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short 29






#イヴァルキ






























 ゴゴゴゴと、そんな効果音が似合う暗くそして淀んだ空気が男の背後で揺らいでいるような気がして、イヴァンは思わずその場で後ずさっていた。隣でイヴァンと同じ理由で目の前の赤髪の男の怒りを買っている紫色の髪の青年は、はたから見ればまるで動じていないように見える。だが、彼も些か後ろめたさはあるのか、怒っている男の背後で金色の髪を揺らして、アハハ、やっちゃたなーお前らと渇いた笑みを浮かべていている男に困惑気味に視線を向けていた。おいジュリオ、なんでお前の判断基準は全てジャンなんだ。今はそれどころじゃねーだろうがと、冷汗をかきながらイヴァンは心の中で突っ込みを入れた。ここにくる前までは、自分では別に必要ないと思っていた事だったが、その結果が目の前の男を相当怒らせるものだったらしい。

「イヴァン、ジュリオ。」

男は、ルキーノはにっこりとした笑顔をその面に張り付けながらも、俺達の名を呼んだ声は、その辺のチンピラならば恐怖ですくみあがるような低くドスのきいたものだった。

「俺は言ったはずだな、お前らに。今回の主賓はボスであるジャンカルロだが、幹部である俺たちも護衛として行くから、それなりの格好して、幹部としての品位を損なうなよ、ってな。それなのにまだ用意出来てねぇーとはどういう事だ?」

常ならばルキーノなどに臆す事など無いし、睨み返して、同じくらいの迫力でもって言い返してやる所だが、今回だけは何とかなるだろと、こっちが軽く考えていた手前、下手に反抗する事も出来なかった。幹部連中の中でしきたりやら、マナーやらに一番煩いのは間違いなくルキーノだ。そのルキーノからして見れば、このような現状は許す事が出来ないんだろう。

「・・・・・ジャンさんの護衛に、ああいう類の服は動きづらい。」

ジャンさんの護衛なら別に服は関係無いだろう、とジュリオが不満気に小さくぼやくと、ルキーノは静かにジュリオと名を呼んだ。

「お前の言い分は解る。だが、俺たちは幹部だってのを自覚しろ。確かにただの護衛ならそれでも良いだろう。だがな、ジュリオ。判断基準は間違えて貰っちゃ困る。」
「・・・どういう意味だ?」
「確かに最優先すべきは、ジャンの安全だ。けどな、俺達幹部が低く見られれば、ボスであるジャンを見る目はどうなる?」

ジュリオはルキーノの言葉に目を瞬かせると、失念していたとでも言うかのようにハッと目を丸くさせ、次に泣きそうな顔でジャンを見た。

「ジャンさん・・俺・・・すみません。」
「いや、まぁ・・・気にすんなよジュリオ。俺も、そんな服くらいで大袈裟な、とか思っちゃってる訳で・・・」
「ジャン。」

窘めるように、静かにルキーノに名を呼ばれ、睨みつけられたジャンは、はいすみません。まだまだ自覚が足りませんでしたと、直ぐに発言を引っ込めた。ジャンの教育係であるルキーノに、この分野ではたとえジャンと言えど、逆らえ無いんだろう。

「イヴァン。」

遂にこちらにお鉢が回ってきて、あからさまにイヴァンは、視線を斜め上へと逸らす。そんなイヴァンに腕を組んだ状態で、ハァーと深い息をついたルキーノは、呆れたように眉間に皺を深くさせた。

「その様子じゃ、店にも頼んじゃいないだろう?」
「はぁ?そんな暇あるわけねぇーだろ。」
「なくても作れ。ちっ、まぁ良い。今更ごちゃごちゃ言っても仕方ないしな。」

ワーオ大変、ルキーノさん機嫌わりぃーなんて事をジャンの野郎は茶かしながらも悠々とコーヒーを傾けている。イヴァンはひとごとかよとジャンの野郎を睨んだが、むしろお前も苦しみに堪えてこい、俺は耐えた。逃げるなんて許さねーぞという顔で逆に睨み返された。うぉいそれ完璧に八つ当たりだろうが。

「ジュリオ、お前いつものお抱えどうした?」
「・・・・長期で休暇を取らせてる。」

服の事は全てその男に任せていたから、正直今は服の事は面倒臭かったとジュリオの顔に書いてある。まぁ、ジュリオの場合普段からそういうセンスは磨いているだろうから、別に問題はないだろうが、とりあえずは俺に付き合ってもらうぞとルキーノが呟いているのを聞き、イヴァンはこの流れはやばいと、逃げようとした瞬間ガシッと肩を掴まれた。

「逃がさねぇーぞ、イヴァン。」

ルキーノに、お前にはたっぷりじっくり仕込んでやるなんて、低く耳元で物騒な台詞を囁かれ、イヴァンは冷汗をかきながら、口許を引き攣らせた。






















(マジで冗談じゃねーぞ、おい。)

イライラと、その店のソファーで踏ん反り返りながら、店主と何やら話をしているルキーノをイヴァンは遠目から睨むが、それをあえて無視しているのか、本当に気づいていないのか、ルキーノはこちらを向く気配は無い。ルキーノが日頃贔屓にしているだろうこの店に一緒に連れられてきたジュリオは、寸法計り中で今はこの場にはいなかった。だが、今からあんなかたっ苦しい事にじっと耐えて大人しくしてなければならないのかと思うと、憂鬱としか言いようが無かった。

(あぁ、くそだりぃ。)

たく、なんでこんな事に無駄な時間を作らなきゃならねーんだと思いながら、でも結局は来ちまってんじゃねーか俺と、イヴァンはハァーと長い溜息をついた。

「何、辛気臭い溜息ついてる。」
「アァ?溜息もつきたくなるだろ。」

先程まで店主と話していたルキーノがこちらに近づいて声をかけてきた。それに、なんで俺がこんな所にと、不機嫌な表情を隠すこともなく言葉を返したイヴァンにルキーノは苦い笑いを浮かべると、何種類かの布切れを手にし、それをイヴァンに近づけてくる。

「不服って顔だな。だがな、このくらいは我慢しろ。俺達には必要な事だ。」
「わーってる。別に、嫌だとは言ってないだろうが。じゃなきゃ来てねーよ。つか、さっきから何してんだ?」
「あぁ、こういうのはな。直接合わせてみないと、何の色がお前に合うかって解らないもんなんだよ。」

その何種類かの布切れをルキーノは真剣な表情で、色を比べながらいくつも当てていく。

「つか、俺みたいなやつに、んな畏まった服似合うはずねぇーだろうが。」
「あ?何馬鹿言ってる。」

ルキーノはイヴァンの発言に、眉間に皺を寄せた。

「それなりの見れる顔は持ってんだ。似合わない訳無いだろう。」

おい、何恥ずかしいことんな堂々と言ってやがんだコイツと、思わず面をくらったようにルキーノをイヴァンは見つめた。いや、そりゃいくら俺が元からかっこいいとは言え、直でんな事言われてみろ。なんつかこっちが照れるだろ。そんなイヴァンの様子に反して、今の発言を何とも思ってないのか、ルキーノは布切れから視線は外さずに、まぁ俺の方が良い男だがと、冗談混じりに薄く笑みを浮かべる。それを笑い飛ばしてやりたかったのだが、何故か出来なかった。

(くそ、マジで調子狂う。)

なんか可笑しくないか、この状況。大人しくルキーノの色選びに付き合ってる俺も俺だが、ルキーノが機嫌が良いのか知らないが、空気が違うような気がしてならない。普段よりも近いヤツとの距離と、フワリと香ったルキーノの香水が尚更イヴァンを落ち着かなくさせていた。視線の先に赤髪が揺らぐ。あの時と同じくらい近い距離。濡れた感触がイヴァンの脳裏に蘇る。あぁ、今考えればこいつとのキスはさほど悪くは無かったな。あいつの表情も普段とは違ったものだったから余計。そこまで考えてピタリと思考を止めた。

(だぁー!!!俺、何考えてんだっ!!)

あの時の事は、忘れたんだろうが。忘却の彼方だろうが!第一こいつ男だっての!しかも、可愛くもない、図体がデカイ何処からどう見ても男。なのになんで、俺は!
この感覚はマズイと、イヴァンは勢いよく立ち上がった。唐突なイヴァンの行動にうおっ!と、ルキーノが驚きの声をあげたが今はそんな事を気にする程余裕など無い。

「おい、イヴァン!?まだ・・」
「うるせぇーな、便所だっつの。」
「って、もっと上品に言えんのか。たく、それならそう言え。」

背後で聞こえる少々不機嫌そうな声も、今は気になどしていられなかった。イヴァンは周りには普通に見える速度でトイレの場所へと気持ちだけは駆け込む心境で、バタンと扉を乱暴にしめ、鍵をかけた。そしてまさかの身体の変化に情けない気分になる。

(まじ・・・・かよ。)

勃っちまったと小さくぼやいて、信じらんねー頭を抱えたくなる事実に目元を片手で覆った。ハァァーとイヴァンは今までに無いくらいの長い息をその口許から吐き出したのだった。












初嵐
(前触れなのだと、認めたくは無かった。)















END
(ルキーノの香水の臭い嗅いで、キスした時の感触思い出して、無意識に欲情しちゃったイヴァンが書きたかっただけ。いや、シリアスばっかだと疲れるからね。え、イヴァルキですよ?)








あきゅろす。
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