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ルキ+ジャン#




#吸血鬼なルキーノとジャン
















 闇夜に浮かぶ月の淡い光が窓を通してぼんやりとした明かりが照らす。ある森の奥深くにある城の中の寂とした最上階にある一室で、ギュッとベッドのシーツを強く掴んで、ハァと苦しみに耐えるようにその男から荒い息が吐き出された。金色の髪が揺れ、その男の肌には苦痛を表すがごとくじんわりと汗が浮き出て、ポタリとシーツへと水滴が滴る。そこへギッとその部屋の扉から鈍い音が響き、バタンという音と共にその男が身を預けるベットに近づいてくる足音が響いた。コツンコツンと数歩響いたそれが止まる。金色の髪の男ジャンカルロはくやしげに唇を噛むと先程この部屋に入ってきた目の前の赤髪の男へと視線をやった。

「ルキ・・・ノ。」
「また、飲んでないのか?」

ルキーノと呼ばれた赤髪の男は仕方が無い奴だとその厚い唇から息を零し、ギシリとベッドに腰を下ろすと、くしゃりと慈しむようにジャンの頭を撫でた。

「毎度同じ事言ってしつこいかもしれんが、お前が血を飲むのが嫌いなのは知ってる。勿論飲まなくても、死ぬ事は無い。だがな、血を飲まないと体力も能力も弱くなるのは解っているだろう?それに俺たち吸血鬼の本能に抗うのはお前だって辛いはずだ。」

言い聞かせるようにルキーノはジャンの頭を撫でながら、強めに言葉を吐き出した。ジャンはそんなルキーノの言葉に解ってる、と熱い息を吐き出して、無理矢理に笑ってみせた。

「けど・・・俺は・・アンタ以外の、つ、血なんて飲みたくねぇんだ。」
「・・ジャン、俺はいつでもお前に会いに来てやれる訳じゃないんだぞ。」
「あぁ、・・それも解ってる。けど無理だ。自分の為に、他人を殺してまで血なんか吸いたくねぇ。」
「たく、お前は本当にどうしようもないやつだな。」

ルキーノは苦笑を零すと、自身の腕をナイフで躊躇いもなく切り裂いた。傷口から赤い鮮血がルキーノの腕を辿り、掌へと流れ、ポタポタと床に滴る。

「ほら、ジャン。」
「ん・・」

ルキーノは自身の掌をジャンの口許へともっていってやると、ジャンはルキーノの腕を掴んで、その小さな舌でもってルキーノから流れ出る血を吸い、喉に下し、自身の体内に取り込む。我慢していたせいもあるだろうが、むしゃぶりつくといった表現がその食事の光景には似合っているような気がした。吸血鬼本来の自己治癒能力からもう既に塞がりかけていた傷口から流れていた血を幾分舐めきると、言いにくそうにしながら、ジッとルキーノの顔を上目づかいで見つめてきたジャンに、ルキーノは苦い笑いを浮かべた。ジャンの求めているものが、口にしなくても解っていた。

「足らないか?」
「ん、すまね。まだ欲しい。」
「仕方ないな、ほら。」

ルキーノは自身の少し長めの髪を上げ、首筋をジャンに曝した。

「あんまり吸うなよ、後で都合が悪くなるからな。」
「解ってるよ。」

先程よりは、顔色が良くなったジャンが誘われるようにルキーノの首筋に顔を埋め、チロチロと舌を這わせて、その牙をたてた。感じた鈍い痛みにルキーノは一瞬目を閉じ、唇を噛み締めたが、直ぐにジャンの頭を抱えてジャンが食事しやすいようにしてやる。ジュルリと血が吸われる感覚に妙な気分になりながら、暫くジャンの好きにさせていた。

「ジャン・・悪い。そろそろ・・・」

ルキーノがジャンの耳元でそう囁くとジャンはハッとしたように、目を見開いてルキーノの首筋から牙を抜いた。その顔は何処か焦ったような表情だ。

「・・・・・つ、やばっ。吸い過ぎたっ。ルキーノ平気か?」
「・・カーヴォロ、これくらいたいした事は無い。・・・それよりお前こそ大丈夫か?」
「お、おう。俺は大分アンタから貰ったから楽になった。」
「なら良い。」

満足そうにルキーノが笑うと、スッと何事も無かったかのようにそこから立ち上がった。

「ルキーノ、いつもごめんな。アンタに迷惑かけてるのは解ってんだけどよ・・」
「気にするな。お前が無理して他の血を口にする必要は無いさ。それに俺も好きでやってる事だしな。」
「俺もアンタみたいに他のやつから吸飲出来ればこんな事・・」
「この馬鹿、それが出来ないんだろ?お前はそれでいいさ、何も俺みたいになる必要は無い。」

落ち込むジャンにルキーノは優しく微笑み、ポンポンと頭を叩いてやると、ジャンがはにかんだ笑みを浮かべた。ジャンのその笑顔がルキーノは好きだった。こいつのこういう表情を見るとなんでもしてやりたくなる。この感情はこいつの兄に近い気持ちに似ているような気がした。

「・・お前は他人を手にかける気持ちなんて知らなくていいさ。」

ぼそりと低く囁いたそれは、どうやらジャンには届いて無かったらしい。あ?と、惚けたように首を傾けた。

「あ?なんだよ、なんか言ったか?」
「いや、なんでもない。また暫くたったらこっちにきてやるよ。」
「グラーツェ、ルキーノ。」

見送るジャンに苦笑を零して、ルキーノはジャンの城を後にした。バサリと黒い羽をひらいて、夜の空を舞う。その際にクラリと貧血による眩暈がしたが、ルキーノは気を持ち直して自分の城の方へと向かった。暫くして自身の住家としている城塞がルキーノの目に映った。ヒラリとその門の前に降り立つ。自分が戻ったのを確認した門番が、形式的に頭を下げた。

「お帰りなさいませ、ルキーノ様。」
「戻った。父上は?」
「は、既に戻っておいでです。」
「そうか、有り難う。」

ルキーノは門番にそう告げると、羽を邪魔にならないように仕舞い、父がいるであろう王の正殿の方へと足を向けた。幾分焦ったような気分から、足並みは早くなっていた。

「親父!いるか!?」

ルキーノがそこへと足を踏み入れるとこの城の王でありルキーノの父親であるアレッサンドロは「なんだ、どうしたルキーノ?」と目を丸くさせながら、こちらを凝視した。すると息子の様子を一目で察したアレッサンドロは、この馬鹿がと小さく呟き、眉を潜めた。

「また、ジャンに血をやったのか?」
「・・・見てられ無くて、な。」

父親の顔を見て、安心したのかルキーノは気をはっていたそれを崩して、近くのソファーへとぐったりと突っ伏した。やれやれとアレッサンドロはルキーノの様子に溜息をつくと、飲むか?と手元に持っていた赤ワインを掲げるが、いや、それは良いと小さく返答した。

「まったく、今はお前も他人の血をあんまり飲めないくせに、意地張って無理をするからこうなる。」
「仕方ないだろ・・ジャンに、・・言えってのか?血を飲もうとしても殆ど吐き出しちまうなんてな。」

カッコ悪すぎだろうと、ルキーノが自嘲気味に笑うのをアレッサンドロは神妙な面持ちで、手の酒を煽る。

「一応、ストックはお前の部屋に用意しておいてある。後で吐き出してもいいから、少しでも飲んでおけ。」
「・・・すまん、親父。」
「別にこれくらいは、たいした事じゃないから気にするな。ほら、さっさと部屋に戻って休んどけ。」
「あぁ、そうさせて貰う。」

お休み親父と言い、ルキーノはアレッサンドロに背を向け、そこを出て行った。アレッサンドロは再び大きな溜息を吐き出すと、コトリと机に飲みかけのグラスを置き、窓の外の月を見つめた。

(そういえば、あの時も満月だったか?)

今思い出しても忌まわしいあの夜、息子の天使たちの命があいつの目の前で奪われた。ルキーノの天使は狼族だった。種族間の問題はあったが、それでも息子が幸せならばとアレッサンドロもその付き合いを見守ってきた、しかしそれを許さない者たちによって、ルキーノの大切なものは奪われたのだ。殺ったのは同じ吸血鬼だった。
それからだ、ルキーノが血を飲もうとするたび吐き出すようになったのは。おそらくルキーノは大切な者が同族によって殺された事実のショックから血を身体が拒絶反応を起こしまってるのだろう。それは今もルキーノを苛む闇だった。ルキーノは吸血鬼でありながら吸血鬼を憎んでいる。それは父であるアレッサンドロにさえどうすることも出来ないものだった。アレッサンドロは自身の無力さに歎きながら、飲みかけの酒を一気に煽ったのだった。







血か愛か





END






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