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short 16




#ルキジャン













 そろそろ日付も変わる時間帯だ。ジャンカルロはその日のボスとしての勤めの一つでもある資料や請求書とのにらみ合いを漸く一区切りつかせて、本部にある自身の部屋へとその足を向けた。やれやれと歩きながら肩に手を回しポキポキと首を鳴らして、背筋を伸ばす。

(サインのし過ぎで肩いてーなー。)

今度ベルナルドあたりに肩もみでもしてもらおうかねと自身でもおっさん臭い事を思いながら、ジャンは自分の部屋の前まで辿りつくと、その部屋のノブに手をかけ戸を潜る。窓から漏れる月明かりだけに照らされたその部屋にパチリと灯りを灯して、ジャンは自身のベッドへとダイブした。スーツだけは耳に凧ができるくらい誰かさんに口うるさく言われていたからか、一応皺にならないようにハンガーにかけたが、「下はちょっと休んでからでいいよな、ってことでスマン後でー。」と、誰に言ってるか解らない一人言をその口から漏らしてベッドに横になる。ルキーノと一緒にデイバンの街で挨拶回りも疲れるが、本部で籠りきりで小さな数字に目を通すのも違った意味で疲れる。疲れた息をふぅーと吐いてジャンはクルリと天井に腹を向けて仰向けになった。

(そういや、ここんとこアイツ見ないな。)

ジャンの頭にふと赤髪の伊達男の姿が過る。ジャンもここのところ忙しい日が続いていたが不眠不休で働いていた訳じゃない。それなりに睡眠時間は取ったし、仕事の合間に休憩も挟んだ。けれどルキーノはベルナルドから聞く限りだと、この頃大きな取引が立て続けに入っているらしくそれこそ寝る間も惜しんでその身体を動かしてるらしい。ちなみにどれ程十分な睡眠を取っていないのかと尋ねると、ベルナルドはかれこれ六日程べっトで寝てないらしいぞと苦笑を零していた。ジャンには考えられないその働きぶりに感心を通り越して呆れの感情がその胸に湧き上がる。いくらルキーノでも流石に身体壊すんじゃねーのかってくらいだ、要領が良いあの男に限ってそんな事は無いとは思うが、本音を言えば少し気になる。まぁそれもあいつが本部に顔を出さない事には確認しようがねーしなと、再びその口からジャンはため息を零した。まぁ、考えた所でどうしようもないし、シャワーでも浴びてもう寝るとするかねとジャンがその身体を起こそうと腰を浮かした所で、その時調度コンコンと自身の部屋の戸がノックされる音が耳に届いた。

(ん、なんだ?)

先程ベルナルドと別れた時は何も言われなかったが、もしかしたら伝え漏れでもあったかとジャンは訝しげに戸の方へと足を向けた。

「はいはい、どちらさーん?」

そんなふざけ気味に声を出すが、呼ばれた相手に返事が無い。ジャンは益々訝しげに思ったが、確認しない事にはそいつが誰なのかも解らないしなと、その戸をガチャリと開けた。

「おいおい誰だよ、こんな時間にっ・・・て、うおっ!?」

開けた途端に、それは自身の身体に凭れかかってきた。

「あぁ?重っ!・・って、ルキーノっ?」
「・・・ジャン・・か。」
「いや、そりゃここ俺の部屋だから俺だけども。」
「・・・そりゃ・・そうだ。」

ぐったりと、それはもう心底疲れてますというルキーノの姿で「・・流石に疲れた。」と言うものだから、ジャンも一瞬呆気に取られたが、やがてクスリとジャンは笑うとポンポンとルキーノの背中を叩いてやる。

「はいはい、お疲れさん。大変だったな。まぁ、取りあえず中入れって。廊下じゃ誰に見られるか解らないだろ?アンタ疲れ切ってる姿なんて見られたくないんじゃねーの?」
「・・・ん。」

うわーこりゃ相当疲れてんなーと、いつもより素直なルキーノの反応にジャンは苦笑零しつつ、取りあえずルキーノに抱きつかれたまま中へと入る。

「おいルキーノ、歩きにくいだろ少し離れろ。」
「嫌だ。」
「嫌だって、お前な。」

あー何、このでっかい赤ちゃんと、普段とはかけ離れたルキーノの姿に思わず笑いがこみ上げそうになるが、寝る間も惜しんで今まで働いていたルキーノにそうするのも悪いので、一応我慢する。でもこんなルキーノって凄い貴重じゃねー?なんかこういう姿を見せてくれるなんて、悪くねぇーかもと少しだけ嬉しくなりつつ、ジャンはその自分より頭一個分背の高いルキーノを引きずってベッドの方へと移動する。

「ほら、スーツ脱げって。」
「・・・面倒だ。」

ベッドの端に腰を下ろし、だるそうに眉間に皺を寄せてそう答えるルキーノにジャンは呆れ気味に息をつく。

「面倒だって、アンタいつもは俺にスーツはちゃんとかけろとかなんとか言ってんじゃねーか。」
「代えがあるから・・・別に構わん。それよりジャン・・」
「何だよ?」

ちょいちょいとベッドに座るように指示される。しかもアッチの奥と場所指定付きで、だ。「何なんだ?」と思いつつ、何故かルキーノ言われたようにしてしまうのは、惚れた弱みというより、普段よりルキーノの態度が子供っぽいからかもしれない。なんか普段のそれと立場逆転したようで、はっきり言って面白い。その通りにしてやると、ルキーノがなんだか満足したような様子で、座ってる自身の膝に頭を乗せてきた。

(膝枕かよ、おい。)

男の柔らかく無いやつで良いんかねと思うが、ルキーノが別に気にしてなさそうなので良いかという事にした。やれやれと呆れ気味にジャンは息を零した所で、今度はジャンがダランと無造作にしていた手首を、ギュッとルキーノの男っぽい手に掴まれる。

「今度は何だよ?」
「・・・。」

その答えには無言でルキーノは目を閉じると、目を閉じた状態のまま掴んだジャンの手首を彼の頭の方へと持ってこられる。ん、何だ?と最初は何だか解らずにそこからスッと手を離したら、また手首を掴まれて頭の方へと持ってこられる。

(っつ・・・まさかっ)

ルキーノに限って、まさかとは思ったが、これは所謂。

(もしかして・・頭撫で撫でしろってか!!?)

もうそれこそ、これ以上のときめきは無いんじゃないかってくらい、胸がキュンって跳ねた。なななな・・・何なんだこの可愛い生きもの!!?と、ジャンは動揺してルキーノの顔をじっと見てしまう。思わず目の前にいる奴が本当にルキーノかって確認してしまった。勿論見た所でルキーノ本人という事実は変わらなかった訳だが。うわーうわーと頭の中で思いつつ、ジャンは恐る恐るルキーノの頭をそっと撫でてやると、ルキーノの顔が気持ちよさそうに緩んでいくのが解る。

(やべールキーノ可愛い。)

無言でこれをやらせるとこが変に素直じゃなくて尚更可愛いーと、普段はあまり思わないその単語を何度も心の中でジャンは連発する。いやだって、これを可愛いと言わずして何を可愛いというのか、むしろ誰か教えてほしい。

(うわ・・・やばい。これ、はまるかも。)

そんな事を自分が思っていた事はルキーノには黙っていよう。多分これはルキーノ本人は無意識の筈だ。意識させたら、常はかっこつけたがりの伊達男だ。もうこんな事は無いかもしれ無いしと、ジャンはそんな事を考える。ジャンは目の前でお疲れのライオンの赤髪を撫でながら、先の事を考えて薄くその口元に笑みを浮かべたのだった。















お疲れさん









END
(正月SSで、ルキーノがジャンに甘えたい、褒められたいという願望が表れていたと考えるなら、むしろ悶え死ぬ勢いです。)





あきゅろす。
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