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イヴァルキ











#イヴァルキ








 過去のこいつがどういう想いで、裏切ったそいつの事を恨んだのかは解らない。だが、その事が原因で人を簡単に信じられなくなってしまった心情も解らなくは無かった。人には誰だってそいつ自身が抱えているものはある。俺だとて何時までも抜けない刺のような痛みが胸の内にあるのだ。けれどだからといって、何時までも昔のままじゃない。それは奴とて、解っているだろうに。










 突然強い力で腕を捕まれた。ルキーノが反射的に振り向くと、そこには不機嫌そうな面を隠す事なくそいつが、イヴァン・フィオーレが鋭い目線をこちらに向けていた。ルキーノは相手との会話を一旦止める。どこぞのご令嬢といった雰囲気を持ちルキーノの傍に寄り添っていた女も、それまでのルキーノとの会話をやめ、彼の存在に大きな眼を瞬いた。

「ドン・グレゴレッティー?お知り合いですの?」
「あ、いや彼は・・」
「同僚ですよ。」

ルキーノがイヴァンを紹介する前にイヴァンは、先程までの眉間に深く皴を刻んでいた面に、普段のそれとは別物の笑顔を張り付け、ルキーノの言葉を防いだ。イヴァンの変わり身に今まで女に対する彼の身の振り方をあまり見た事が無かったルキーノは顔には出さなかったが、内心驚いた。

「突然失礼しましたお嬢様。僕はイヴァン・フィオーレと申します。ルキーノとは同じCR−5の幹部、仲間です。」
「まぁ、そうですの?」
「えぇ、まぁ。」

女の黄色い声に反して、ルキーノは曖昧に相槌をうった。珍しく困惑していたのかもしれない。気色悪い・・とまではいかないが、普段の彼を見慣れているせいか、やはり違和感はあった。

「お話中申し訳ありませんが、彼をお借りしても宜しいでしょうか?少し用事がありまして。」

好青年。そんな印象を与えるイヴァンの柔らかい微笑みに女は顔を赤らめると、ルキーノから慌てて離れる。

「いえ、私の方こそ長い間ドン・グレゴレッティーをお引きとめして申し訳なかったですわ。では、私はこれで。」

女は丁寧にお辞儀をすると、そそくさとその場を立ち去り、会場の人込みに女の姿は溶け込んでいった。それを確かめ、ひそかにイヴァンは舌打ちを零した後、ルキーノの腕を強引に引き、ひきずるように歩き出した。

「お・・おいっ、イヴァン。」
「・・・・・。」

何も言わず、前を向いているイヴァンの表情はルキーノからは解らなかったが、見なくても大体は想像がつく。ハァーとルキーノは呆れたように嘆息を零した。大人しくイヴァンについていった方が良いだろう。でないと後々が面倒だ。

(それにしても・・・)

ルキーノはイヴァンに引っ張られながら、周りの自分らを見る視線に再びため息をつきたくなる心境になる。こいつは気づいているのだろうか。大の男を大の男がパーティー会場のど真ん中を突っ切って、引っ張っていく光景の異様さに。それに気づかないのが、まぁこいつらしいといえば、らしいのだが。
 二人して会場の外へと出る。デイバンシティーから少し離れた郊外にあるこの屋敷の庭で見る事が出来る空は悪いものではない。夜空に広がる星光は明るいデイバンの街中では見れないものだ。そんな事を頭の中で考えていたからか、急に立ち止まり振り向いたイヴァンの言葉に反応が少しばかり遅れた。

「あ?」
「だから、テメェ解っててやってんだろっ!?」
「何をだ?」
「しらばっくれんな!」

眉間の皴を深くさせ、口許をひきつかせて、イヴァンは怒鳴る。苛立っているのがよく解り、ルキーノはあのなぁーと、自身の髪をかきあげながら、深い息を吐き出した。

「んな、目くじらたてるなよ。ガキじゃあるまいし。」
「んだとっ!?」
「この俺が、だ。こうも解りやすい態度取ってるてのに、まだ信じられんのか?こういう世界だ。いちいちレディーに対して嫉妬してたんじゃきりがないぞ?」
「ばっ!嫉妬なんかっ!」
「なんだ、してないのか?」

ニヤリと含み笑いを浮かべるルキーノに、イヴァンは、「あぁーくそっ!」と悪態をつく。そんなイヴァンに笑い、グイッと奴の襟首を掴んで、奴の唇に自身のそれを触れ合わせた。ここまでしてやらんと、こいつはいつまでたっても俺の気持ちを信じない。確かにこれまでの俺達の関係を考えれば、今こいつとこういう関係になっている事事態が信じられない事ではあるのだが。

「俺はお前のもんだって言ってるだろう。自信持てよ。」
「本当てめぇームカつく野郎だな。」

鋭い視線は変わらない。だが口許を上げる仕種が幾分こいつの気分を上向かせた事を俺に知らせた。全く本当に困った野郎だ。

「つ、・・おいっ。」
「ア?んだよ?」

ふいに触れてきたその感触に、思わずルキーノは鋭い視線をイヴァンに向けた。自身の腰を辿るその掌が後ろへと回り、もう片方の腕はグイッと俺の肩を押し、後ろの壁に背中を預けさせる。

「こんなとこで・・・する気・・か?いい趣味とは言えんぞ。」
「うるせーな。もう我慢出来ねーんだよ。」

大人しくしてろって、そう言ってイヴァンはルキーノのスーツを床へと落とし、シャツを開く。首筋を辿るその唇の熱さに、ゾクリとした感覚が背筋に走った。

「つ、毎度・・疑問なんだが、な!」
「あぁ?んだよ、抵抗すんじゃねーよっ!」
「カッツォ!するに決まってるだろう!?」
「何でだよ!てめぇが言ったんだろうが!信じろってよ!なら大人しくしてろ!」
「どういう理屈だ、それは!?」

それとこれとは話が別・・・って、おいっ!ルキーノの制止も聞かず、イヴァンは一向に止める気配を見せなかった。

「何故俺が毎度こっちなんだ?普通体格的に逆だろう!?って、おいっ・・人の話をっ」

聞けと言ってるだろう、この馬鹿。そう言いつつ、段々と抵抗が弱くなっていく自分自身にルキーノは舌打ちした。確かにこいつに触れられるのは、嫌な訳では無い。だが俺とて男の矜持というものはある。

「じゃあ聞くがよ。テメェは、俺にそんなに突っ込みてぇーのかよ?」
「・・・・・いや、そう・・・でもないな。」
「なら、決まりだろうが。」

俺は例えテメェでも、犯られるは死んでもごめんだけどな、テメェには突っ込みてぇーんだよ、だから仕方ねぇーだろ。そういう問題かと尋ねると、じゃあどういう問題なんだよと逆に問われる。

「嫌、じゃねーんだろ?」

強気な発言にも関わらず、それに反して不安気に揺れる瞳に、これ以上抵抗する気も無くなってしまった。あぁ、そうだ。確かに嫌な訳ではない困ったことに。そんな事を思ってしまった時点でイヴァンに絆されている自分がいる事に、ルキーノは笑いたくなった。

(結局・・・)

こうなるのか。塞がれた唇に熱を感じながら、ルキーノはイヴァンを受け入れるように瞳を閉じた。


<変わったのはイヴァン、お前だけじゃない。つまりはそういう事だろう。>








あの頃の誰かはもういない



END





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