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short 2




#ルキーノ+ロザーリア+イヴァン







 
その日の仕事回りを終えて本部へと戻ってきたルキーノは、ふとロビーのソファーで座っている見覚えのある少女を見つけ、報告の為にベルナルドの仕事部屋へと向けていた足を一端止めた。

(あれは、確か・・カッヴァッリ顧問の・・・。)

 その少女−ロザーリアは、CR:5の元筆頭幹部であったカッヴァリ顧問の孫娘だ。
 顧問はその少女の存在を立場を踏まえて、俺を含めた幹部たちにもその存在は知らせていなかったが、隠し通すには自分たちは顧問と距離が近すぎた。
 自然と彼女の存在は薄々知る事となったが、その事を顧問には伝えていない。
顧問も自分たちに隠しているようであったから、自分達もわざわざ言うつもりも無いと、あえて彼女の話題に触れる事は無かった。
 ロザーリアはその体躯を見合わない大きさのソファーへと身を沈め、一人飲み物を口に運びながら誰かを待っている様子だ。
 周りには護衛の気配は無く、彼女は一人で此処にいるのだという事を悟らせる。
何とも物騒な状況にルキーノは眉をしかめる。確かにこの場所は本部という事もあり、他の場所よりは安全と言えばそうであるのだが、このまま黙って見過ごす訳にもいかなかった。立場ある小さな少女が護衛も付けず一人でいる事が問題だ。
 ルキーノは少女の方へと足を向け、歩み寄る。自分へと向かってくる気配に気づいたのか、彼女は別の方向へと向けていた視線をこちらへと向け、大きな瞳を不思議そうに揺らした。

「ボンジョルノ、シニョーラ。」

 ニコリとルキーノは少女に対して、怖がらせないようにと、なるたけ柔らかい声をかけた。彼女はルキーノの態度に自身もにっこりと口元に微笑みを浮べた。

「こんにちは、シニョーレ。もしかして。お爺様の・・」
「えぇ、突然申し訳ありません。私はルキーノ・グレゴレッティと申します。いつもお爺様にはお世話になっております。」
「あら、貴方がルキーノさん。幹部の方ね。お爺様から時々お名前をお聞きしています。」
「光栄ですシニョーラ。」

 そう口にすると、その長身を屈め、彼女に対して頭を下げる。彼女もルキーノの様子にホッと小さな肩を降ろした。ルキーノは顔を上げ一通りの挨拶を終えると、頭に浮かぶ質問を少女へと問いかける。

「失礼ですが、お嬢様はこちらへは御一人で?それとも顧問と待ち合わせでも?」
「いえ、こちらには一人できたの。お爺様には内緒で。」

 学校帰りにスクーターで、と言葉を紡いだロザーリアにルキーノは思わず苦笑した。流石、カッヴァリ家の孫娘と言ったところだろうか。なんというお転婆娘だ。

「では、何故このような所に?」

 顧問がこの事を知らないと言うのなら、尚更彼女を放って置く訳にもいかないだろう。本来ならば、彼女のような少女がCR5の本部へ一人で来るという事は無い。ならばそれには目的があるという事になる。

「えぇ、イヴァンに会いにきたのだけれど、ルキーノ、彼、今処にいるかご存じ?さっきから待っているのだけど、来なくて・・・」

ルキーノは彼女の言葉に、あぁ、そういえばイヴァンは昔、彼女の送り迎えの運転手をしていたんだったか?と、記憶の奥底からその事実を引っ張りだす。
 最初はこの可憐な少女とあのイヴァンの組み合わせに何とも、意外だなと思ったが、あれでいてイヴァンは子供には甘い所があるし、そのような付き合いがあったのならば、彼女が彼に会いにくるのは不自然なことでは無いなとルキーノは納得する。

「いえ、イヴァンは・・・確か仕事で、深夜まで戻ってこない予定ですが?」

 ルキーノは昨日の幹部会議でのイヴァンの言動を思い出す。確か密造酒の取引を仲介してきた者がいたらしく、探りを入れる為に、イヴァンは朝から部下共と動き回るっている筈だ。奴はその豪快な仕事ぶりに似合わず、進める際は慎重な遣り口を取る。儲かるならば何でもやってみる姿勢である為か、時に損をする事はあるものの、案外イヴァンの仕事ぶりはCR:5にとって利益を生む事が多い。アメリカ系でありながらも、彼のそういう所をルキーノは認めていたし、奴の率いる兵隊は貴重な戦力なのだ。だからといって、自身と奴との相性とは別問題ではあるのだが。あの直情型な性格と態度はどうにかなればルキーノとてイヴァン相手にいちいち喧嘩腰になることは無いというのに。

「そうなの。彼、遅いのね。今日なら会えるかもと思ってたのに。」

 目に見えて落胆したロザーリアの様子に、居心地の悪さを感じる。常に女性には優しくをモットーとしているルキーノにとって、あまり異性が落ち込む姿は気持ちの良いものじゃない。それが小さな少女だったとしても同じだ。ルキーノはロザーリアを見つめながら、二年前に、命を落としてしまった娘のアリーチェの事を思い出した。だからなのか余計に、この少女が落ち込んでいる姿が心苦しかった。
ルキーノはふと口元に笑みを乗せた。

「・・宜しければ、私がイヴァンに貴方との時間を作るようにとお伝えしましょうか?」
「え?」

一瞬、つい言ってしまったことに後悔の念を感じたが、直ぐにかき消す。
自分の女子供への甘さには自覚はあるつもりだがったが、やきが回ったものだ。
自身とイヴァンの相性云々はこの際考えない事にする。ルキーノの言葉にロザーリアの瞳がぱっと輝くが、それは直ぐに暗く落ちる。

「けど、イヴァン忙しいのでしょう?私の為に、仕事を邪魔出来ないわ。」

確かに、あいつを仕事以外の事で時間を空けさせるなんぞ、よっぽどの理由が無い限り本人を納得させるのは難しい。誰よりも、強要されるのを嫌うだけあって素直に聞いてくれるとは思わない。しかも、俺の言うことなら尚更反発されるのは目に見えている。見えているが、一度口に出してしまったものを取り消すことは己の沽券に関わる。

「大丈夫です。お任せくださいシニョーレ。」

ルキーノは口元に女性がコロッといきそうな程の柔らかい笑みを浮かべ、さてどうするかと考えを巡らせるのであった。









「おい。ルキーノ。」
「何だ?」
「テェメー・・・こりゃあいったいどういう事だっ!?」
「うるさいぞ、少し黙っとけ。」

ルキーノはイヴァンへとピシリと吐き捨て、胸元から煙草を取り出した。煙草を口になえ、重い息と共に白い煙を吐き出す。自身の横で今にも自身に噛みついてきそうな程不機嫌なイヴァンへと顔を向ける。

「言っただろう、話があるってな。」
「話だけなら、その場で言やーいいだろうが!何でてめぇーと仲よくドライブにしなきゃならねぇーんだよ!」
「ストロンツォ。ギャーギャー煩い。耳元で喚くんじゃねーよ、イヴァン。」
「はぁあぁあああ!?ふざけんな、何様だてめぇー!」

 シットやらファックやら罵声を繰り返すイヴァンにルキーノは呆れ気味に息を吐き出し、煙草の煙を肺へと循環させた。もう少し、その口の悪さを直せと思ったが、自身も奴とそれ程大差ない口の悪さな為、あまり強くは言えなかった。

「いきなり連れ出したのは悪かったが、お前だって悪い。」
「んだとっ!?訳わかんねーっつの!」
「テメェーのシノギもいいがな。少しくらい他の事にも目を向けろって事だ。」
「はぁぁー?他って、何だよ!?」

 頭の上に疑問符を浮かばせるイヴァンを横眼に、ルキーノは本当にこいつは馬鹿なんじゃないだろうかと、ジャンでは無いが思ってしまう。
確かに、こいつの立場的にシノギに精を出すのも解る。イタリア系では無いイヴァンが、組織において疎ましく思われている事は周知の事実だ。
非イタリア系でない者たちが報われる為には、この組織を根本的に変えていくしか無い。それをする為には、イヴァンが非イタリア系の「憧れ」となる存在でい続けなければならない。
しかし、それに構い過ぎてイヴァンは周りに助けてくれる存在がいるのだという事をいまいち解っていない所がある。ジャンがボスとなってから、昔よりは緩和したものの、それも完璧にという訳では無い。

(だから、馬鹿なんだお前はな。)

そんな風にルキーノが思ってる事も知らず、イヴァンは騒ぐ事に疲れたのか、
もしくは自分がこれ以上騒いでも無駄だと馬鹿なりに解ったのか、先ほどのように喚くことはせずに、不機嫌そうに座席にふんずり返って煙草をふかしている。
それも昔に比べれば随分丸くなったものだ。それもきっと、ジャンの存在がこいつを変えたんだろう。全く、我らがカポはとんだ大物だ。ルキーノは車が走る方向に目をやると、目的の場所が見えてきた。自身が吸っていた煙草を消し、座席に寄りかかっていた身を起す。

「おい、ここ・・」

イヴァンも自分たちが向かっている場所に気が付いたのだろう、ポカンとした表情を浮かべ、次に戸惑ったようにルキーノに視線をやる。

「あぁ、カヴァッリ顧問の屋敷だよ、俺たちが向かってるのは。」
「呼び出しか?」
「いや、ここを待ち合わせにしただけだ。」
「あぁ?」

 訳が解らんと、イヴァンは訝しげにルキーノを見ていたが、あえてルキーノは無視をし、運転手が車を止めると同時にそこから降りる。イヴァンもそんなルキーノに不満げに眉をしかめたが、場所が場所だけに大人しくルキーノと同じように車を降りた。
その時だ。

「イヴァン!」
「うおっ!何・・って、ロザーリア!?」

屋敷の戸が開け放たれ、そこから小さな足音と共に、それはイヴァンへと飛び込んで来た。

「本当に、来てくれたのね!嬉しい!」
「ちょ、お前どうし・・ルキーノどういうこったこれは!?」

そんな風にルキーノへと疑問をぶつけるイヴァンだが、ロザーリアの前だとあまり強い態度で出れないのか、いつもの勢いが無かった。
なんだかんだで、子供に甘いイヴァンにルキーノは思わず笑みを浮かべる。

「お前の予定は午後からロザーリアお嬢様とデートって事になってる。ってな訳で、彼女は任せたぞ。お嬢様に何かあったら、許さんからな。」
「はぁー!?何言って、それに俺はこれから取引が・・」
「あぁ、それは俺が言って、ベルナルドに手を回して貰った。心配はいらん。」
「てめぇー何勝手に。」

今にも吠えだしそうなイヴァンの肩に手を回し、ロザーリアと少し距離を取ると、彼女に聞こえないように声を抑える。

「お嬢様、寂しそうにしてたぞ。この頃イヴァンに会えないってな。」
「・・それが、どうしたっつーんだよ。」

関係ねぇーだろうがと、罰の悪い思いが少しはあるのか声は弱い。

「だから、さっきも言っただろ?お前はもっと他にも眼を向けるべき所があるってな。」
「どういう・・」
「つまりお前にも、ロザーリアお嬢様のように大切に想ってくれてる奴がいるって事に気づけってことだ。勿論俺たちも含めな。だからお前はジャンの奴に馬鹿馬鹿言われるんだぜ?」
「・・・・。」

ルキーノの言葉に、イヴァンは押し黙って振り返り、自身を見上げるロザーリアを見る。ロザーリアはやっと自分を向いてくれたイヴァンに本当に嬉しそうに笑みを浮かべていた。やれやれとルキーノは息をつくと、ロザーリアに向ってその頭を下げる。

「では、お嬢様。今日のイヴァンの予定はこちらで調整しておきましたので、好きなようにお過ごし下さい。」
「わかったわ。ありがとう、ルキーノ。」

 そういって、ルキーノへと可愛らしい笑顔で頭を下げたロザーリアにルキーノも笑みを零した。 

 ルキーノは二人から離れ、自身がきた車へと乗り込むと、運転席にいる部下に本部に戻るように指示を出し、座席に腰を沈める。
ロザーリアは自分に礼を言ってくれたが、本当はそんな言葉言われるべきではなかったのかもしれない。
これはロザーリアでもイヴァンの為でも無い。自分がしたかったから、した。
ロザーリアを自分の娘と重ねていた自分が、あの子の笑顔を見たかっただけ。
イヴァンにそれらしい理由で言い繕っても、所詮は自分の為なのだから。ルキーノは自嘲気味にその口元を皮肉気に上げる。こんな事、ただの自己満足にしかならないだろうに。

「グレゴレッティー隊長?どうかなさいましたか?」

 そんな風に尋ねてきた部下にルキーノは何でもないように返す。そして流れる景色へとその目線をやり、何を見るでも無く、ルキーノは本部に帰るまで、ただ遠くを見つめていたのであった。















少女






END




あきゅろす。
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