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短編
7
「久しぶりじゃん、マーキアル。やっぱりお前が鎧持ち逃げして人間なんかに肩入れしてたんだな」
 
メランはそのカラスのようなシャドウをマーキアルと呼び、旧知の仲のような親しみと憎しみの混じった感情を向けてきた。
 
二人の間には因縁めいたものがあるようだ。マーキアルもメランを見てただならぬ形相をしている。

「肩入れじゃない。僕はただ影の中で生きるという本分を忘れ、日の当たる地上へ侵攻するお前たちを止めたいだけだ」
「フッ、弱いくせによく言うよ。何が本分だってんだ。強者が弱者から奪うのは当然の理、お前みたいな雑魚が止める資格なんてないんだよ」
「そういう傲慢さが命取りになるんだぞ。それにお前たちと戦うのは僕だけじゃない、想市やここにいる人間だって戦う術を持ってるんだ」
「へー、そこの弱そうなのが? 面白いじゃん、待っててやるからやってみろよ」
 
マーキアルは戸羽の方へ振り向き、腕輪のようなものを強引に渡してきた。
 
訳も分からず受け取ったそれはどこかで見たような形をしていて、戸羽はすぐに思い出した。この腕輪は、今、水崎の腕で輝いている、あのボルテックスの鎧に形を変える腕輪と同じものだ。

「な、なんで俺にこんなの渡すんだよ? これってあの鎧みたいなのになる腕輪だろ?」
「そうだ。お前なら想市みたいに鎧を纏ってあいつらと戦えるはずだ」
「いやいや! 絶対無理に決まってるだろ! 俺ただの一般人だぞ、それをあんな化け物みたいな奴等と戦えなんて……」
「いいからやれ! 想市を助けたくないのか!」
「助けたいけど……でも俺が戦うなんて……」
「ああもう! いつもの根拠のない自信はどこに行ったんだ!」
 
マーキアルは何故だか戸羽のことを普段から知っているよな口ぶりだった。だがそのことに戸羽が疑問を抱くよりも早く、マーキアルは姿を変えた。
 
大きな翼、くちばし、鉤爪のような手足が縮んでいく。

戸羽と同じくらいあった体は瞬く間に小さくなり、戸羽の肩ほどの背丈しかない少年の姿に変わった。愛らしく利発そうなその少年は、行きつけのカフェでいつもニコニコ笑って自分を出迎えてくれるマキだった。
 
思いもよらぬ人物が目の前に現れたことで、戸羽はますます混乱した。何故マキがこんなところにいるのか、そもそも人間ではないのか、疑問があふれてきて考えがまとまらない。

「マキ君、なんだよな? な、なんで君がシャドウの姿に?」
「そんなことよりこれをつけろ。戦い方は鎧が教えてくれる……頼む、僕だけじゃ想市を救えないんだ。戸羽さんならきっとできる」
 
マーキアルもといマキは横柄な態度を改めると、いつもの面影をにじませながら戸羽にすがってきた。
 
自分よりも年下に見える少年に頼りにされ、戸羽は首を横に振ることはできなかった。不安を抱きながらも、押しつけられた腕輪を左手にはめる。不思議と頭の中に鎧に関することが流れ込んできて、次にどうすればいいのかもおのずと理解した。
 
左腕を前にかざし、浮かんできた言葉を叫ぶ。

「起動!!」
 
腕輪が溶けだし、身を包んでいく。燃え盛るような赤の装甲。腰のホルスターに収められた銃。
 
戸羽は真っ赤な鎧に包まれた自分の姿が信じられなかった。

「うわっ、本当に変身した!? でも赤ってちょっと派手じゃないか?」
「驚いてないで行け! 先手必勝だ」
「分かってるって、このストリームに任せろ!」
 
ストリーム、それがこの鎧とそれを纏った者に与えられる名だった。鎧のことも、戦い方も、すべて心と体で理解できる。戸羽は混乱することもなくすべてを受け入れ、駆けだした。腰に下がったホルスターから銃を抜き、構えたと同時に引き金を引く。
 
何度も何度も、銃声とともに銃弾が打ち出され、まっすぐにメランへと向かって行った。

「……っ!? 飛び道具なんて聞いてないんだけど」
 
メランは咄嗟に身を引いて迫りくる弾丸を避ける。

「へへ、弱っちい人間のくせによくやるな。だが相手になるのは俺じゃないぜ」
「メ、メラン! どうしてあの人間にみすみす鎧を使わせた……ぐああっ!」
 
メランが猶予を与えたことで、戸羽がストリームになってしまったことをなじろうとしたネアモネだったが、言い切らぬうちにメランの爪によって触手をいくつか引きちぎられた。
 
ちぎられた触手はどれも水崎を拘束していたもので、自然と支えを失った水崎の体は地面へと落下する。

「な、なんてことするんだ! 俺の触手をちぎりやがって、一体どういうつもりだ!」
「お前の触手なんかすぐに生えてくるだろ。それより、俺の代わりにあのストリームとかいう奴の相手をしろ」
「なんで俺がそんなこと」
「いいからやれ、小手調べって奴だよ」
 
格上のメランに命令された以上逆らうわけにもいかず、ネアモネは再生し始めた触手を伸ばし、戸羽へと向かって行った。長い触手は鞭のようにしなり、空を切り裂く。
 
直撃すればただでは済まないだろう。だが戸羽は極めて冷静に状況を見極めると、あえてネアモネへ近づき無数の触手を避けながら銃を撃ちまくった。

「くっ、戸羽さん! 無茶はするな! 危険そうならすぐに引いて態勢を立て直すんだ」
 
切断されてもなお体を拘束し続ける触手に自由を奪われたまま、水崎は心配そうに叫ぶ。そんな何もできない水崎をメランは軽々と抱え上げた。
 
何がおかしいのか薄ら笑いを浮かべ、柔らかい体が切れない程度に爪を食い込ませる。少しでも身じろぎすれば体を切り裂くと脅しているようだ。

「あの人間も思ったより面白そうだな、お前ほどじゃないけど。あれなら連れ帰って俺専用のペットにしてやってもいいかな」
「ふざけたことを……! 戸羽さんをお前の手には渡さない」
「大口叩いたとこでお前には何もできないだろ。あいつだってどうせすぐにやられるよ」
 
メランには鼻で笑われたが、水崎の気持ちは揺らぐことなく、戦う戸羽をまっすぐに見つめている。きっとこの状況を覆してくれる、確信めいたものが水崎にはあった。

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