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赤い雨1




#バクルキ
(*誇り高きマフィアのルキーノが好きな方。ヤンデレ・・とまでは行かないかもしれませんが、ちょっとそういう部分もあるかもしれないルキーノなので、苦手な方バックしして下さい。裏的描写多少有り。)


























ーあぁ、知ってるさ俺がロクデナシって事くらいな。


























 コツンコツンとデイバンの街のある一角の通りを一際目立つ長身の男が歩いている。男、ルキーノ・グレゴレッティーはその赤い髪を揺らしながら、部下さえ連れずに闇夜の中を一人歩いていた。大きな取引を終えての帰り道はすっかり日も暮れ、そろそろ日付が変わるに近い時間帯だった。

今日の取引は予想外に手間取り、予定より遅くなってしまったが何とか契約にはこぎつけた。
 ルキーノはその旨を公衆電話を使ってベルナルドへ報告する。その際に今日は夜も遅いから本部には戻らずに直接家に帰るつもりだと伝える。ベルナルドもルキーノの言葉に、「解った」とだけ言い、明日のスケジュールの確認だけをルキーノへと伝えると、そのまま通話を切った。ルキーノは相手が受話器を置き、通信が途絶えたことを知らせる音を聴いてから、自身も受話器を置いた。

 最近では組織のシノギで忙しく自宅に帰る事自体が少なくなってしまったが、月に三・四回の頻度でルキーノは家に帰るようにしていた。
 あの家を未だにあの頃のまま残している。シャーリーンとアリーチェと共に過ごしてきたあの家を、彼女達が生きていた証を、あの家だけでも残しておきたかったからだなんて、未練がましいなとルキーノは自嘲の笑みを浮かべた。未練を感じる資格すらもう自分には無いというのに。





「よう、誰かと思えばテメェーかルッキーノ。」

その時、背後から卑下た声が耳に届き、ルキーノはピタリと進めていた足を止めた。その声を自分は良く知っている。ルキーノはため息交じりに肩を落として、ゆっくりと自身の背後を振り返った。

「てめぇか。」 
「一人でこんな物騒なとこ歩いてるなんてよぉー。襲ってください。犯して下さいと言ってるようなもんだぜぇ?」
「そりゃてめぇーだけだ腐れヤンキー。こんな所で何してる?此処はCR:5のシマの筈なんだがな。」
「んなの、俺には関係ねぇーなぁ。」

GDの幹部の一人であるその男バクシーはニヤリと口元を上げ、自身の方へと近づいてくる。ルキーノは不快気に眉間に皺を寄せ、忌ま忌まし気に舌うちをした。

「いったい何のようだ?」
「ルキーノ、テメェー解ってんだろぉ?俺がこんなとこでテメェーを待ち伏せしてた理由なんて一つしかねぇ−んだからよぉ。」

ベロリとルキーノの頬にある傷を舐め、バクシーはそんな事を言う。ゾワリと背後に悪寒が走った。何が可笑しいのかバクシーはルキーノの様子を楽し気に見つめている。

「最高だねぇ、そのテメェーの嫌そうな顔はよぉ。やっぱ自分が女役にさせられるのが屈辱か?しかもテメェーにとっては一番俺は嫌な相手だろぉーなぁ?」
「・・・悪趣味、としか言いようが無いな。」
「だが、テメェーは一度も拒んだ事はねぇー。そうだろぉルキーノ?テメェーは心の奥底で望んでるんだよ、自分を貶めてくれるような奴をなぁー。」
「っつ・・」

路地裏に追い詰められて、背には大きな壁がある。その状態でバクシーに顔を近づけられそんな事を言われ、ビクリとルキーノの身体が大仰に跳ねた。そんな自分に再び舌うちをする。動揺してしまった。バクシーの言葉は図星に近かったからだ。

「てめぇーは自分を憎んでんだよなぁ。テメェーのガキと女を見殺しにしちまってよー。だから・・・
「うるせー。御託ばっか吐いてねぇーで、犯るならさっさと犯ったらどうだ?」

ルキーノは不遜に笑って、目の前の相手を黙らせる為にバクシーの唇を自身のもので塞ぐ。こんな野郎からこれ以上自分を暴かれるような台詞を聞きたくは無かった。バクシーは面白そうに口元を上げ、可哀相な野郎だなとルキーノの耳元で囁いた。

(テメェーなんかに言われなくても解ってんだよ。)

頭の中で血まみれのあの子たちの姿が過る。あの幸せをぶち壊したのは俺自身だ。信じ切れなかった自分が、偏狭な自分が、どうしようもなく憎くてたまらなかった。許せなかった。コーサ・ノストラ?、誇り高きCR:5の幹部?俺はそんな立派な男なんかじゃない。本当なら名乗る資格すら無い。俺は女子供一人守れなかったただのロクデナシなのだから。そして今も俺は仲間を、組織を裏切る行為をしている。身に這う感覚を感じながら、ルキーノは笑った。

ーあぁ、どうしようも無い俺はくそったれだ。ー





























ズルリと自身の中にあったものが抜かれルキーノはぐったりとその場で崩れ、座りこむ。身体中が汗と吐きだした白濁でベタベタして気分が悪い。背後でバクシーがカチャリとズボンを上げて身支度を整える音が聞こえた。

「あぁーあ、うっかり犯りすぎちまったな。そろそろ日が昇りやがる。オヤジに怒られっかなぁ。」
「・・くそ、三度も中に出しやがっ・・て・・」
「ハ、なんでわざわざ外に出してやんなきゃなんねぇんだ。」
「・・地獄に堕ちろ。ヴァッファンクーロ。」

憎々しげにルキーノは呟くと、バクシーはニタリと笑った。その顔が今はとてつもなく不愉快だ。ルキーノは地面に放りなげてあった自身の銃を掴み、野郎へと向ける。

「早く去れ。その脳天にぶち込まれたくなかったらな。」
「終わった途端冷てぇー野郎だな。まっ、いいけどよぉ。」

大仰に肩を竦めたバクシーの姿に不愉快な気持ちが益々増す。

「まぁーけど、テメェーには無理だぜ、ルキーノ。俺を殺すなんてな。」
「何を・・」
「テメェーはもう殺せねぇーだろ、俺をよ。」

いつの間にか目の前に迫っていたバクシーに囁かれてルキーノはグッと唇を噛んだ。何をこんな野郎に絆されてる。そんな訳が無いとルキーノは自身を否定して、けれど何故か指先に力を込める事が出来ない自分が信じ難かった。
 目の前が真っ赤だ。頭の中でまた彼女達が血まみれで倒れている姿が過る。死を目の前に付き出されることをいつの間に自分はこんなにも恐れるようになってしまったのだろうと、ルキーノはそんな自分に愕然としたのだった。





























 ルキーノと誰かの声に呼ばれ、ハッと意識を現実のものへと引きもどした。目の前でボスであるジャンカルロが呆れたような笑みを浮かべる。周りの他の幹部も訝しげにこちらを見ていた。

「なーに、一人で意識飛ばしてんだよ、ルキーノ。幹部会議の最中によ。」
「あ、いや・・すまねぇージャン。ちょっと考え事をな。」

そういえば今は幹部会の最中だった。隣のイヴァンがハッと馬鹿にしたように笑うのが聞こえる。

「ジャンなんかに注意されるとは、テメェー歳くってぼけたんじゃねーのか?」
「あ、てめイヴァン。なんかとはなんだ聞き捨てならねぇーな。俺がボスとして成長したってどうして思わないんかね。」
「そうだ、訂正しろイヴァン。ジャンさんに失礼だ。」
「だぁー!!てめジュリオいっつも思うけどな、てめぇーはジャンさんジャンさんていちいちうるせーんだよ。」

関係ねぇーだろと、イヴァンがジュリオに向かって吠えるがジュリオ自身は気にも止めていないようで、吠えるイヴァンを無視してジャンを気遣う言葉をかけている。その事にイヴァンはファックと声を荒げた。

「まぁまぁ、落ち着けイヴァン。話を戻すぞ。ルキーノ続けて良いか?」
「あぁ、すまないなベルナルド続けてくれ。この頃忙しかったからな、ちとボーとしちまったみたいだ。」
「へぇールキーノにもそんな事ってあんだなー。体力だけは有り余ってそうなのによ。」
「・・・ジャン、お前何気にひどいな。」

周りと軽口を叩きながらもルキーノはその光景を何処か違う場所で見ているような気分で、彼らを見る。こいつらと過ごす日常で、俺だけが取り残されているような想いが胸をざわめかせる。けれど俺は、こいつらだけには自分のロクデナシの部分を見せたくなかった。自分の中のドロドロに腐ったものを見られたくは無い。
時々こいつらと一緒にすごしていると、ルキーノは自分の汚い部分を思い知らされる事がある。ジャンを中心にして纏まっていく組織に自分だけが異質の存在なのではないかとすら思ってしまう。
 目の前が、また真っ赤だ。倒れるそれが今度はシャーリーン達じゃなく別のそれに変わる。ジャン、ベルナルド、イヴァン、ジュリオ、俺以外が血まみれで横たわっている。そして自分の腕を見つめた。血まみれだ。右手に俺は銃を握っている。



(あなたが殺したのよ。)



これは幻聴だった。けれどそれは確かにシャーリーンの声だった。どうしてと彼女は泣いていた。パパどうして来てくれなかったの、今度はアリーチェの声だった。幼い声は自身を責めている。どうして信じてくれなかったのと、それは悲しい響きだった。頭を振る。これは幻覚だ。けれど。

 ルキーノは立ち上がった。まだ会議の途中だったがこれ以上は無理だった。

「おい、ルキーノ?」
「すまん、朝から調子が優れ無くてな。少しだけ部屋に戻って休んでも構わないかジャン?」
「そりゃ、いいけど・・って、うわ本当だ。アンタ顔色悪いぞ。」
「ルキーノお前は少し休め。後は俺達だけで進めるが構わないかい、ルキーノ?」
「あぁ。」

相槌だけを返し、ルキーノはその場を離れ、会議室から本部にある自室の部屋へとその足を向けた。今朝がたまでバクシーの野郎に付き合わされたせいか、未だに痛みが引かない。
あいつらがこの事を知ったらどう思うんだろうなと、その滑稽さに思わず笑いたくなった。

(解っているさ。)

俺はシャーリーン達と出会う事が出来て幸せだ。そしてジャン達と仲間として過ごせる事が幸せだと思う。彼らが俺を頼れる存在として見てくれるなら、それに応えてやりたいと思う。けれどこの先あいつらと一緒に過ごす事が、何故か怖くも感じていた。先程の幻覚が現実になるかもしれない、そんな不安が。

 俺はシャーリーン達を見殺しにした自分が許されようなんて思ってない。そんなもの誰からも、何からも、許して欲しくなど無い。
真っ赤に染まった視界がいつまでもルキーノの頭から離れる事はなかった。










赤い雨
(許されたいなんてこと俺は思いたくない。)











END
(むしろルキーノがGDに行きそうなフラグ。なんていうか、ごめんなさい。)








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