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short 33







*ジャン二重人格設定
黒ジャン×ルキーノ
ジャン×ルキーノ









 暗く沈んだ意識の底で、低く囁く声が聞こえる。その声は、男にとって自身の本能を無理やりこじ開けてくる煩わしいものでしかなかった。男はフルリと頭を振って、拒否の意を示す。だがそれはずっと男の頭の中にいつまでも響き、男が反論しても、〈良い子ぶってんじゃねーって、本心は違うくせに。〉と、挑発を止めない。唇を震わせながらも、男はその声に背を向け、無視し続け、頭からそれを除外しようと努めた。
あいつ発するもの総ては自身の根っこを揺るがすものだ。引きずり込まれることだけはあってはならない。闇の中で、その時ふと瞼の裏に思い浮かべたのは、自分よりも長身の彼の事だった。その赤髪を揺らして、男らしい自信が溢れた笑みを浮かべる姿に男は安堵すると共に、ほんの少しだけ胸の奥にチクリと刺さる痛みが走った。

(大丈夫だ。)

俺は。まだ狂いはしていない。言い聞かせるようにして呟かれた言葉は、自分に平気だという事を告げる。けれど、〈大丈夫なもんか。〉と、自身の思いを否定するように呟かれた言葉に、男は眉を潜めた。その反応に気分を良くしたのか、その声は面白げ笑ってそして
 〈自分に言い聞かせてる時点で、もう戻れないとこまできてんだよ。〉と、耳元で甘く囁くように、そう言った。。







 カチリカチリと鳴る時計音と書類を捲る音が室内に響く。山のような書類を憂鬱に思いながら、金色の髪を後ろに撫でつけ、ジャンカルロは手際よく自身のサインペンを紙に滑らせた。CR:5のボス専用の執務室で、筆頭幹部殿に言い渡された書類の処理にジャンは数日追われていた。またジャンともう一人、ジャンの相棒的存在であるルキーノ・グレゴレッティーも、である。ジャンは手は動かしながら、チラリと男の横顔を見た。ふわりとした赤髪は今日も綺麗に整えられており、乱れの無いその服装は清潔感と、男の色気をよりいっそう際立てている。ジャンと同様、数日執務室に籠りきりとは思えない程、彼には何処にも隙が無かった。相変わらずの色男ぶりにジャンは内心で感心していると、ルキーノはジャンの視線に気づき、「何だ?」と怪訝な表情を浮かべながら、声をかけてくる。ジャンは慌てて、「いや、何でもねーよ。」と、自身を取り繕って、再び書類に視線を戻した。ルキーノは訝しげにこちらを暫く見つめていたが、それ以上追及する事なく彼自身も作業に戻っていった。

(・・・ばれたかと思った。)

流石にさっきの態度は不自然だったかもしれないと、ジャンは内心で苦笑した。馬鹿だな俺と自嘲を零し、つい数時間前に漏らしたルキーノの言葉を思いだす。その時、ルキーノはジャンに向かって、「意地でも今日中に終わらせるぞ。」と、疲れを隠せないため息を吐き出していた。流石のルキーノも、ここ数日の書類処理が負担だったのだろう。彼の言葉に、単純ではあるが直ぐに仕事を終わらせて、休ませてやりたいなどと、俄然ジャンがやる気を起こしていたなど、当の本人は知るはずも無いだろう。もしこの気持ちを知られていたのならば、こんな風にお互い会話を交わすことも、共有する時間も、仕事上でのやり取りにも、全てに亀裂を生んでしまうだろう。

(好き・・・なんだよな。)

 ジャンはルキーノに惚れていた。男だという性別の問題を飛び越えて、ルキーノ・グレゴレティーというその存在そのものに魅かれていた。だが、自分の一方的な感情は、この男に知られる訳にはいかない。何故か。そんなものは決まっている。自分を本当に良き相棒と思ってくれているであろう彼に、そんな邪な感情を抱いているなど、知られたくはなかった。それはルキーノに対しての裏切りのようにジャンは感じていた。
 声が響く。唐突にジャンの頭の中でかけられたそれに、ジャンは眉を寄せた。そんな様子に気づいた様子も無く、ルキーノの視線は変わらず資料へと注がれている。彼に気付かれなかった事にジャンはホッとしつつ、平常心を装って自身のサインを再び紙に走らせた。当然だが、ルキーノには先程の声は聞こえていない。ジャンは、唇を引き結ぶ。可笑しな反応をすれば、先程は気づかれなかったが、今度こそルキーノは自分の事を変に思うかもしれない。第三者からみれば、その光景はジャンが一人で会話しているようにしか見えないのだから。その声は、返ってこないジャンの反応に興味を削がれたのか、それ以上話し掛けてはこなかった。ジャンは安堵の息をつくと、もう少しで終わりそうな気配を見せている書類に再び目を向けたのだった。






「あぁー終わった終わった!」
「お疲れさん。」

 最後の追い込みの甲斐があってか、漸く終了した仕事にジャンとルキーノは揃って背を伸ばし、肩の荷をおろす。もうその時にはとっくに日も落ちており時計の針は夜の十時を指し示していた。デイバンの街は店の明かりや車のライト、夜のイルミネーションが街全体を光らせていた。

「今日はもう休めジャン。後は俺がやっておく。」

窓際に立って、そんなデイバンの街なみを見つめていたルキーノは、外へ向けていたン視線をジャンへと向け、ジャンに労わる言葉をかける。俺と同じ、いやそれ以上の責務を現時点でも負わせてしまっているルキーノが口にしたその言葉に、多少の申し訳無さはありはしたが、ジャンも長時間の労働で疲れがあった。だから素直にルキーノの言葉にジャンは頷く事にした。

「あぁ、頼むぜルキーノ。くそ、俺はもうサインなんてしねーからな。マジ腱鞘炎になりそう。」
「文句は俺に言うんじゃなくて、ベルナルドに言うんだな。少しは考慮してくれるかもしれんぜ?」
「くくっ・・・猫撫で声で、ダーリーン、俺もうサインなんてやりやくねーよーってか?」
「ハハッ!そりゃ、ボスの直接のおねだりなら、筆頭幹部殿も悩殺、だな。」

ルキーノはジャンのおふざけに愉快そうに笑うと、一回やってみたらどうだと口にしてから、今日の報告書を纏めたものを腕に抱える。

「じゃあ、明日の朝は普段の時間に起こしに来る。」
「了解。」
「明日も早いからな、早めに寝ろよ。」
「解ってるって。心配性な部下を持って俺は幸せだな。んなの、このまま直行でオネンネに決まってるでしょ?」
「フ・・そうか。なら良い。」

ジャンの返事にルキーノはその瞳を和らげる。自分に向けられたその視線が余りにも優しいもので、ジャンはドクドクと普段よりも胸の鼓動が大きくなっているように感じた。なんであんたってそんなに思わせぶりな態度を俺に取るんだ、勘違いしそうになるだろ。そんな眼で見ないでくれよ、どうしたらいいのか解らなくなる。なぁ、アンタ自分が今どんな表情しているのか解ってんのかよ。俺がこんな気持ちになるのも全てあんたのせいだと言っても、文句なんか言えないって。グルグルと自身の中にある何かが渦巻いている。色んなものを巻き込んで、螺旋のようにグルグルと。伸ばしてはいけない手を、思わず伸ばして、ルキーノをひき止めたくなる衝動に駆られてしまいそうだった。

「お休みジャン。」
「あ・・あぁ、お休みルキーノ。」

ルキーノが執務室を出ていくのを確認してから、ジャンは無意識に息を零すと、胸の中からシガレットケースを取り出し、その一本に火を付けた。ふぅーと煙を口元から吐き出し、窓から夜のデイバンの街並みをぼんやりと眺める。

(なんか、夫婦みてーな会話。)

煙草を指先で弄びながら、そんな突拍子の無い事を考える。ジャンは苛立ち気にガシガシと頭をかき回し、口元に煙草をなえた。あぁ、なんでこんなにも苛立つのだろうか。もやもやとした感情は一向に晴れる事はなく、むしろ最近ますます重傷になっている気がする。それもルキーノが俺の教育係になってから、彼と行動する事が多くなったからなのだろうか。あの男に触れたいだとか、抱きしめたいだとか、キスしたいだとか、ふとした瞬間に思ってしまう事が多くなった。その度に我慢したり、とっさに誤魔化したり、最近の自分の態度は傍から見ても変だったに違いない。けれどそんな俺の戸惑いにルキーノは知らないふりでもしているのか、俺への態度があからさまに変るなんて事は今のところは無かった。いっそ楽になってしまいたいと思う事もある。けれどジャンは彼にだけは軽蔑されたくは無かったのだ。例え一生この思いがとげられる事は無いのだとしても。
 ジャンはフゥーと煙草の煙りを吐き出し、空気中に漂う白いそれに視線をやった。この煙りのように直ぐにこの気持ちは消えてはくれないだろうか。そうすればここまで苦しむことは無いのかもしれないのに。

(それに・・・だ。)

彼に思いを告げられない理由はもう一つある。自分を地面に縫いとめる大きな枷。それはルキーノが、あいつが今でも無くなった奥さんや娘さんを心の底から愛しているということだ。これが一番ジャンがルキーノへの恋心を隠す一番の理由だった。彼の亡くなった奥さんや娘さんと比べると、俺が入る隙なんて初めから有りはしない。忘れさせてやるなんて傲慢なことも思えない。自信もない。俺はただの臆病なヘタレ野郎の一人に過ぎないのだ。

(ほんと、お前ってうざってーな。見てて、腹たつわ。)
「・・・お前には関係ないだろ。」

ジャンは苛立たしげに彼の言葉にそう答える。直接語りかけてくるそれを防ぐ術は無く、ジャンも甘んじてそれを聞くしかなかった。

(関係無いって事はねぇーんじゃね?事実お前の考えてる事なんて、俺に筒抜けな訳だし。)
「かと言って、お前に説教なんかされたくねーよ。」
(お前馬鹿?さっさと無理やりにでも犯しちまえばいいのにな。まぁ、あんだけの体格差だし。それなりに手こずりそうだけど、それも薬でも何でも飲ませりゃさ。)

なぁ、簡単だろ?そう可笑しげに笑うもう一人の自分にフゥーと息をついた。

「簡単じゃねーよ。」

そもそもこの気持ちは、言葉にする気も無いし、形にもしない。それを、もう一人の俺は馬鹿にするけれど。自分はあいつの傍がただ心地が良いいから失いたくないだけなのだ。

(はっ、口では何とでも言えるよな。けど、忘れるなよ。)

フッと冷たたさを孕んだ瞳を、向ける。

(お前は俺だ。)

耳に残る、低く、言い聞かせるような。

(そして・・・・俺はお前だろ。)

それが本質だ。事実だと。だから俺がいるのだと。

(知ってるか?相棒。)

俺は、お前の・・・・









あきゅろす。
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