お互い様かと、ルキーノは苦笑を零した。

「ルキーノ。何、他のこと考えてんだよ。」

不機嫌そうな声で名を呼ばれ、強引に口づけられる。俺の意識を独占しようと噛みつくように。男にしては可愛い作りをしている顔に似合わず、何もかも俺から奪っていくようなキスをしかけてくる。バスローブを割り開き、胸や腰を撫でるジャンの性急な手つきに似合わない羞恥が頬に走った。

「ジャン、待て、もう少しだな・・。」
「待てない。」

足を持ち上げられ、ジャンのものが腰に当てられる。先程出したばかりだというのに既に固くなっているこいつのそれに、ドクンと自身も反応してしまったことが、悔しく思う。

「さっき出したのまだ残ってるだろうし、このままいけっかな?」
「な・・ふざけっ・・つ!」

物騒な台詞に抗議しようとして、しかしその前にジャンのやつが腰を動かして俺の中に割り入ってきた。何度も身体を交えても慣れない下腹部の痛みに、ルキーノは唇を噛みしめる。それでも前の行為でジャンが出したものが幾分痛みを和らげ、思ったよりも苦労することなくジャンの全てが自分の中に収まった。ドクリとジャンの鼓動が生々しく自身の身体に響いているのが解った。

「・・つっ・・このば、か。」
「痛い?」
「くっそ、ヴァファンクーロ!痛いに決まってんだろうが!少しは考えろ!」
「ごめん。でも、止めてやんねーよ。」

あんたを俺で一杯にするまで。他のことなんかかんがえられねーくらいに。ルキーノはそんなジャンに呆れたように息をついた。けだるげにジャンを見つめる。怒っているのかと問えば、あぁ怒ってるよと、ジャンは言った。その答えに思わず脱力してしまう。

「怒りたいのは、こっち・・なんだが。」

これは俺が怒ってもいいだろう。いいんだよな。疲れたように目元を掌で覆うと、隠すなよルキーノとすねたように唇を尖らせる。まったく可愛い顔しやがる。これだから、何でも許して甘やかしたくなっちまうんだ。

「ルキーノ?」
「狡いのはお前だよ。」

年下を武器にしやがって。そう思うと、沸々と腹がたってくる。そうだ、何もこっちばかりが割を食わなくてもいいんじゃねーか。何を今まで流されっぱなしだったんだ俺は。こっちから行動してやりゃいい。
ルキーノは意趣返しとばかりに、自分からジャンのやつに唇を押し付けたのだった。







お前(あんた)のせいだ
(好きすぎて、こんなにも不安になる。)




End
シリアスのまま終わらせる技術が私になかった。
加筆修正必要なほど微妙な形で終わる。




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