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短編

「兄さん、山荘を出て行く時に、五人くらい倒れている人を見たんだけど、大丈夫だったの?」

兄さんの運転する車の後部座席に座って、僕は心配しながら尋ねた。

もっとも、心配なのは兄さんの方ではなく、その倒れていた人の方だったが。

「ちゃんと手加減したって。俺だって何も考えなしに殴ってるわけじゃねえんだよ」
「そうだよね。昔から相手が命乞い始める時を見計らって、駄目押しの一発を入れてたからね」

こうすれば完全に刃向う気がなくなるんだ、と兄さんは昔僕に言っていた。

兄さんは乱暴なところもあるけど、僕はそんな兄さんが大好きだった。

昔から僕のことを助けてくれる兄さんのことが。

しかし今日は色々なことがあり過ぎて、ものすごく疲れてしまった。

眠気に目を塞がれそうになりながらも、ふと窓の外を見る。

外には明かりを灯したビルの大群が見えてきて、車は街へと入ったようだ。

僕はようやく助かったということに安堵し、そして兄さんがいるという絶対的な安心感に、つい緊張の糸も切れてしまった。

「兄さん」
「なんだ? 腹減ったのか」
「ううん、あのね……僕兄さんのこと、大好きだから」

僕の言葉に兄さんは何も言わず、前を見つめ続けていた。

後部座席からは見えないが、僕にははっきりと分かっている。兄さんの嬉しそうにほころぶ顔が。

その証拠に車を運転する兄さんの肩は、小刻みに震えていた。

「栄明……俺もそ、その、お前のこと……だ、大事に思ってるからな」

決して好きだとはっきり言わない兄さんの、ぶっきら棒な物言いが、たまらなく愛おしい。

不器用な兄さんのうしろ姿を眺めながら、僕は幸せな気持ちで目を閉じた。

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あきゅろす。
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