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短編
8
顔の数センチ先を猛スピードで触手が通り過ぎていく。直撃すればただでは済まないだろうが、少しも臆することなく戸羽は攻撃し続ける。
 
鎧が身体能力を引き延ばしてくれるのか、これだけの速さの攻撃も見切ることができた。さらに攻撃手段の銃も十分過ぎるほどの威力を誇り、直撃すれば触手をまとめて破壊することができた。
 
これならいける、戸羽は勢いのまま突っ込むとネアモネの本体の至近距離で何発もの銃弾を撃ち込んだ。

「これで終わりだ!」
 
触手が体に巻きついてくるが、攻撃の手を緩めない。急所と思わしき場所に十発目の弾丸を打ち込んだ時、絡みついていた触手が力なく地面へと落ちていった。
 
事切れたネアモネはもはや悪態をつくこともできず伏せると、体はまるで影に飲み込まれたように黒くなり、闇の中へと溶けていく。
 
ネアモネの消失に気を取られることなく、戸羽の照準は即座にメランへと向いた。こちらを高みの見物していたメランは、戸羽がネアモネを圧倒していたことに驚いた様子を見せていた。
 
今なら隙をつけるはず、と戸羽は弾かれたように駆け出し銃口を向ける。

「おっと、撃ちまくったらボルテックスにも当たるぞ」
 
メランは戸羽の動きをいち早く察し、水崎をつかんで自分の前に差し出すと、盾のように扱った。
 
思わず戸羽は立ち止まり、鎧の下でギリギリと歯ぎしりをした。

「卑怯な奴っ、水崎を放せ!」
「そう言うなよ。お前、思ったより強いみたいだからちょっとは見直したんだぜ」
「だったら水崎を解放して俺と正々堂々戦ってみろよ」
 
不敵に笑うメランは頑なに水崎を放そうとはしない。このままでは水崎を連れて逃げる可能性もある。

「戸羽さん! 俺のことはいい、こいつを倒すんだ!」

水崎の言葉に戸羽は決心がつくと、下していた銃を再び構え、躊躇なく引き金を引いた。

「こいつ本当にやりやがった……!」
 
猛然と襲い掛かる銃弾を前に、メランは水崎を盾にして身を守ろうとする。しかし、まっすぐに飛んでいたはずの銃弾は、右に大きくそれて水崎を傷つけず過ぎ去っていった。
 
物理法則を完全に無視した動きはなおも続き、大きくカーブを描いて油断しているメランの背中へ命中した。

「ぐあっ!? クソッ、弾道を曲げられるのか!」
 
メランの体はかなり頑丈なようだ。弾丸が命中したにもかかわらず致命傷には至っていない。
 
戸羽は攻める手を止めず、弾道が読めないよう四方八方に乱れ撃ちした。

「そう何度も同じ手は食らわない」
 
銃弾があらゆる方向から迫りくる。蛇行する弾を避けるのは至難の業だが、メランは神経を研ぎ澄ませ被弾から逃れようとしていた。
 
そのためメランの意識の大部分は戸羽からの攻撃に向けられていて、小脇に抱えた水崎はほぼ無防備な状態になっている。
 
戸羽はその隙を見逃さず、攻撃の手も緩めることなく、背後にいるマキへそれとなく目配せをした。
 
マキは戸羽の意図を汲み取ると、即座にシャドウの姿へ変化した。大きな翼を羽ばたかせ急上昇する。そして一気に降下しながら水崎へ狙いを定め、油断していたメランの腕からかっさらった。

「何!? こざかしい奴め!」
 
水崎を奪われたメランは憎々しげに吐き捨てるが、もはや二人は手の届かない上空へ退避していた。
 
メランから離れ、攻撃も届かない上空でせわしなく翼を羽ばたかせるマキは、その場にとどまるように飛んでいた。抱き締めた腕の中には水崎もいる。
 
触手で縛られ、着衣は乱れたままだが、目立った怪我もなくマキは心底安堵した。

「想市、大丈夫だったか?」
「ああ、なんとか。それより戸羽さんの応援に行かないと」
「無理するな。まずはその触手を剥がそう」
「大丈夫だ。締めつけも弱くなってきてるから、これくらいなら自分で引き剥がせる。俺が鎧を装着したらマキはあいつの上に俺を落としてくれ」
 
まさかこの状況でまだ戦う気かとマキは面食らったが、意思の固い瞳で見つめられると了承するしかなかった。

「分かったけどまた捕まったりするなよ」
 
マキの言葉に力強くうなずき、水崎は腕輪をはめた右手を強く握りしめてつぶやいた。

「起動!」
 
体が黒い装甲に包まれていく。鎧が力を与えてくれるのか、脱力していた四肢にもエネルギーがみなぎり、体中を熱気が満たしていった。

戦う準備が整い、水崎は下で行われている戦いの様子をうかがった。
 
戸羽は相変わらずメランと距離を取り、自由に弾道を変えられる銃で戦っている。堅実な戦いぶりにホッとしたものの、メランの方は段々と戸羽の攻撃パターンが読めてきたようで、徐々に距離を詰めていた。
 
近距離での戦いになれば戸羽が圧倒的に不利だ。水崎はマキに合図するとメランの真上で体を放してもらった。
 
支えを失った体がふわりと宙を舞い、重力に引き寄せられ真っ逆さまに落ちていく。
 
水崎はすぐさま体に力を込め、絡みついていた触手をバラバラに引きちぎると、背中のホルダーから刀を抜いた。態勢は極力空気抵抗を減らした状態にして、メランの元へまっすぐに落ちていく。
 
音もなく、気配もなく、上空から水崎が狙いを定めて落ちてきていることなど、戸羽との戦いに夢中になっているメランは気づく由もなかった。
 
今が最大のチャンスだ。水崎は刀を構え、全神経を集中させ一閃を放つ。
 
かまいたちのような衝撃波が空を切り裂いた。目視することすら可能な空間の歪みがメランを直撃する。

「ぐあああっ!」
 
メランから絶叫が上がる。その場のアスファルトは割れ、頑丈なはずのメランの体にも大きな刀傷ができ、生々しい傷口からは青い血が滴っていた。

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あきゅろす。
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