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short 26




#ルキーノ+ジャン
(CP要素無し。誰のルートにも入ってない状態)


















 固く握られた拳に、それは優しく触れてきた。俯いていた顔を上げて、見上げれば自分の掌を包んだ手の持ち主は険しい顔でこちらを見つめる。ジャンは何かを言いかけて、しかしそれを止めた。唇が震えて声が出なかったからとかそういう訳ではない。聞いても無駄な事だったからだ。返答が解りきってるものを今更目の前の男に聞いてどうなるというのだろうか。おそらくこの男は、自分を慰める言葉を口にすると同時に、典型的な答えを自分に返してくるだろう。こいつは誰よりもマフィアという組織を知っていて、マフィアの生き方に準じているコーサノストラだから。

(それでも・・・)

仕方なかったで、終わらすにはあまりにも自分は未熟で、簡単に割り切れる訳はなかった。仕方なたかったで、こんなにも簡単に人が殺されて良いのだろうか。自分のような者を庇ったせいで、失ってしまったその命は、仕方なかったと終わらすくらい軽いものだったというのだろうか。恋人がいたかもしれない、妻がいたかもしれない、子供がいたかもしれない、家族がいたかもしれない、頭の中でグルグルと様々な考えが回って、血まみれになったそれをジャンは見下ろした。自分を庇って自分に向かってきた銃弾の盾となってくれた、先程まで言葉を交わしていたそいつが、一瞬にして息をひきとって、実にあっけなくその命を終えたのだ。ジャンは先程よりも強く拳を握り、唇を噛み締めた。爪が食い込んだ掌はきっと血まみれだろう。それでもジャンはそれを痛いとは思わなかった。そんな事よりも心の方がミシミシときしんで痛かった。ルキーノがあまり気にやむなと自分を気遣う言葉をかけ、自分の掌が再び優しく包みこまれる。ぎゅっと慰めるかのように握られたそれに対して、ジャンの頭にカッと血が上った。気にするな、気にするななんて、そんな言葉で片付けるなよ、人の命はそんな軽い言葉で片付けて良いもんじゃない、ふざけんなよ。責めろよ、責めれば良いだろ、なんで責めないんだよ。そして俺は決してそいつに言ってはいけない言葉を口にした。あんたに何が解るんだ!!?そう叫んだ瞬間強く痛いくらいに掌が握られる。つっ、と痛みに思わず声をもらした。

「何がわかる、だと?」

怖いくらい低い声だった。無理矢理押し殺すようなルキーノの言葉にジャンはハッと身体を震わせた。

「そんなの・・・・解るに決まってるだろう?」

震える声で悲しげに囁いたルキーノの様子に、ジャンはその時、自分はこの男を傷つけてしまったのだと理解した。何故俺はこいつにそんな馬鹿な事を言ってしまったんだと、愕然とした思いがジャンの心を更に軋ませた。その言葉はたとえどんな事があったのだとしても、決して彼につきつけてはいけないものだった。誰よりもルキーノは命のはかなさとその重さを知っているはずなのに。

「悪かった。そんな顔をするな。」

ルキーノはジャンの様子に苦笑を浮かべて、くしゃりと慰めるように頭をかきあげた。そんな姿に鼻がツンとした。あんただって慰められたいだろうに。

「初めからいなければ・・」
「え?」

唐突にルキーノが小さく零した言葉にジャンは視線を投げかける。

「出会っていなければ、失うことなんて無かったのになって、俺だって、時々考えちまう時はあるさ。けど、それは無理な話しだ。」

ルキーノは一瞬何とも言えない表情を浮かべたかと思うと、その瞼を細め、ジャンにニヒルに微笑んだ。

「俺達は今を生きなきゃならない。精一杯な。違うかジャンカルロ?」
「あぁ、そう・・だな。」

後は部下に任せて、一旦本部に戻るぞというルキーノの声にジャンは、あぁと答えて先に歩き出した彼に付いていく。ジャンはふとルキーノの背中を見た。真っ直ぐとした迷いの無い背中、それでも時々不安に思う事がある。

(あんたは本当に、そう思ってるのか?)

今を生きる。そう自分に言い聞かせてるのはお前なんじゃないのかルキーノ?その答えを目の前の背中が語るはずも無い。ルキーノは見せない。ジャンにはルキーノが何を思ってるのかなんて解りはしなかった。だけど、あぁーまただ。

(・・・死の臭い。)

時々ルキーノに纏わり付くそれが、ジャンを不安にさせた。迷い無く歩いているはずのその足に絡んで今にもルキーノを引きずってしまいそうなのだ。まるで振り向いて歩みを止めた瞬間にそれは絡み付いて、捕えてしまうぞとでも言うかのように。静かに侵食されて、いつか誰にも知られず一人で壊れていきそうな。

(くそ、本当に未熟だ、俺。)

まだルキーノ達に助けて貰わなければ殆ど何も出来ない。俺からはまだ手を差し延べてやれない。ボスという器には到底足りない己の力。今だってルキーノに対して何も言ってやれない自分が情けなく思った。けどだからこそルキーノを、そしてあいつらを全て受け止めてやれるくらい強くなりたいと思った。前方からいつの間にか離れてしまっていたジャンを呼ぶ声に返事をして、ルキーノに追い付くためにジャンは地面を蹴った。











願ったのは、その力だ
(アンタ達を守れる力だ。)









END
(私は何を言いたかったんだろう。)







あきゅろす。
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