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short 23










「よう、やっぱりここにいたのかイヴァン。」
「あぁ?何でてめーが此処にいんだよ。」

イヴァンが仕切るその店の入口を潜ると、カウンターに一人酒を煽るそいつの姿を眼にし、ルキーノはその長い足を進めて声をかけると、案の定イヴァンは苦いものを飲み込んだような表情をその面に浮かべた。

「お前の部下に、な。この場所聞いたんだよ。」
「くそ、おしゃべりな野郎だな。」
「そう言うな。」

俺が聞いてんだからしゃべらざるを得ないだろうがと、苦笑をこぼしながらルキーノはカウンターの向こうにいるバーテンにウイスキーストレートでと言葉をかけ、イヴァンが座っていた隣にその腰を下ろした。

「何しにきたんだてめぇーは?」
「ん?お前と酒が飲みたいなと思ってな。」
「ハ、暇人かよ。」
「たまたま今日はシノギのあがりが早かったんだよ、そう突っかかる言い方をするな。」

チッとイヴァンはルキーノの言葉に舌打ちを零して、手に転がしていたそれを勢いよく煽り、バーテンにボトルを持ってくるようにと言う。その様子を横目で見ながら、ルキーノは先程バーテンが運んできたグラスをゆったりとした動作で口元に運んだ。暫くお互いに言葉は交わさなかった。ルキーノとて何かをしようと思ってイヴァンと酒を飲もうと思っていた訳では無かったし、今日のイヴァンの様子が可笑しいと思いはしたが、問い詰める気にはならない。それはイヴァンの問題であるし、ルキーノ自身がどうこう出来る問題でも無い気がした。ただ気になったのだ。理由なんてその程度のものだ。

「ピッチ・・・早いぞ?」
「アァー?・・・てめぇーが気にかけることじゃ、ねーだろうが。」
「そうでも無い。お前が潰れたら俺が連れ帰んなきゃならないんだぞ。そんなの御免だからな。」
「くっそ。むかつく野郎だな。」
「・・どうとでも言え。」

それでも憎まれ口だけはご立派に返すイヴァンにルキーノは笑った。それほど重傷って訳じゃなけりゃそれで良い。ただこういう時は一人で考え込まない方が良いのだ。溜まってるもんをイヴァンが素直に吐き出す訳は無いが、一人でいるよりはましだろうという事をルキーノは知っていた。

「おい、ルキーノ。」
「何だ?」
「聞きたい事があるんだけどよ。」
「改まって、どうした?お前らしくないな。やっぱお前酔ってんだろ?」
「うるせーよ。じゃなくて、だな・・。」

くそっと、何処か言いにくそうに口を開いたり閉じたりしているイヴァンにルキーノは訝し気に眉を寄せた。イヴァンは自身のズボンのポケットから折りたたまれた何かを取りだしたかと思うと、それを自身に突き出してくる。

「何だこれは?」
「いいから、・・・開いてみろよ。」

イヴァンにそう言われてルキーノは疑問に思いながらも四つ折りにされたそれを開いていく。そこには一人の男と女が一人笑っている姿が映し出されていた。

「写真か、どっちも若い。女もえっらい美人じゃねーか。これがどうかしたのか?」
「そっちの男の方な、今日俺が殺した昔つるんでたやつだ。」
「こいつが、か?」
「あぁ。てめぇーは部下に任せてこいつの顔見てないんだろうが。そいつの服から出てきたんだよそれが。やっぱ、それ・・そいつの大事な女なんだろうな。」
「まぁ、確かに写真をわざわざ持ち歩いてんだから、そうだろうな。まさかイヴァン、お前罪悪感感じてるのか?」
「ちげーよ、撃っちまったこと自体は別にどうってことねー。ただな・・・」

ボトルに入った酒をイヴァンは空っぽになっていたグラスへと注ぐ。並々と注がれた液体が店内の明かりを反射させていた。

「ただ、その女はどう思うんだろうなって思ってよ。大事なやつが殺されて、もしかしたら殺したやつを一生憎んで生きてくんじゃねーかって、そんな事考えてたらよ、すっげー嫌な気分になった。」

ルキーノは持っていたグラスを僅かに震わせた。イヴァンは写真の女の話をしているのに、どうしてだか自身の核心を突かれた気がしてしまう。

「訳わかんねーんだ。仲間だったそいつに殺されかけて、それから他人が信じられなくなって、すっげー憎んでた。だけどよ、自分の手で殺してやったっつーのに。気分最悪だ、くそ!。」
「イヴァン・・お前。」
「なぁ、ルキーノ。俺が奴を撃っちまったのは間違いだったと思うか?」

イヴァンの言葉にルキーノはふぅとため息をついた。そしてグシャリと乱暴にやつの頭をかきまぜてやる。

「ってめ、何しやが・・。」
「カーヴォロ、何しみったれた事考えてやがる。んな事考えるなんて本当にお前らしくないな。今日のは状況的にそうせざるを得なかったんだろ?そこに間違いもくそもあるか。それにな・・」
「んだよ?」
「お前の無い頭で考えたって、無駄ってもんだろ。なんせ頭からっぽの案山子だしな。」
「アァー!?んだと、この!ファック!っつぅー」

いきなり大声をあげたと同時に、イヴァンは頭を抱えて蹲る。そんなイヴァンの様子にルキーノは薄く笑みを浮かべた。

「飲み過ぎ、だな。いきなり大声出すから響くんだ、この馬鹿。」
「うるせー死ねこのボケが。」
「まぁそれだけ言える元気があるなら大丈夫だな。」

ハッとルキーノは笑うと、イヴァンの頭からその手を離し、再びガラスを持ち直し残っていたそれを喉に下した。

「何を難しく考えてんのか知らんが、お前の過去がどうでも、今を信じろよ。お前はCR:5を裏切らない。CR:5もお前を裏切らない。前にロザーリアお嬢様とを取り持ってやった時に言っただろ?お前はもっと他にも眼を向けるべき所がある、大切に想ってくれてる奴がいるって事に気づけってな。まぁお前はこういう小言みたいな事言われるのは嫌いかもしれんが。」
「は、そうかよ。」

そっぽを向いて、そっけなく言いながらもイヴァンの頬は照れたのか、先程より紅い。それに気付かない振りをしてルキーノはその場を立ちあがった。

「俺はそろそろ本部に戻る。邪魔したな。」
「ア?んだよ、もうか?」
「あぁ、部下に頼んでおきたいこともあるんだよ。酒で足元ふらついて帰れないってんなら、ついててやっても良いが?」
「は、んなわけーねーだろ。ガキ扱いすんじゃねー。さっさと行け!」

顔を真っ赤にさせて叫ぶイヴァンに笑って、ルキーノはイヴァンに後ろ姿でヒラヒラと手を振ってその場を離れた。店内の温度に対して、外は冷たい風がルキーノを吹きつけた。ルキーノはさっと笑みを消して、その道を一人歩く。

(ただ、その女はどう思うんだろうなって思ってよ。大事なやつが殺されて、もしかしたら殺したやつを一生憎んで生きてくんじゃねーかって・・)

イヴァンがふいに言った言葉に少しだけ動揺した自分にルキーノは唇を噛んだ。否定も肯定も出来なかった。イヴァンの言葉は確かにそうだ。いつまでも消えないそれはズキンとルキーノの胸を疼かせた。大切なあの子たちは戻らない。何度、祈っても望んでも、どうしたってあの子たちは帰ってこない。あの子たちの声が聞こえるわけでも、姿が見えるわけでもないのに、彼女たちのお墓に行っては、何度も何度も俺はいつだって記憶の中の彼女達の面影を追っている。その傷はどうしたって消えない。一生だ。殺したやつを憎くないのかと聞かれれば、憎いと俺は答えてしまうかもしれない。

(だが俺はそれ以上に。)

ふと進めていた足を止め、ルキーノは自身の顔を片手で覆った。湧きでてしまいそうになるそれをルキーノは押し殺した。

(くそ、イヴァンのやつ・・)

俺の触れられたくないところに無意識に爪たてやがって。しかも俺も何だってイヴァンにあんな言葉を言われたくらいで、こうも動揺してんだか。おかしいだろ、こんなことくらいでこの俺が揺らいじまうなんて。最近特にそうだ、イヴァンとあんな事があってから。

(まさか怖い・・・のか?)

こんな自分を知られるのが?踏み込まれるのが、怖いのだろうか?確かに前よりはイヴァンとの距離は無くなってきている。だがそれが何だと言うのか。変わらないさ、俺はこの先も。ずっと、変わらない。二年前のあの頃のまま。

「そうだろ、シャーリーン、アリーチェ。」

俺はまだそこにいるだろう?お前たちの傍に。ルキーノは掌をじっと見つめ、何かをつかみ取ろうとするかのようにぎゅっと握りしめたのだった。








残像
(確かにいたんだ俺の傍にあの子たちがいた筈なんだ。だから今もきっと俺の傍に、きっと。)













END

(だから私はルキーノをなんだと・・)










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