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記念リクエスト
6
「うっ、うぐぅっ……ま、待て、まだ……」
 
牟阪の形のいい眉が苦しげに歪み、綺麗な流線型を崩す。空を泳いでいた視線をネームレスの方へ向けると、再び腰を打ちつけているのが目に入った。

「もう、できない……やめてくれ、うっ、んぁっ!」
「牟阪さんは自分で思っているより変態ですから、大丈夫ですよ。ほら、イったばかりなのにまた僕のモノを締めつけているじゃないですか」
 
ネームレスの言葉通り、奥をグリグリと刺激されるたび、牟阪は無意識のうちに中を締めつけていた。快感にならされた体は、淫乱と罵られても仕方ない。

「……あぁっ、やめっ、うぁっ」
 
低くうめく声が、卑猥な物音とともに金庫の中でこだまする。固く閉じられた金庫の扉はいつまでも開く様子を見せず、牟阪はネームレスにいつまでも嬲られ続けた。

体も、心も、思考さえも、ネームレスの思うがまま。普段の牟阪なら耐えられない状況も、快楽漬けにされた頭では抵抗しようとすら思い浮かばなかった。




「そろそろ潮時ですね。牟阪さん、あなたさえ良ければ僕と一緒に来ませんか?」
 
ようやく牟阪を自由の身にしたネームレスは、横たわったままピクリともしない牟阪へ期待を込めながら尋ねた。しかし、牟阪はかろうじて繋ぎ止めていた理性でもって、小さく首を振るとそのネームレスの誘いを断った。

「……そう言うと思っていましたよ。今日のところはあきらめますけど、いつか絶対あなたの心を盗んで見せます。あの絵のようにね」
 
ネームレスは名残惜しそうにしながらも立ち上がり、本来の狙いである絵画へ歩み寄った。スラリと伸びたその手は、繊細な手つきで額縁をつかみ、慎重に布で包んでいく。

「待て、お前……に、逃げるな」
 
汚れきった体を引きずり、牟阪はネームレスの足に組みついた。薬が抜け始めたとはいえ、さっきまで犯され続けた体は限界を超えているはずなのに。まさに今の牟阪は執念の塊だった。
 
だがどんなに気力を振り絞っても、無理なものは無理なのだ。弱々しく握っていた手は簡単に振り払われ、ネームレスを捕らえようという決心は粉々に打ち砕かれる。

「牟阪さん、僕はいつでもあなたのことを待っていますよ」
 
ネームレスはそれだけ言い残すと、金庫内に置かれていたスチールのラックを引き倒し、その下にあった床へ手を伸ばした。

床のタイルだと思っていたそこは、ちょうどふたのように剥がれ、その下には深い穴が広がっていた。どうやらネームレスがこの屋敷の持ち主になっていた間に、こっそり脱出口を作っていたようだ。
 
ネームレスの姿が穴の中へ消えるのを苦々しげに見届けた牟阪は、ようやく体に力が戻り始めると、おもむろに起き上がって、まずは乱れきった服装を整えた。汗がにじみ、穴からは大量に注ぎ込まれた精液があふれ出している。その不快感は言い表せないほどだった。

「何が心を盗むだ、クソが!」
 
行き場のない怒りを吐き出すように悪態をつく牟阪は、よろよろと立ち上がってあたりを見回した。あるべき場所にない絵画の存在が、なおのこと牟阪の神経を逆撫でする。

近くにある物へ無差別に蹴りを入れそうになる衝動を抑えながら、牟阪はさらに視線を巡らせると、ネームレスに取り上げられていたインカムなどの所持品が放置されているのに気づいた。
 
すぐにそれを手に取った牟阪は、インカムで外部へ連絡を取ろうとする。その間も頭の中ではネームレスに弄ばれていた時のことが鮮明に浮かんでいた。身を焦がす羞恥心に牟阪は無線を繋ぐことを躊躇してしまうが、仕事に対する使命感が嫌でも牟阪の手を突き動かした。

「牟阪だ、聞こえるか?」
「あっ、牟阪さん! 大丈夫ですか!?」
 
聞こえてきた木好の声が、ぼんやりしていた牟阪の頭を揺さぶる。

「だ、大丈夫だ……たぶん」
「本当ですか? 一体中で何があったんです?」
「な、何がって、見てたんじゃないのか?」
「それが、宇唐木さんが金庫の中に入ってから、急に監視カメラの映像が映らなくなったんですよ! 金庫を開けようにも、開けられる人は中にいる宇唐木さんだけですし。あ、でも中からなら簡単に開けられたはずですね。牟阪さん、金庫の扉開けてもらってもいいですか?」
 
予想外の木好の言葉に、牟阪の思考は一瞬だが停止する。今まで散々苦しめられ、思い悩んだあの監視カメラが、実は一切何も映していなかったという事実に唖然とするばかりだった。

ネームレスはそのことを知っていながら牟阪を弄んでいたはずだ。ふとそのことに思い至った牟阪は、沸々と煮えたぎる怒りを腹の中に抱えながらも、どうにか平静を装おうとした。だが、怒りに震える手はすでに、金庫の壁を力の限り殴りつけている。

「あのー、牟阪さん……ひょっとしてなんですけど」
 
異変を感じ取った木好は、気まずそうに声を小さくし、気が進まない様子で牟阪の様子をうかがった。

「ああ、そのひょっとしてだ」
 
極力声を抑える牟阪は、内にネームレスへの復讐心をたぎらせながら、一言だけつぶやいていた。




夜空に輝く満天の星空も、ついえることのない都心の光の群体の前では、等しく価値を落としている。もう夜も更けようかという時間だが、そのビル群の光は一瞬たりとも消えることはなかった。
 
そんな光から逃れるように、一台の黒い車が夜道を颯爽と駆け抜けていく。旧式だがしっかりとした走りをするその車は、運転手の確かな腕により、性能を最大限引き出されていた。

「せっかく牟阪さんのために助手席開けてるのになあ」
 
誰も座っていない助手席に一瞬目をやり、寂しそうにつぶやくのは、まだ若い青年だった。目元こそ隠されていないが、その柔らかい物言いは確かに怪盗ネームレスのものだ。
 
ネームレスはもはや仮面で隠されていない目元を眠そうにこすると、まっすぐに目の前を見据えながら、最後に見た牟阪の姿を思い描いていた。執拗に犯されていた時の情けない泣き顔もいいが、やはり最初や最後に見せた悔しそうな顔もいい。

牟阪のことを考えるたび心惹かれ、胸に走る甘い痛みを感じながら、ネームレスはどこまでもまっすぐに突き進んで行った。

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あきゅろす。
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