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★short 3




#ルキジャン
(*身体の関係はありますが恋人未満、シリアス。)

























 男ージャンカルロは、相手から与えられる快楽に喘ぎながら、その瞳を薄く開いて、自身を突き上げている目の前の男を見た。綺麗に整ったその面にツっと汗が彼の首から鎖骨、身体へと伝わりジャンの身体へと雫が落ちて彼自身のそれと混じり合う。香るムスクの香水に混じって、雄くさい匂いがジャンの鼻孔を擽りゾクリとした感覚が彼の背に走った。常は余裕の笑みを崩さぬ男が切迫詰まった声で、ジャンの名を繰り返し呼んでいる。快楽でさ迷う意識の中、情欲に色を濃くしたローズピンクの瞳が揺れているのを真正面から見つめて、ジャンは無意識に口角を上げていた。ああ、これが全部俺のものになれば良いのにと、そんな想いがふと過ぎる。我ながら女のように女々しい。男のールキーノの全てをのみ込んで、受け入れて、己のものにしたい、彼の全てを自身に呑みこんで、取り込んでしまいたいという感情は留まる事を知らずに自身の胸を過ぎていく。ジャンはそんな自分に苦い笑いを浮かべたい気分だった。

(くそたっれ。)

これではまるで、ただ一途に一人の男に想いを寄せている淫乱な娼婦のようじゃないか。行為が終わってしまえば、そこにはただのコーサ・ノストラの男が二人いるだけだ。異性同士のような甘さは無く、ルキーノと俺は夜明けを避けるように朝早く仕事へと出向き、そして何事も無かったかのように普段の二人へと戻って仕事をこなしていた。まるで何かの鷹が外れるのを恐れているかのように、互いを求めてはそれを二人は繰り返す。お互いその事については何も言わない。今更愛の言葉など、それこそ、ちんけなものにしか映らないだろう。ジャンはルキーノにその類の言葉を求めるつもりは無かった。求め過ぎたらきっと、想いが強くなりすぎて駄目になるかもしれない。制するものがなくなると際限が無くなってしまう。それは少し怖いからなと、ジャンはルキーノの屈強な腕に抱かれながらいつも思うのだ。おそらくルキーノもそうだ。そしてそれはジャンの中で確信に近かった。臆病なのは互いに同じかとジャンは薄く笑った。




 暗い意識の中、ジャンはフッとその声に呼ばれた気がして、意識を浮上させた。自身の髪をそっと撫でながら、未だ薄暗い中でルキーノはジャンを見おろしていていた。ルキーノは、ジャンが眠ってしまう前の、先ほどの記憶のままの姿でそこにいる。その身体にはバスローブも何も纏ってはいなかった。ルキーノの姿を見て珍しい事もあるもんだとジャンはボンヤリとした意識の中で思った。普段ジャンが目を覚ました時には彼は既に身支度を整えている事が多いから見なれていないんだろう。ルキーノのシノギはその質に反して意外と朝が早い。それはジャンがルキーノの仕事に付いて行くようになってから知ったことだった。だからこうして情事に浸った夜もその余韻を感じる暇も無く、ジャンとルキーノはその日のシノギをこなす為に朝早く出かける。致した後であってもあまり色っぽい話題はせず、その日のスケジュールやら何やらを朝に会話でする事が殆どだ。そういう意味ではルキーノは切り替えの早い男だと言っても良い。おそらくルキーノとて、相手がたとえば女ならばその余韻を大切にしただろうし意識もした筈だ。ルキーノの自分への扱いには納得出来るものであるし、ジャンとて別にルキーノに女扱いして欲しい訳では無い。ルキーノに女扱いされでもしたら、それこそかえって腹が立つというものだろう。

「ルキーノ・・?」
「悪い。起こしたか?」
「そりゃ、頭撫でられてれば、いくら俺でも起きるっての。」

ジャンの言葉にそりゃそうかと、ルキーノは苦い笑いを浮かべると、その男らしい手はポンとジャンの頭を軽く叩いた。けれど、その仕種は些かジャンにはぎこちないものに思えた。俺たちは無意識に互いの距離を図ってしまっていると思う。その事にお互いに気づきはしているが、ではどうすれば良いのかは解らないのだ。ルキーノの過去はそう簡単に忘れる事の出来ぬものだと、ジャンは解っているし、おいそれと突っ込むべきでは無い問題である事も知っているからだ。

「まだ、もう少し寝てろ。起こしてやるから。」
「んーでももう、目さえちまったぜ、俺。」

それでも互いに、求める心に嘘は付けずに身体を繋げている。互いの気持ちは解りきっているのに、その先の一歩が進めないのを、歯がゆいと思いながら。まったく、本当に馬鹿だな俺たちって。
ジャンは、フワッと小さなあくびを一つ、口元を隠しながらその身を起こした。

「それにアンタが起きてるのが気になって寝られね・・・ん。」

すると唐突に、ルキーノの唇が自身のそれに重なる。普段より性急なそれにジャンは驚きつつ、ルキーノのそれに抵抗する事もなく、侵入してくるそれに自身のものを絡ませた。

「っつ、ジャン・・ふ。」
「ルキ・・ん。」

互いの唾液を口内で交換しながら、相手から送られてくるそれを喉に下す。ハァーと深いそれに息を零しながら、ジャンはルキーノの何だか切羽詰まったような様子に眉をしかめた。

「ルキーノ?」
「・・寝てろよ。」
「言ってる事と、やってる事が違ってますわよ、ドン・グレゴレッティー?」

からかい気味にルキーノへ返答してやると、困ったような顔を奴は浮かべた。何なんだよ、その顔は。何だか、こちらが悪いことしたみたいな気分になっちまうだろうが。

「あんまり、見られたくなかったんだがな・・」

ルキーノは口笑を零し、ジャンが起こした身体に手を伸ばすと、その背に大きな腕を回して、甘えるように抱きついてくる。少しだけルキーノの、その行動に驚いたが、何か抵抗してはいけないような気にさせられ、ジャンはそれを受け入れた。

「ジャン、俺は見栄っ張りなんだ。」
「あぁ、知ってる。」
「・・あんまり、自分の弱さを見せたくない。」
「アンタだけじゃない。男なら、誰だってそうだと思うぜ?」

ジャンの手がルキーノの赤色の髪を撫でる。今はそれが必要な気がした。子供にするようなそれは、ルキーノに不満がられるかと思ったが、ルキーノは何も言わずにジャンにされるがままだ。

「なぁ、聞いていいか?」
「何だ?」

これは、お互いに避けてきた話題だったが、今なら聞けるような気がした。

「うざいかもしれないけどさ、そろそろハッキリさせときたいだろ?」
「ジャン。」
「あんた、俺が好きだろう?」
「っ・・・」

ビクリとジャンに抱きついていた大きな体躯が揺れる。そんなルキーノの姿を見て、ジャンはそっと肩をすくめた。

「はっきりは言わないけどな、なんかそういうのって解っちまうんだよな。」
「俺は・・」
「あぁーあーいいって別に。あんたにとっては、まだこのままが一番良いって事は解ってるし。俺はそれだけ確認しときたかっただけ・・」
「っつ、ジャン、俺は・・」
「ルキーノ?」

ガバリと、ルキーノはその身を起し、ジャンの肩を掴む。しかしその行動にルキーノ自身が驚いたのか、目を見開いてジャンの瞳を凝視していた。そんなルキーノにジャンは仕方無さそうに苦笑すると、ルキーノの髪を抱いて、自身の肩に押しつける。

「大丈夫だ。俺は待てるぜ?」
「ジャン。」
「ボスのこの俺が、そんな事くらいで、根を上げると思ったか?俺はそんなに心狭くは無いつもりだし?」

ジャンはルキーノの髪にそっと口付けた。あーなんでこうもこいつが愛しいと思ってしまうだろうか。滅多に弱さを見せたがらないルキーノが見せた僅かな甘えの感情。それにこんなにも嬉しくなっている自分がいるのだ。

「ゆっくり・・・な?」

そういってジャンが笑ってやると、ルキーノはジャンの肩にその頭を預けながら、ありがとうと小さく呟いた。







三千世界の鴉を殺し主と朝寝がしてみたい。
(けれどそれはまだ夢の中で)









END
【補足】
タイトルの「三千世界の鴉を殺し主と朝寝がしてみたい。」は、都々逸(どどいつ)の詩の一つです。



あきゅろす。
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