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ジュリ+ルキ





#ジュリオ+ルキーノ(過去捏造話注意)











 昔からこの爺ぃは苦手だ。ルキーノは腹底でそんな事を思いながら、ボンドーネ家の邸宅でその現当主と向き合っている。腹の中の感情はおくびにも出さずボンドーネ氏を、いや正確に言えば、ルキーノが護衛をしているボス・アレッサンドロが酒を交えながらボンドーネ氏と会合していると言った方が的確だろう。ルキーノ自身はアレッサンドロの護衛に過ぎず今回の話し合いには参加出来ない立場だったが、付き添い人という形で彼の傍にいる。親父が何を思って俺を連れてきたかは解らない。ただ親父は俺にただ付いてくれば良いとだけ言った。だがら俺はその言葉に従いここにいる。ボスの、親父の言う事に間違いなどあるはずが無い。それは物心ついた時から、俺の中で何よりも絶対的なものなのだ。この世界に足を踏み入れたのも、彼の訳にたちたかったという思いからだった。暫くして、彼らの話が重きに流れていきそうになった所で、親父ーいや、ボスはルキーノに耳打ちをした。

「ルキーノ、すまねぇーが外に出ていてくれるか?」

何、これはいつもの事だ。カポレジームでは無いまだ構成員の立場である俺には組織的に聞かせられない話でもあるのだろう。ルキーノはアレッサンドロの言葉に素直に頷き、その場から離れようとした時、彼に腕を引かれて、耳元に唇を寄せられた。

(ルキーノ、俺がボンドーネ氏と話してる間に、子供を捜して、そいつの傍にいてやれ。お前より三つ下だ。多分直ぐに解る。)

子供?些か親父の言葉をルキーノは訝しく思ったが、解りましたとルキーノも小声でアレッサンドロへの返答を口にし、パタンとその部屋の扉を閉めた。はぁーと気が抜けたように小さく溜息をつく。出ていく直前にボンドーネ氏から注がれた鋭い視線が胸糞悪かった。

(やっぱ、あの爺ぃーは苦手だ。)

。いや訂正しようはっきり言って嫌いだ。何かとボス・アレッサンドロに対して一応の敬意は示してはいるものの、あれがどうの、これがどうのと昔からボスのやり方に口を出してくる。もう引退した身である癖に家の権力を盾にして今だに発言力があると勘違いしてやがるのか、あの押し付けがましい態度そのものが気にくわない。まぁ、構成員でしかない俺に上をどうこう言うことも出来ないがなと、ルキーノは苦い笑いを浮かべた。こんな事を思ってる事がばれたら親父にまだまだ餓鬼だなと笑われそうだ。

(解ってるんだよ、まだまだ餓鬼だって事は。)

けどあからさまに自分が尊敬する人に悪感情を向けられた言い方をされれば、誰だってムカつくだろう、俺は悪くない。

(さて・・)

ルキーノは短い溜息を口許から吐き出すと、先程親父に言われた子供を捜すために、赤い絨毯が敷かれたその廊下を踏み締めて、とりあえずその子を探しに歩き出す。

(子供つったってな。)

この屋敷は広い。捜すにしてもどこをどう探して良いのかさっぱりだ。だがすぐ解ると言うからには、近くにそいつがいるはずなんだが。そんな事を考えながら、ふと視線を前方へと向けると、ルキーノの視界にその紫が入った。

(・・・いたよ。)

確かにそいつはそこにいた。階段の近くでそいつは俺の姿をその眼でとらえると、こちらを警戒しているのか、鋭い眼差しをルキーノに向けてくる。

(どうすっかな。)

十四、五歳といったところだろうか。親父に傍にいろとは言われたものの、はっきり言って扱いに困ってしまう。取り合えず話しかけるだけしてみるかと、はっきりと姿を捕らえる事が出来る距離まで近づいて、ルキーノはハッと瞳を見開いた。

(こいつ・・・)

綺麗な顔だ。まだ子供といえどその端正な顔立ちは目を引かざるを得ない。いやそんな事は今はどうでも良い、それよりもと、ルキーノは無意識にその顔に手を伸ばし、それに触れていた。

「どうした?その痣。」

殴られのだと直ぐに解るような痣、口許が僅かだが切れている箇所がある。痛々しいその子供の顔にルキーノは眉をしかめた。俺の言葉が意外だったのか、そいつは大きな目を瞬かせ、こちらを凝視する。

「あ・・・いや悪い。見知らぬ相手にこんな事突然言われても、だな。」
「・・・いえ、さっき見ました。」

さっき?と、ルキーノが疑問を投げかけると、その子供は、玄関でとポツリと口にした。あぁ、この家に来た時なと、納得する。

「まぁ、見たなら話しは早いけど、俺はあの人の付き添いみたいなものだ。名前はルキーノだ。ルキーノ・グレゴレッティー。お前は?」
「・・・・・ジュリオ・ディ・ボンドーネ・・です。」
「ボンドーネ?もしかして、ボンドーネ氏のお孫さんか何かか?」
「・・・・はい、祖父ですが?」
「・・・そうか。」

あの爺の孫ねと、ルキーノは先程の狸ぶりを思い出して渇いた笑みを浮かべる。孫がこんな状態になるまで、いったい何したんだあの狸爺はと、不愉快な思いがルキーノの胸の内に沸き上がった。おそらく親父もこの事を知っていたから、この子を心配していたんだろうと合点がいく。そしてこの傷を付けたのが誰かもおおよそ解っていたんだろう。酷いことしやがると、ルキーノは再びその子供の顔を見て、眉間に皺を寄せた。ジュリオの頭に手を伸ばし、くしゃりと髪をすく。三歳くらいしか違わないと頭では解っているが、どうにも、こいつをそのまま放っておく事もルキーノには出来なかった。

「なぁジュリオ。」

またジュリオはその瞳を丸くさせ、自身を凝視してくる。驚いたのが俺の言葉になのか、この状況になのかは解らないが、ルキーノは構わずジュリオの頭を撫でた。

「痛い時は、痛いって言っておけ。我慢なんかするなよ。お前何も言わなそうだしな。」

俺にはこれしか言えないけどな、と苦笑を浮かべて、頬で固まっていた血をハンカチで拭ってやると、ジュリオは何か不思議なものを見るようにルキーノを見つめた。そのジュリオの反応にルキーノは苦笑を零す。深くこの子の事情を知りもしない俺が、下手に口出し出来ない。

「けど、もしどうしてもお前の爺さんに何も言えないってなら・・・」

困ったようにルキーノは笑うと、思わずそれを口にしていた。

「いつでも良い。俺にぶちまけにこいよ。」




















過去を思いだすように、空を見上げていた瞳を、ルキーノは一度目を閉じて、隣で並んで歩いているその紫の髪の男に視線を移した。小さかった身長は伸び、自分とあまり変わらない高い身長へ、小さい頃綺麗だと思ったその顔さえ、どの女も放っておかないだろう面になっていたその男を、ルキーノは感慨深気に見つめると、なんだと言いたげな目線を、ジュリオはこちらに向けてくる。

「いや、今じゃあの時の餓鬼が俺と同じ幹部ってんだから参るよなと、思ってな。」
「・・・・あんたに餓鬼扱いはされたくない。」
「餓鬼だっただろう?」
「・・昔の話だろう。」

ジュリオはルキーノの言葉に嫌そうに、いやどちらかといえば困ったような表情を浮かべ、ルキーノを一瞥する。

「結局、俺がボンドーネ氏の屋敷に訪ねないと、会いもしなかっただろう?そんなに嫌だったのか?」
「別に、嫌とは一言も言っていない。」
「なんだ、ならなんで会いに来なかった?」
「それは・・・」

ジュリオもどう言って良いのか解らず、その口を閉ざして考えこむ。長い沈黙に、呆れたようにルキーノはジュリオを見て、まぁ、別に今更構わんがなと肩をすくめると、ほら、さっさとお前の大好きなジャンを迎えに行くぞと、ジュリオの前を先に進んだ。その背を目で追って、ジュリオは何気なくポツリと、ルキーノに聞こえないくらいの声で囁いた。

「ただ、どうして良いか解らなかった・・だけだ。」

そう呟いたジュリオの言葉は強い風の音に遮られ、ルキーノに届くことは無く、掻き消える。ジュリオはふと、何故俺は小さいときかけられたこいつの言葉を今も鮮明に思いだせるんだろうかと疑問に思ったが、深く考えたところでその理由は解らない。思考に沈んで、止めていた足をジュリオはまた進める。指先を無意識に動かしながら、先に歩くルキーノの背を見つめ、昔の事に思いを馳せてみる。するとその時は解らなかった感情がまるで蘇ったように、ジュリオの胸を湧かせた。ジュリオはあの時のように、目を丸くさせると、大切なものを思い出したようにその目を細め、空を仰いだ。

(そうか、あれは・・・)

嬉しかったのだ。そんな気持ちをあの時の俺は知らずに思っていたんだと、忘れかけていた感情を再び引き寄せるようにして、そして再び忘れる事の無いように、ジュリオはそれを胸の中にしまった。ジュリオは先に歩いているルキーノの背中を再び見つめた。ジャンさんだけじゃなかったのだと、ジュリオは新しいものを発見したとでも言うように、それに手を伸ばしてみる。ギュッと、そのコートを掴むと、捕まれた本人は振り返り、何だ?と、訝し気にこちらを見つめてきた。

「いや・・・・何でも、ない。」
「あ?何言ってんだお前。」

変なやつだなと、笑ったルキーノの姿にジュリオは、今までジャン以外には感じなかったその感情が、ふと生まれたような気がしたのだった。















俺の天使はだれ





End
(ここから、ジュリルキ展開でも良い気がする。)







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