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short 28








#イヴァルキ
(「残像」のイヴァン視点寄り。ルキーノ出てきません。)






































 何なんだあいつは、さっき来たかと思ったらすぐに帰りやがって。店を出ていくやつの後ろ姿を見ながら、イヴァンはそんな事を思わず考えてしまった自分にハッとして、小さく罵倒を零した。くそ、これじゃあの野郎ともっと酒を飲みかわしたかったみたいじゃねーか。机の上で冷えたグラスが汗をかき、茶色の液体が波打っているのをイヴァンはじっと見つめる。先程のルキーノとのやり取りを再び思い出して、ガッと机をおもいっきり叩くと、イヴァンはそのまま背中を折り曲げて突っ伏した。

(くそ、ファック!この俺があんな野郎の言葉で嬉しくなるとか、アホじゃねーのか。)

しかしそんな思いと裏腹、自然と上がる口元にイヴァンは平常心を装うとして眉間のしわに寄せ、しかめっ面をしようとしたが、やはり失敗した。くそ、やっぱ口元ひきつっちまう。仕方ねーもうやけだ。イヴァンは目の前のグラスを一気に干した。

(・・・前程、嫌ってわけじゃねーんだなよな、これが。むかつくことによ。)

前の自分ならば、自身のテリトリーに入ってきたのならば、それこそ罵倒の嵐、胸糞悪い思いを感じていただろう。だがそれがどうだ?胸糞悪いどころか、もっとあいつと酒を飲みかわしていたかっただんて思う自分がいる。その変化をイヴァンは然程嫌だとも思わなかった。それこそ前の俺はすっげーせめー世界の中で生きてたんだなとと思うくらいだった。それもこれもジャンがCR:5のボスとなってから、俺の視界は随分と開けたのだと思う。だからか、他の幹部たちに対しても前は一面でしか判断出来なかったそれが、色んな方向から見れるようになった。そして思っちまった。ここになら俺は骨を埋められる。こいつらなら信用出来る。CR:5の為ならば死んでやっても別に構わないし、悔いもねーなんてことを。思わずイヴァンは笑いたくなった。この俺がこんな風に思う時がくるなんてよ、何かの冗談かよ。ハっと鼻を鳴らして上機嫌に、イヴァンはその場を立ち上がった。まぁ、そんな事誰にも言ってやる気はないけどな。特にジャンの野郎なんかに言ったらそれこそぜってーからかわれるにきまってら。バーテンに勘定を支払い、イヴァンは店の戸口を潜ると外へと出た。

(くそ、さみーな。)

冷たい風にブルリと肩を震わせ、メルセデスを止めてある場所へとイヴァンはその足を向けた。空に浮かぶ月が普段より明るく見える気がした。先程まで苛立っていた気分が嘘のように晴れている。イヴァンはルキーノの言葉を思い出した。俺に馬鹿と言ったことは許さねーが、確かに俺らしくは無かった。そうだ、俺はぐちぐち考えて悩むなんて性に合わねーんだよ。あの野郎の言葉に励まされたってのは頭にくるが、まぁたまには野郎の慰めに乗ってやるのも悪くねーだろ。暫くして、イヴァンはぴたりと進めていた足を止めた。ふとあの野郎はどう思っているのか聞き出したいと思った。仲間だと面と向かって言われた事は無い。そうは思ったものの、そんな事は聞かなくても別に問題も無いし、何かが変わる訳でもない。だが俺と同じような変化を奴も感じてるのは確かだった。それは今の俺へのあいつの態度が既に物語っているからだ。自分のテリトリーに入られるの嫌い、誰も信じることなど出来なかった昔の俺と同じように、昔のあいつだったならば俺なんかを気にかける事もしなかった筈だ。生粋のイタリア系であるあいつが、非イタリア系の俺をだ。それでもイヴァンは一度聞いてみたい気もした。あいつの口からはっきりと、あいつ自身の言葉を。そんな自分に再び笑いだしたくなった。

(あぁ、最高じゃねーか。)

イヴァンはニッと笑みを浮かべる。変わってきてんだ。人も時代も。そして、きっとこの先の未来も、CR:5もきっと変わる。ジャンを中心にして、変える事が出来る。非イタリア系でないやつらが下に見られることなく、身分も血も関係なく上にあがっていける組織に。イヴァンは嬉しげに口角をあげて、自身の愛車の戦乙女のエンジンをかけると、高揚感と共に夜道をかっとばしたのだった。誰にも見せず、晴れぬ雨の中で一人変わりたくないと叫び、過去に縋る者を置き去りにして。











追憶
(人知れず、赤髪の男は不釣り合いな穏やかな笑みを浮かべながらポツリと言った。だから、お前らは先に行けよと。)












END
(・・・・何も突っ込まないで下さい。)







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