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short 9




#ルキジャン(元拍手)


















 男は傘をさしながら、大股でその道を歩いていた。その仕事では、珍しく彼は部下は付けてはいなかった。彼の部下には他にやらせる事があったし、今日は無理して連れてくる程の仕事でも無かった。筆頭幹部殿には小言でもくらいそうだが、それは自身のやり方なのだから納得してもらうしかない。予定した通り何事も無く、朝からであったその仕事もひと段落し、男は帰路へと付いている途中だった。帰ったら直ぐにシャワーでも浴びたいと考えながらその足を進める。
 シトシトとした雨音に混じり、それは男の耳へと届いた。男は、一度はその方向へ視線を向けたが、僅かに眉をしかめただけで、直ぐに瞼を閉じて振り切るようにその前を通り過ぎようとする。彼が見た光景は別段デイバンでは珍しいものでは無かった。こういう所では良くある事であり、自身がそれをした所でどうする事も出来ないのだ。男は数歩先に足を進めたが、再びそれは彼の耳元へと届く。それは男に、ジュニアスクール時代のある出来事を男に彷彿させた。彼は諦め気味に息を付き苦笑を零すと、踵を返して先ほど眼を向けたそれへと歩み寄る。そしてその高い身長を屈ませると、それへと腕を伸ばしていた。



















「あれ、ルキーノそれ・・」
「ん、あぁ。そいつな。」

CR:5の現ボスであるジャンカルロが仕事を終え、いつものようにその男ールキーノ・グレゴレッティーの家へと訪ねると、先に仕事を終えて帰宅していた男はいつものように迎えてくれたが、ジャンはいつもとは違ったものをその家で発見した。

「猫?」
「あぁ。」
「ルキーノ、猫なんかいつ飼い始めたんだ?」
「いや、さっき拾ってきた。」
「は?」

拾ってきた?あのルキーノさんが?ジャンは小さく丸まっているその小さな生物を思わずじっと見つめてしまう。この男に猫という光景がジャンには何とも不思議に思えた。

「あんた、そういうの捨ててこいって言うタイプかと思ってた。」
「失礼だな。・・まぁ、確かに一度見ないふりしようとしたんだがな。」

ルキーノは、仕方なさそうに苦笑を洩らすと、カーペットにちょこんと座っていた小さなそいつを抱きあげる。ルキーノが拾ってきたその猫はそういうわりには、割とこ綺麗にされていて、毛並みも整っていた。
おそらく風呂にでも入れてやったのだろう。それを彼がしたと思うと、何だかちょっと複雑な気分だ。

(ネコに嫉妬してどうするよ、俺。)

ルキーノはその猫を抱きあげて、ソファーへと腰をかけるとそいつを自身の膝へと下ろし、新聞をその手に広げて読み始める。猫は大人しくルキーノの膝で丸まっている。

(あぁー俺もまだ、ルキーノに膝枕なんてして貰ってねーのに。良いよなー猫って。)

そんな事を思いながら、だがしかしその光景はなかなかに可愛い。確か、ライオンってネコ科だったよな。
つまり、ちっさい猫とおっきな猫セット、そりゃあ可愛いわ。

「ん、どうしたジャン?」
「いーや、何でも。」

まぁ、そんな事口に出そうもんならこっちの身が危険ってね。ジャンはルキーノが座っているソファーへ自身も腰を下ろすと、その猫へと手を伸ばし撫でる。

「なぁ、こいつ抱いても良い?」
「あーいいぜ、そいつ割と大人しいしな。」

ルキーノのお言葉に甘えて、ジャンはそいつの小さな体に腕を差し入れると、自身の胸元に引き寄せた。
猫はそんなジャンを嫌がることもなく、むしろすり寄ってくる。お、こいつ人なつっこいな。
そんなジャンとネコの光景を横眼でルキーノが見つめていた。

「何か、可愛いー光景だな。」
「はい?」
「小さい猫に大きいワンコの組み合わせがって事だよ。」
「あ、それ俺もさっき思った。」
「は?」

 あ、やべーやべー思わず本音が出ちまった。けど、とりあえずルキーノの反応には律義に反応してやることも無いよなと、ジャンは無視を決め込んだ。まぁ、俺の場合はおっきな猫ちゃんだった訳だけど、気にしないでねライオンさん。横で訝しむルキーノを横目に、ジャンはその猫に顔を近づけた。世の中には、猫アレルギーの人がいるが、その人は本当可哀想だな、こんな可愛い生物に触れないなんてさ。

「なぁ、ルキーノ聞いていいか?」
「何だ?」
「あんた、実際何でこいつ拾ってきた?」

ルキーノはジャンがそう尋ねると、その視線を新聞からこちらへと向ける。

「いや、らしくねーなと思ってね。」

我ながら意地の悪い質問だ。実際、こんな捨てられ猫なんてデイバンには山ほどいる。それに自分達はまかりなりにも、そのデイバンをしきるマフィアだ。そんな俺たちが、だ。猫を拾ってくるなんて、責任も取れないような行為をするのは、はたしてどうか。
ルキーノも実際充分解ってる筈だ。

「昔、な。」

暫くして、ポツリとルキーノは重いだろうその口を開く。弱さを無理に吐き出させているようで、あまり良い気分というわけでも無かったが。

「ジュニアの頃、そいつと同じように捨てられた猫世話した事があった。勿論、ガキなりに安易に拾っちゃ駄目だという事も解ってた。けどな、やっぱりその時の俺はまだガキで、見捨てるなんて事も出来なかった。だから、スクールの校舎裏でひっそり世話してたんだ。だが、そいつ・・・俺が一日だけ行けなかった次の日、死んでたんだよ・・・車にひかれてな。」

悲しいだとか、辛いだとか言わず、ルキーノはただタンタンとその事実だけを話す。

「そいつの鳴き声が、その時の猫に似ててな。つい、拾ってきちまった。まぁ、拾ってきたからには面倒はみるさ。」

重い気分を振り切るように、ルキーノは勢い良く立ち上がった。そんなルキーノをジャンはソファーに座りながら見つめる。

「そうか、けどな言っとくぜ、ルキーノ。」
「・・何だ?」
「・・・そいつ、あんたより先に死ぬって事、解ってるか?」
「時々、痛いこと言うなお前は。」
「俺は、アンタの例の件の時と、同じような思いさせたくないだけ。」
「あぁ、そうだな。・・・もうごめんだ。」

ルキーノは、いつの間にか握りしめていた手をほどくと、俯き気味だったその顔をジャンの方へと向ける。

「里親は明日から探す。元々そのつもりだった。俺は、多分面倒見切れないしな。」

ルキーノはそう言って、苦笑を零した。どうしたって、自分たちの立場がそれを選択せざるを得ないのだ。自分らには、それこそデイバンの人々の明日を守らなければならない。しかし、そう思って手放そうとするルキーノの気持ちが何だかジャンには寂しく思えた。そうし向けたのは自分の癖して、ボスって立場は本当に嫌な役割だ。ジャンがは、ふと嘆息を零した。すると、ふわりと奴のムスクの香水が香り、ルキーノがジャンを抱きしめる。

「ジャン・・・俺はもう大切なものを亡くすのは、耐えられん。」
「あぁ。」
「だからな、ジャン。勝手だと思うが、俺より先に死ぬなよ。」
「ハハッ・・当然だろ?ルキーノ。」

俺を誰だと思ってるんだよ?ジャンがそう言ってやると、ルキーノは、あぁーそうだったなと笑った。こんな奴、ほっといて先にいくなんて、俺の方こそ耐えられないだろうからな。













濡れたネコ
(それはまるでアンタを見ているようだった)















END
(猫のお題で可愛い話を作ろうとしたら、結局シリアス。私はルキーノを何だと思っているんだろう。)

お題配布先
SITE NAME
ligament
ADDRESS
http://ligament.tuzikaze.com/index.html












あきゅろす。
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