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short 8


 

#イヴァルキ
「衝動」の続き、前半はCR−5勢ぞろい、後半イヴァルキ。
















  いいか、イヴァン今のは忘れろ。こんなもんは事故だ事故。俺は忘れる。そう言って、あの野郎は、ヤロー同士であんな事があったにも関わらず、普段と差ほど変わり無い態度で、尊大に言い放つと、振り返りもせずに部屋を出ていきやがった。残された俺は、ハッ、テメェーに言われるまでもねーあんな最悪な出来事、ソッコーで忘れてやらーそう心の中で奴を罵りつつ、だが直ぐに先程の事が頭の中でプレイバックしてしまい、気分が急降下だ。全く本当に最悪だ。野郎と、しかもあのルキーノとあんな事しちまうなんて、気が狂っちまったのか俺は。先ほど頭に血が上って勢いであんな事をしてしまった自分を殴ってやりたい。しかも胸糞悪い事に奴は平然としてやがったから益々腹がたつ。お高くとまった野郎のすました面もムカツク。動揺くらいしてみやがれってんだ、くそったれ。俺が馬鹿みたいだろうが。第一あんな風にこっちを馬鹿にしたような言い方がそもそも気にくわねーんだよ。イヴァンはルキーノが出て行った扉を睨みつけ、ファックとそこには既にいない野郎に悪態をつく。自身でも解らないモヤモヤした何かに苛立ち、今まで奴が座っていたソファーにイヴァンは感情のままにガンッと勢いよく蹴りを入れた。

































「ヨッ、只今皆の集。俺がいない間ちゃんとお利口さんしてたか?」

 ニューヨークへと飛んでいたジャンカルロが掃除屋を連れて、戻ってきたのはそれから一週間程たってからの事だった。それまでデイバンを騒がせていたCR−5への攻撃 ー特にルキーノ個人への誹謗中傷は、ルキーノが罠として役員や部下別々にばらまいておいたガセネタに引っかかった馬鹿の一本の電話が決め手となり、終息へと向かっていた。アレッサンドロの部下だった男、CR−5では古株にあたるボナビータが、GDに内部の情報を漏らしていたのだ。それが解ったことから、一気に騒ぎは回復の兆しを見せ、ジャンが戻ってくる頃にはそれも殆ど静まっていた。

「あぁ、少し馬鹿な狸爺を一人いたぶってやったくらいかな。」
「ハハッ、恐えー。」

ジャンの言葉にベルナルドが血の匂いがするような笑みを浮かべる。それに苦笑を零しながら、ジャンは久し振りの自身のイスへと座り込んだ。

「あぁーやっぱ、デイバンはいいねー。あっちだと常に警戒警戒で、身体がゴキゴキに固まりそうだったぜ。」
「おや、じゃあマッサージでもいたしましょうか、ボス?」
「あーそれはまぁ、後でって事で。」

ベルナルドのとてつもなくにこやかな笑みに、ジャンは適当に流してから、それにしてもとその口を開く。

「ルキーノ、俺がいない間にアンタ大変だったみたいだけど、大丈夫だったか?」
「ん、あぁー御覧の通り、病院に世話になる事もなくピンピンしてたさ。まぁ、少々あの騒ぎで指揮りの店に影響がでちゃあいるが、じきに回復するだろ。」

ベルナルドの横にたっていたルキーノにジャンはそう問いかけると、普段のように男前な面に笑みを浮かべてそう答える。確かにそこには、何時も通りのルキーノ・グレゴレッティーがいた。ジャンはベルナルドからデイバンの状態を聞いた時、勿論ルキーノのその時の状態も彼に聞いていた。そしてベルナルドから見ても、ルキーノが精神的に結構参っていたという事も。まぁ、あいつは少し内にため込みすぎるところがあるからね、というベルナルドの言葉にジャンはアンタも人の事言えないけどなと、その時はそんな事を言ったが、実際はジャンも気になっていたのだ。

「・・そっか、ならいいけどよ。」

だがそんなルキーノの様子に、ジャンは何も言わずにそう答えた。これは無理に吐き出させるのは返って逆効果だ。短いながらもルキーノと共に仲間として、ある程度の困難も乗り越えて、これまでを過ごしてきたから、彼の性格もある程度は理解しているつもりだ。ならここで問いつめるべきでも無いだろう。

「でも、無事で帰ってきてくれて、本当に・・・良かったです。今回は、・・・俺が護衛に行けなかった・・ので。」
「ん?あぁ。そりゃあ仕方ねぇーよ。ジュリオはボンドーネ家の現当主だ。俺なんかの護衛にジュリオはもったいねーって。」
「いえ、そっ・・そんな事ない・・です!本当なら俺が、ジャンさんと一緒に行きたかった、です。」
「そうか、うんそうだよな。悪い。まぁ、今回はあれだったけど、そういう気持ちだけで嬉しいぜ。ありがとうなジュリオ。」
「ジャンさんっ・・」

ジュリオは、ジャンの言葉にまるで宝物を貰ったかのように目をキラキラとさせ恥ずかしそうに眼を泳がせる。お前は何処の乙女だといつも言いたくなるこの態度、どうして俺をここまで好いてくれてるのか、未だにジャンには解らない。まぁ、可愛いから良いんだけどな。そう考えを過らせる内に、ふとまだ一声も発していない奴がいた事に、おやっと、ジャンは訝しく思い、それを目で探す。普段ならばキャンキャンとうるさいくいらいに吠える奴が、不思議な事に静かだった。一瞬いないのかと思ったが、直ぐにその青い短髪がソファーの所でふんずり返っているのを見つける。

「イヴァーンちゃーん。」
「うおっ。な・・何だよ!?気持ち悪ぃーな。」
「おいおい、仮にもボスが遠出の旅から帰ってきたんだぜ?そりゃねーんじゃねーの?」
「う、そうだな、悪い。」
「・・・・・あ?」

何時もならば、ここでファックだの、シットだの罵声が返ってくるところだが、あまりにもイヴァンが素直に謝るもんだから、ジャンもその琥珀の瞳を見開き、次には不思議そうにイヴァンを見つめる。

「イヴァン。」
「な・・何だ?」
「お前、変なもんでもくったか?それともどっか頭ぶつけたのけ?」
「はぁー!!?」

お、やっとそれなりの返答が返ってきた。でもまぁ、それでも普段のそれより大分大人しいものではあるのだが。

「確かにさっきから妙に、大人しいなイヴァン。」
「・・・むしろ、気持ち悪いんですが。」

ベルナルド、ジュリオと、失礼な言葉とも取れる言葉に、イヴァンは漸く口を動かす。

「うっせーな!俺だって、少し考え事くらいあらぁー!てめぇーら馬鹿にしてんのか!?」
「いや、それこそお前だから。」
「あぁ、イヴァンだからね。」
「考え事か・・・似合わない・・ですね。」
「っつ、てめぇーら・・・」

黙って聞いてりゃ好き勝手、そんな事を言い出しそうな空気にスッとその声は割り込んできた。

「で、お前らいつまでその馬鹿をかまってやがる。俺はそろそろ商工会の奴らに顔出さなきゃいけない訳だが?」

先ほどまでいつもと変わりないように見えたルキーノが少々不機嫌になってるのが、端目で解る。常のルキーノならばここで呆れ気味に溜息を吐きつつも、一緒になってイヴァンをからかうところだが、そういえば先ほどからそれが無かった。イヴァンも普段と違うなと思ったが、ルキーノも、やっぱりおかしかったりするのか?

「あぁー?誰が馬鹿だと!?誰が!?」
「お前以外に誰がいるんだよ?」
「てめぇーやっぱ喧嘩売ってんだろ!?」
「お前に喧嘩ふっかける時間があるなら、もっと別な事にその時間を使うさ。自惚れも大概にしとけ。」
「ファック!てめぇーぶっ殺されてーか!?」

そう普段ならば、ジャンとてこの二人の喧嘩が始まれば直ぐに止めるところなのだが、逆にポカーンとその様子を見つめてしまう。ベルナルドもジュリオもまた同様だ。確かに、こいつらの喧嘩は止めなきゃいけないとは思う、思うのだが。

「なんか、いつもとちがくね?ダーリン。」
「やっぱり、そう思うかいハニー?」
「・・・・奴ら二人とも頭ぶつけた・・・とか・・でしょうか?ジャンさん。」

ハハー、まぁ確かにこの空気はそう思っても仕方無いよな。なんていうかやっぱ変だろ。喧嘩は喧嘩でも、普段のギスギスした感じが無い。今までの二人ならあり得ない事だ。こりゃ、二人そろって頭打ったに一票だな。

「マジ、テメェーなぁー!クソっ。つか、元はと言えばテメェーが・・むがっ」

ガシッとイヴァンが何かを言いかけたその時、もの凄い勢いでルキーノがイヴァンの口元をその手の平で覆った。その事にもジャン達は目を丸くする。ワーオ、あんなに焦ったルキーノ初めてみたわ。

「る・・ルキーノ、どうした?」
「・・あ・・いや、何でもない。気にするな。」

ジャンが思わずと言ったように、ルキーノの名を紡ぐと本人はハッと我に返ったのか、取りつくろった言葉をジャンへと返す。いや気にするなって、アンタ冷静ぶってるが、全然取り繕えてないっての。ルキーノは暫くして、ハァーとその口元から深いため息をつくと、イヴァンを首根っこをグイッと掴んで、ズルズルと引っ張っていった。

「ジャン・・・少し、こいつに用がある。借りてくぞ?」
「あ・・あぁ、いやそれは構わないけど・・」

それよりイヴァンがちょい苦しそうですよ、ルキーノさん。そういった突っ込みを入れることも叶わないまま、ルキーノは即座にイヴァンを連れてそこを出て行った。

「えーと、んー・・・明日の天気予報ってどうなってる、ベルナルド?」
「まだ、確認はしていないが、雪・・・なんじゃないのか?季節はずれの。」
「もしかしたら・・・槍かもしれない・・・ですよ、ジャンさん。」

アハハー、ジュリオも、冗談言えるようになってきたじゃねーかと普段のジャンならば言っただろうが、残念ながらそれを言う事は叶わなかった。本気で明日は槍が降るかもしれない、そう思ってしまったのだ。










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