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ルキジャン





#ルキジャン









 窓際から朝焼けの日の光が室内を照らす。今の自分には憎たらしい程、そこは明るい光に満ちている。他人からしてみれば気持ちの良い朝の光景だろうが、徹夜が続いた日ほどこの光を煩わしいと思った日は無い。ジャンは執務机に詰まれた書類の山に視線をやった。三日前にベルナルドから渡されたそれは、漸く終わりそうな気配だ。夜中の二時頃までジュリオも俺に付き添ってくれたのだが、流石にその日の朝に、重要な仕事を任せていたジュリオをこれ以上付き合わせる訳にはいかなかったから、カポ命令で帰した。ジュリオ本人は最後まで渋ってはいたが。

「・・くそ、・・もう朝かよ。」

ジャンは嘆息をつくと、ガシガシと女からしてみても羨ましいと言われる程金色の髪(誰かさんの評価によるとだが)を乱雑に掻き回す。だがその金髪すら、二日前から風呂に入っていなかった為、ペタリと肌に張り付き艶をなくしている。実はこの三日は、煩く言う奴らが、つまり幹部筆頭と二席な訳だが本部から出払っていた為、ついつい身嗜みの類は面倒でさぼってしまっていたのだ。ジャンは眉をひそめると「くそっ」と、誰に向けたか解らない悪態を口から漏らし、椅子から立ち上がる。そのままバスルームへと向かい、鏡と向き合った。自身の今の姿を鏡越しで見て、ジャンは「ワーオ」とたいした驚きも感じていない腑抜けた声を零す。瞳は二日酔いのように充血し、髪はベタベタのボサボサ、顎からは髭をはやして男前、というよりくたびれたおっさんだ。

「・・怒られそー。」

誰に?とは言わずもがな自分のダーリンにである。今は出張で本部にはいないローズピンクの瞳の彼の事をジャンは思い出した。身嗜みには人一倍煩い奴の事だ。今の自分の姿を見たら、自分の姿への悪態をついた後、小言に始まり、長い説教に至り、しまいにはお仕置きという事態に成り兼ねない。今の状態でそれをやられたらと思うと、勘弁してくれと泣き言しか言えない。「仕方ねぇ、ちゃっちゃっと入っ・・・いやその前に一服。」と思い、胸元の煙草を取り出し、洗面所から執務机へと再び戻ろうと、足を動かした。

「ジャンいるか?俺は今、帰った所なんだが、そっちは大丈夫だ・・・・」

その時だ。ノック音と共に、扉が開かれ桃色の髪を揺らしながら彼が、ルキーノ・グレゴレッティーが部屋に入ってきた。まさに鉢合わせという状況に、ジャンはヒクリと口許をひくつかせる。おい、出張じゃなかったのかよ・・って、今日戻ってくるんだったかそういえば。やばいと脳内で赤信号が鳴り響いていた。ルキーノはジャンの様子とその姿に気付き、言葉を途切れさせる。眉間に皴を深くさせると、「おい」と低い声を室内に響かせた。

「・・・あはは、やっべ。俺今日イヴァンに付いていく予定があったなーなんて。」
「・・・待てジャン。」

ジャンがその場から離れようと、ルキーノの横を過ぎようとすると、ガシッと首ねっこを捕まれ、捕獲された。うっわー逃げらんねぇ。

「る・・ルッキーノさーん。俺急いでんだけどなぁー?」
「カーヴォロ。甘えた声出して逃げられると思うな。お前・・・サボったな?」

何を?とは、この際愚問だ。この野郎、んな細けぇー事いちいち気にすんじゃねーよ、くそったれと声には出さないが、ひっそりと思ってしまう。

「この馬鹿。あぁーもう!せっかくのブロンドがだいなしじゃねーか!」
「おい、ルキーノ!問題はそこかよ!」

てか久しぶりの恋人への第一声にそれは無くね?抱きしめるとか、ただいまのキスとか他にあんだろうが。不満そうな顔をしたジャンを気にするでもなく、ルキーノは相変わらず不機嫌な面で、腕を組み、ジャンを一瞥した。

「何言ってる。俺にとっては大問題だ。この頃カポの自覚が出てきたと思ったら、目を離すと、これだ。俺がいないとまともに風呂も入れないのか、この犬っころは。」
「だって、ここ数日外に出る予定なかったからよー。」
「言い訳するな。たく、お前のそのズボラな性格はそう簡単には直らねぇみたいだな。」
「あら、ハニーの指導の賜物で少しは直ってよ?」
「アホか。さっさと風呂入ってこい。それとも、一緒に入って俺が隅々まで洗ってやっても良いんだぞ、ん?」
「遠慮します。くそ、わかったっつーの。」

ニコリと良い笑顔を浮かべたルキーノを、ジャンは呆れ気味に息をつき、バスルームへと足を向けた。さぼってしまう事はあるが、ジャンとて風呂が嫌いという訳では無い。熱い湯をたっぷり浴びるのは、気持ちが良いし、好きだ。けれどそこまでの過程が面倒なだけで。コルクを捻り、ジャンは頭から湯をかぶる。何にしても二日ぶりのシャワーだ。

(・・・サービスくらいしてやった方が良かったか?)

先程、あぁは言ってしまったが、実際ルキーノの顔を見れた事は嬉しかった。なんせここ最近は忙しく、あいつと会う時間が殆ど無かったし、夜に顔をあわす度にエロい事をする俺達にしてはよくもったと言って良いだろう。長い間お預けくらってたライオンちゃんに奉仕でもしてやるのも良いかもしれない。

(・・俺もご無沙汰でたまってんだ。その分、今夜はアンタも覚悟しとけよルキーノ。)

久しぶりに存分にイカせて、あいつの可愛い面拝んでやる。ジャンは楽しげにニヤリと笑うと、シャワーを止めた。まぁ、流石に朝からはやりはしないけどなと、鼻歌混じりにボディーソープに手を伸ばしたのだった。












「で、何やってんのアンタ?そんな所でつっ立って。」
「お、上がったかジャン?」
「ん?あぁ・・って、うわっ!」

ジャンがバスローブを羽織って、バスルームから上がると、唐突にルキーノはタオルをバサリとジャンの頭に被せた。ジャンが声を上げるが、気にする事なくそのままガシガシと濡れたジャンの髪を拭っていく。

「おいおい、それくらい自分で。」
「まだちゃんとしてないだろうが。ほら次はドライヤー。乾かしてやっからこっちこい。」
「たく、あんたなぁ。」

そんなに手入れしたいんかこの金髪を。なんだか少し面白くなかったが、仕方ない。一応可愛い部下の言う事くらいは聞いてやろうかねと思い、素直にルキーノの前の椅子にジャンは座る。ドライヤーの熱が髪と首筋の間を通り抜け、撫でるようにルキーノの手がジャンの髪に触れた。

「熱くないか?」
「いや、そんな事はねぇけど、・・・やべー寝そー。」
「おいおい、これから役員の爺さんたちと会わなきゃならないんだろ?シャンとしないか。」
「そうでした。あ、だからルキーノ俺んとこきたのかよ?」
「ん、まぁ・・それもあるが。」

ルキーノは苦笑を零すと、言いづらそうに言葉を濁す。ジャンが先を促すと、ルキーノは急にジャンの顎を掴み、後ろからキスをしかけてきた。ジャンはルキーノの行動に驚いて、目を閉じる事は出来なかった。

「・・・お前に、会いたかったんだよ。・・・くそ、言わせるな。」

珍しく照れたような表情を浮かべているルキーノに、ジャンは苦笑を零した。このライオンちゃんは自分だけがそう思ってるとでも思ってんのかね。

「ばーか。俺も同じだよ。」

ルキーノに会いたかったと、甘い声で言ってやる。キスというオマケつきでだ。そんなジャンに、ルキーノも当たり前だ馬鹿と言い、互いにクスリと笑いあい、もう一度唇を合わせたのであった。


「・・なぁ、ジャン。」
「ん、何だよ?」
「お前・・髭剃ってないだろ?」
「ワーオ、ムードぶち壊し。細かい事気にするねぇー俺のダーリンは。」
「まぁ、それは今夜にたっぷりな。さて、そっちもやってやるよ。俺の可愛いボス。」
「マイハニーくらい言って欲しかったなー。」
「カーヴォロ。」














お楽しみはこの後で




END





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