[通常モード] [URL送信]

/etc
横取り3








 通称「ラッキードッグ」。運のいいやつだと誰もが俺のことを言う。両親はもの心を覚えた時には既にいやしなかったが、それでも昔から育ててくれた、親代わりのような師匠がいたから、不幸だとは思わなかった。それに探し物や尋ね人を、不思議なくらいなんなく見つけるし、賭事だって滅多なことでは負けはない。そして何よりも、仕事をする上で、どんなに絶体絶命のピンチに陥ろうと、失敗するなんて事はただ一度だってなかった。





「けど、俺さ。今人生の中の最大の不幸の波が訪れてんじゃねーかって思うんだって、おい!聞いてるのかロイド!」
「あーはいはい聞いてる聞いてる。」
「絶対どうでもいいって思ってるだろ!くっそーこういう時こそ俺を慰めろって。」
「まったく、酔っ払いを相手にする趣味なんてないんだけどな、俺は。」

そう言ってロイドと呼ばれた男は仕方なさそうに笑うと、男に泣きついて離れないジャンの背中をポンポンと軽く叩く動作をする。一見優しいこの男、ロイドは、まぁ、言ってみればジャンの遊び相手の一人だったのだが、最近はこの男にも、本来の性格に似合わず本命というものが出来たらしい。だからか、昔ほどには寝ることは無い。今は良きジャンの相談相手だ。けれどやはり時々、お互いの性癖も相まってか、軽いお遊び程度には寝てしまう事も多々ある。いってみれば、友人でもありセックスフレンドでもあり、実際は微妙な関係ではあるのだが、世間が思うほど、当人たちはその関係がおかしいとは思っていないらしいというのが、周りの見解だった。実際にジャンもロイドもそういう互いの関係をまったく気にしてない様子だった。

「俺の好みって可愛い子だったはずだったんだ。なのに、なんで俺あいつに落ちちまったんだろ。俺よりも図体でかいし、男前だし、ガード固いし!」
「まぁねー。確かに彼が男に抱かれるなんて想像出来ないしね。そんなに惚れてるんなら、いっそ抱かれたらどうだい?」
「断固拒否!ぜってー俺に憚って腰振らせてやるって決めてんだよ!」
「けどノンケを落とすって、なかなか道は険しいけどな。まぁ、頑張れ。折れそうになったら、何時でも慰めてあげるよジャン。」
「はぁー、ロイドお前本当いいやつ〜。お礼のチューでもしてやるよ。」
「はいはいありがと。」

ロイドの肩に腕を回して、軽いキスをロイドに送る。そんなジャンにロイドは笑って、ジャンの手に自身のそれを絡めた。

「で、どうする?今日俺の家に泊ってく?」
「あー・・・そう、だな。」

ジャンは迷うように目線をあげると、一旦言いかけた了承の言葉を止め、首を横に振った。

「やっぱ、やめとくわ。」
「なんだ、愛しい彼を思い出したら気が引けたのかい?」
「そんなんじゃねーけど、つか、あの野郎、俺が誰と寝てきても全く気にしないし。」

くそ、なんか言ってて腹立ってきた。んだよ、俺ばっか振り回されてる気ーする。またもやぼやき始めたジャンにロイドは呆れたように息を付くと、バシリとジャンの背中を思いっきり叩いた。

「つ!何すんだよ、ロイド。」
「あのね、そうグジグジいじけてたってどうにもならないだろ。折角の俺の誘いも失礼にも断ったんだから、こんなところにいつまでもいないで、さっさと帰ったら?」
「わーお、以外とロイドって手厳しいな。でも、そういうとこ割と好きだぜ俺。」
「はいはい、どうも。」

まぁそうだな、そろそろ帰るわ。クシャリと金髪を掌でかきあげて、胸元から紙幣を数枚取り出すと、ロイドの前にそれを置いた。

「グラッツェ、ロイド。今日は奢るからさ。」
「はは、一応は心えてるじゃん。なら遠慮なく。」

御馳走様、そうロイドは笑ってヒラヒラと手を振った。こういうロイドの後腐れないあっさりとしたところが好きなのだ。ジャンは苦笑を零して、彼に背を向けると、店を後にした。












「で、帰ってみたらこれかよ。」
「おぉー・・ジャン、はは、お帰り。」

げんなりとジャンが肩を落とした先にいたのは、ソファーに座って、既に出来上がっている状態のルキーノ。女もんの香水をプンプンさせて、当の本人は目元を気持ちよさげに緩めてジャンを仰ぎみた。

「あんたが酔っぱらってるなんて珍しいな。何かあったのけ?」
「あぁ?酔っぱらってなんて、いねぇーよ。バリバリしらふだぜ?」
「酔っ払いは皆そういうよな。」

おら、もうベッドいこうぜ?そうやって肩を貸してやると、手もとのウイスキーのグラスを机へと置き、危なげな足取りでルキーノはソファーから立ち上がる。

「で、なんであんたそんなに飲んだんだよ?」
「・・・んだよ、いいだろ?たまには飲みたい気分の時もあ、る。」
「いや、別に悪かかねぇーけど。」

よいしょとルキーノの部屋のドアを開いて、ベッドに転がす。気だるげに投げ出された腕を首元へと伸ばし、ルキーノはネクタイを緩めると、まだ熱いなと次はシャツのボタンを外し始める。そんなルキーノの姿に、ジャンはゴクリと思わず喉をならしてしまった。肌蹴た胸元から白い肌が見え隠れする。綺麗についたしなやかな筋肉が、ジャンには誘ってるようにしか見えない。

「おいおい。あんたそれ、俺に今ここで襲われても文句言えねーぞ。」
「・・あぁ?うるせぇーなぁ。俺は熱いんだよ。」
「そりゃ飲み過ぎだワン。」

ジャンは自身の相棒のその姿に苦い笑いを零すと、ギシリとルキーノが寝そべっているベッドへと腰を下ろす。そんなジャンに、あまりにも無防備な視線をルキーノが向けてくるから、か。ドクリとジャンの胸が大きく鼓動した。

「何だよ、そんな眼で見つめんなよ。照れるだろ。」
「・・ジャン。」
「何?」
「お前、・・今日どこにいた、んだ?」
「へ?」

少しだけ拗ねたような表情をされて、つい間抜け声を出してしまう。こんな状態のルキーノを普段見慣れてないせいだろうか。新たな一面を垣間見たからか、なんにしても心臓に悪い状況だ。

「・・こんな遅い時間に帰ってきやがって。待ってた俺が馬鹿らしい・・・だろうが。・・・」
「ル・・キーノ?え・・」
「お前が・・好きそうな酒買ってきてやったっつーのに、余りに待たされて、おれが全部飲んじまった。だから、もうねぇーぞ。・・残念だったな。」
「い・・いや、それは悪い。って、あんた俺待ってたの?」
「悪いか?」
「いや、全然。全然そんなことない!」

うわーうわーなんかそれってそれって、俺がこなくて寂しがってたみたいじゃん。あのルキーノが。何、それでルキーノこんなに酔っぱらってんのかよ、もしかして。俺の帰り待ってて、こんな。
 ギシリとジャンはベッドに上り、ルキーノに覆いかぶさるようにのしかかる。あぁ?と頬に薄く朱を走らせているルキーノの薔薇色の瞳がこちらを見上げてくる。

「ルキーノ。」

俺はそんなルキーノを真剣な瞳で見つめると、スルリとルキーノの頬へと手を伸ばした。触れた感触がくすぐったかったのか、身を捩ったルキーノを軽く体重をかけて抑えつけた。おもむろに肌蹴たルキーノの胸元へと唇を近付けると、酔っぱらっているせいか僅かな刺激にも反応をしめしたルキーノにカッとジャンの身体が熱くなる。

「ん・・ジャン?」
「まずい。結構キタ。」
「つ・・」

やばい止まらねーかも。確かめる思いでルキーノの唇に自身のそれを押し付ける。緩んだ口元に舌を差し入れて、さらに深く口づけた。酒がまわってるルキーノは今何をされているのか解っていないのか、思考が追いついていないのか、何にせよ抵抗の気配は無い。今のルキーノに手を出している自分に後ろめたい思いはあったが、それよりもルキーノに触れたいという気持ちの方が大きかった。

「ん・・、あ。」
「くそ、やばい。あんた可愛い。」

実際これ以上はやばいとは解っているのに、歯止めが利かなくなっている。ルキーノのシャツのボタンを全て外して、脱がせると、彼の体躯が露わになる。首筋に、胸元に舌を這わせると、ピクリと身体を震わせるルキーノの反応にジャンは満足気に笑みを浮かべた。

「なぁ、ルキーノ。」

一段声を低くして、ルキーノの耳元に擽るように囁く。

「あんたも我慢出来ないんじゃねーの?」

俺に任せれば、楽にしてやるし、気持ちよくさせてやれる。だからさこのまま俺に。そう言いかけて、伸ばされたジャンの腕がピタリと中をさ迷った。聞こえてくるのは安らかな寝息だ。目の前で閉じられた瞼は既に俺を映してはいなかった。

「・・・ちょ。ルキーノさん?」

この状態でまさかの放置決定?俺の元気な息子さんはどうしろと?息場の無い手に、ジャンは呆然とし。暫くして大きなため息を吐き出した。今晩は右手とお友達なのは確定らしい。

「やっぱ、人生最高に不幸の波きてんじゃねーのか、俺。」

あぁ、もう、とジャンはやけくそ気味にその場から立ち上がると、ルキーノに布団を肩まで被せてから、自身も寝に入るために自室へと向かったのであった。
 そして翌朝。


「あれ、お前いつ帰ってきたんだ?」

昨日の酔っ払い状態とは打って変わって、普段どおりの男前面でルキーノがそんな事を朝一で言うものだから。ジャンはますます遣る瀬ない気持ちになった。この野郎、あの後俺がどんな気持ちでいたのも知らないで、お陰でこっちはなかなか寝れなかったっつーのに!てか、当人まったく記憶すらないし!俺が帰ってきたのも覚えてないし!

「・・・・昨日は11時には帰ってきてたんだけど?」
「あぁ、そうなのか?てっきり朝に帰ってきたのかとばっかり。」
「・・ソファーで酔っぱらったあんた部屋に運んだの、俺なんだけど?」
「あぁ、だからか。悪いな、飲み始めて途中から記憶無くってな。」
「あぁ・そうですかぁー。」
「ん?何朝っぱらから拗ねてんだお前。」
「べっつにー気のせじゃないのけ?」
「そうか?なら良いが。」

変なやつだな、そう言ってルキーノは笑うと、手もとのフライパンをひっくり返して、うまい具合に焼けた目玉焼きをサラダと共に皿に盛り付ける。勿論、いつもどおり俺好みの半熟でだ。

「今日の夜はお前が作れよ。あといい加減魚食いたいから肉は勘弁してくれ。」
「あぁ、わかったよ。」

ジャンは苦笑を浮かべて、ルキーノの横にたつ。何だと、訝しげにこちらを見つめてきたルキーノに更に笑みを深めた。

「まぁ、いっか。あんたが俺がいないと寂しいっての解ったし。」
「はぁ?お前何アホな事言ってんだ?俺が何だって。」
「いいっていいって、こっちの話。」
「訳解らんやつだな。」

それ以上はジャンも何も言うことなく、ルキーノが用意してくれた朝ごはんの前に座る。そんな自分の態度に首を傾けるルキーノにジャンは心の中で苦笑を零し、頂きますと手をあわると、彼好みの目玉焼きに手をつけたのだった。











第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!