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short 8(2)







 ルキーノに首ねっこを捕まれ、ズルズルと引っ張ってこられたイヴァンの気分は最悪だった。首が締まって苦しいは、本部にあるルキーノの仮の仕事部屋に連れてこられて、漸く離したと思ったら、こいつはさっきから何も言わないで立ち止まっているはで余計に苛立ちが倍増する。何か言いたい事がありゃ罵倒するなり、なんなりすりゃー良いだろうが、黙ってられるとこっちが調子狂っちまう。

「おい、ルキ・・
「イヴァン。俺は、忘れろって言ったよな。」

一瞬何の事だと思ったが、ルキーノがあの時の事を言ってるのだと解り、アーとイヴァンは少し気まずくなって、ルキーノからその目線を逸らす。

「あれは事故だって言っただろうが。それなのにいかにも気にしてますみたいな態度取りやがって。」
「な、しょうがねーだろ!気にするなって方がむしろ無理だろ!?」
「おかしなやつだな、じゃあお前はいちいちレディーにキスかましたら、その相手が気になってしかたなくなるって訳か?とんだ純情ボーイもいたもんだ。」
「ンな訳あるか!俺のシノギなんだと思ってんだテメェーは。」
「なら、それと同じだって思えば良いだろ?ただ相手が男だっただけでな。なんでそんなに気にするんだ、お前は?」

男だから気にしてんじゃねーかボケと、ルキーノの言い分にイヴァンは苛立ちを感じ始めていた。それにあれはシノギのそれとは違う。勿論、例え自身のシノギだったとしても男なんてまっぴらだ、考えただけでも胸糞悪い。けれどそれ以上にルキーノが全く気にしてないという態度がどうにもイヴァンには我慢ならなかった。不遜な態度で自身の前を歩いている男、自分とは違うイタリア系、組織に忠実で、オメルタを尊重し、その生き方に誇りを持って迷わず歩くルキーノの姿が、大人ぶってる奴の態度が何もかも気に食わなかった。そうだ、こいつが・・こいつがすました顔で男相手にあんな事をされてすら、ルキーノ・グレゴレッティーという男の軸がぶれないから。

「あぁ、それとも何だ、お前・・・」

黙ってしまったイヴァンに、ルキーノは意地の悪い笑みを浮かべるとスッとその顔を近づけてくる。奴のいかにも高そうな香水の香りがフワリとイヴァンの鼻孔をくすぐった。

「俺とのキスが忘れない程、良かったか?なんなら・・ここで、つづき・・してやろうか?」

ルキーノはイヴァンの襟元を掴むと、グイっと引きよせ、嘲るようにして笑った。その時、プツンとイヴァンの中でそれははじけた。















 沈黙してしまったイヴァンの襟元からルキーノは自身が掴んでいたそれを離す。少し悪ふざけし過ぎたかと、ルキーノは先ほどの自身の言葉を思い返した。それにしてもまったくなんだって、こいつはあの時のことをそんなに気にかけるものかねと、呆れに似た気持ちをイヴァンに対して抱いた。本当にあれは事故みたいなものだから、嫌な記憶はさっさと忘れちまえばいいものを。そんな事を考えて、ルキーノはふと二年前の妻子のことを思い出す。まぁ、俺が言っても説得力は無いかと、暗い影をその内に落とした。
 イヴァンに毛嫌いされている事はルキーノとて自覚している。けれどそれも仕方のないことでもあるとも思う。イヴァンと自分は何もかもが正反対だ。純粋なイタリア系の自分と、半分はアメリカ系の血が混じっているこいつとは、そもそもの立場が違っている。けれどだからこそ認めている部分もあった。本来純粋なイタリア系だけで上が締められてきた今までのCR:5の常識をこいつは撃ち破り、自分と同じ幹部の立場までのし上がってきた。ボスの力添えもあっての事ではあるが、それでもそれだけの力をイヴァンは持っていたし、それをボスに認められたからこそ、ここにいる。ただ、やはり初めの内はルキーノも、こいつにはコーサ・ノストラとしての誇りと名誉が無いというイヴァンへの見方は、おいそれとは変えられなかった。自分の中でもこいつがイタリア系で無いという事実に、反発心はあったのだと思う。だが今はルキーノもそれに対してどうこう思う事は無い。ジャンカルロが、カポ・デル・サルトの後継者である事を知らされたあの時から、俺たちは、CR:5は変わった。イヴァンも俺もジャンと一緒にいる事で、どこか自分たちに欠けた部分があいつによって埋められた。こんな風に互いへの嘲りも罵倒もなく、普通にイヴァンと会話出来ている事は、きっと昔ならば考えられなかっただろう。まぁ、今はこんな風に喧嘩しちまってる訳だが。
 フゥーと、様々な思いと共に、ルキーノは大きくその息を吐き出すと、未だ沈黙している奴に対して、苦笑を零した。

「悪い、冗談だ。気にするなイヴァン。」

そう言って、ポンッと頭を叩いてやる。ピクリとイヴァンの身体が震えた気がしたが、これ以上自分が何か言えば、それこそこいつは反発してくるだろう。そろそろ仕事の待ち合わせの相手との約束時間も迫っている事もあるしな。

「俺は、そろそろ行くが、お前は・・・」

これから店かと、そうルキーノがその言葉を紡ぐ前に、グイっと腕をおもいっきり引っ張られた。気をぬいていたせいか、ルキーノの身体がグラリと傾いて床へと転がり、その上に先ほどから沈黙していたイヴァンが圧し掛かってきた。直ぐに起き上がろうとするが、身体全体で圧し掛かられているせいか、思っていたほど、上の奴を押し返すことは出来なかった。まさかという思いが、ルキーノの胸を過る。

「イヴァン?お前、いったい何を・・」
「うっせー黙れよ。」

イヴァンが普段より、低音でそう囁く。もし俺が女ならばゾクリとする声だ。

(この馬鹿、ヤロウ相手に。)

まずいな、とルキーノは瞬間的に悟る。この間のように冗談ではすまされない空気だった。今のイヴァンは正気ではない。けれどこの間のように怒りで我を忘れてるというのとも、少し違う。何だ、と今のイヴァンを見極めようと、ルキーノは無意識に目を細める。

「イヴァン。」
「テメェーが言ったんだろうが、続きしてやろうかって。なら、してもらおうかと思ってな。」

そう言ってイヴァンは嫌な笑みと共に、ルキーノの唇を塞いできた。意図したそれは、ルキーノの唇を割ろうと舌を這わせてくる。

「開けよ、口。」

ルキーノは、そのイヴァンの乱暴な口調に、僅かに眉をひそめる。ため息をつきたい気持ちもあったが、この状況ではそれも出来なかった。
 ルキーノはしばらくして仕方ないと諦め気味にそっと唇を開いてやると、イヴァンのそれはスルリと口内に入ってくる。その感覚にピクリと身体が一瞬震えたが、下手に抵抗するよりはイヴァンの好きなようにさせてやった方が良いと、ルキーノは判断した。自身の舌に奴のそれが絡んでくる、少しの息苦しさと共に引き出される快感は悪いものでは無い。やはり粘膜同士のやり取りなら、男も女も変わらんもんだなと、どこか他人事のように思った。あえて言うなら主導権が握られているか、握っているかの違いか。それならと、ルキーノは絡んでくるイヴァンの舌に自分のそれを自ら絡ませる。自分は女では無い、だから主導権握られたままっていうのは、男としてのプライドがルキーノにそうさせなかった。しかしその瞬間、ピクリとイヴァンの身体が震えたかと思うと、バッと勢いよく身体が引き剥がされる。

「おい、イヴァン。」
「っつ、何で・・・てめぇーは・・・クソッ!」

イヴァンはどちらに対しての罵声なのか解らない声を上げ、ルキーノの上からどくと、クルリとルキーノに背中を向けその部屋から出て行く。ルキーノは、そんなイヴァンの訳の解らない行動に、いったい何がしたいんだあいつはと、嘆息を零した。














ルキーノの仕事部屋から、イヴァンは荒れたその気持ちを持て余しながら、本部の廊下を歩いていた。なんであの野郎大人しく、俺なんかにされてんだよ馬鹿野郎と吐き捨てつつ、しかし正直なところイヴァン自身のこの感情が、何に対しての怒りなのかが、やはり良く解らなかった。

(何で、だ。)

なんで、あんな窘めるような、仕方無いみたいな、何で、あの野郎あんなに落ち着いてやがんだよ。訳わからねー。俺を殴るなり、蹴るなりして、抵抗すりゃーいいじゃねーか。俺よりタッパあるんだから、それくらい訳無いだろうが。それとも俺にはそんな価値も無いってのかよ。イヴァンは心の中でルキーノに対する罵倒を何度も繰り返した。しかしそれでも胸の中にある蟠りと苛立ちはイヴァンから離れることは無かった。






動揺
(しないあいつと、する自分がどうしようもなくムカツク。)












END
(とてつもなく少女漫画です。)



あきゅろす。
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